第475話 判断/ジャン

「どうして、俺と会って欲しい人物の詳細を話せないんだ?」

一番気になることを単刀直入に聞く。ルーカは困った表情でしばらく考え、こう答えた。

「それを言ってしまうと、おそらくジャンさんはその方と会ってくれないからです」

その言葉で大方の予想ができた。この国で俺が会いたくないと思っている人物は多くはない。

「だったら話を変えよう。君はどうして、その人物と俺を合わせようとしているんだ」

「私にとって、その方は恩人だからです。だから……」

その後は何か話しにくそうにモジモジするだけで話が進まなくなった。しかし、彼女に悪意や妙な策があるわけではなく、純粋な思いからの行動だということはわかった。


「まあ、いいだろう。会ってやるから案内しろ」

「ほ、本当ですか!」

「だが、その後、話が弾む保証はしないぞ。気に入らないと思ったらすぐに帰る」

「はい! 宜しくお願いします」


俺は迷ったが会うことを選択した。俺が会いたくないと思い、しかも相手も俺がそういう気持ちだと理解している人物……面会する人物は、まず間違いなくあの男だ。


本来ならルーカの予想通り断る話だが一点だけ気になることがあった。それはルーカがその男を恩人だと言ったことだ。俺の知るその人物は、他人に恩を売るような人物ではない。自分のことしか考えない現実主義者……冷酷で自分の息子すら見殺しにした男……まあ、いい、言いたいことがあるのは事実だ。会ってやろうじゃないか。


「しかし、ジャン、その人物に会いにいくということは外出するということだろ? いいのか、外にでると都合が悪いと言っていただろ?」

剣術指南殿が言うようにあまり外をウロウロするのは都合が悪いのは間違いない。頭で状況などを踏まえ、対策を練り出しこう答えた。


「行動を最小限にして、変装して移動すれば問題ないと思います」

「うむ、そうか、ならば俺も出掛ける準備をするとしよう」

「ご一緒するのですか?」

「当たり前だ。お前に何かあったら勇太に顔向けできんからな」

ほぼ敵地であるこの国で行動するには危険が伴うのは間違いない。剣術指南殿が一緒に来てくれるのは心強いが、ムサシがライダー不在になるのは都合が悪い。剣術指南殿に素直にそう伝える。


「そう言っていただけるのはありがたいですが、ムサシがライダー不在になるのは危険です。もし、魔導機部隊の襲撃を受けたら……」

「なあに、ムサシの防御能力はラフシャルによって大幅に強化されているそうだ。並みの魔導機軍なら十分対応できるだろう。留守はエミッツに任せれば問題ない」


確かに剣術指南殿の言うように、報告に聞いている今のムサシの対魔導機能力なら一個大隊くらいの魔導機部隊の攻撃にも耐えられるかもしれない。この国の攻撃能力を考えれば、確かに問題なかもしれない。


「わかりました。それでは剣術指南殿も一緒にきてください」

「うむ、護衛は任せておけ」


エミッツ以外にもムサシには30名ほどの搭乗員がいる。全員に有事の際の指示を与えて、俺と剣術指南殿はルーカの言う俺に会いたいという人物の元へと向かうことにした。

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