第403話 記憶

気が付くと、そこはどこかの家の中だった。こじんまりとした小さな民家のようで、部屋の中央にテーブルが置かれている。そのテーブルには一人の少女がいて、彼女は一心不乱に何かを描いていた。


何を描いているのか気になり、その少女に近づく。かなり近づいても少女は俺に気が付いていない。どうやら俺のことは見えていないようだ。


少女が描いていたのは絵だった。題材は家族のようで、少女、それと父親と母親らしき人物が描かれている。少女の表情は満面の笑みで、幸せな思い出を思い出しながら描いてるのだろう。


ドンッ! 大きな音を立てて扉が開かれる。そしてわらわらと兵士と思われる人間が何人も部屋に入ってきた。少女は恐怖の表情に変わり、奥に逃げようとした。


「そいつが適正者だ! 捕らえろ!」


指揮官らしき人物がそう叫ぶ。大人が、幼い少女を捕らえるのに苦労はないようだった。腕や頭を押さえられて少女はすぐに拘束された。


「何してんだ!! 嫌がってるだろう!」

あまりに理不尽な行為に俺は我慢できなかった。そう声をかけて少女を捕まえている兵士にを振り払おうとした。しかし、伸ばした手は兵士に触れることもなく空しく空を切る。


姿すら見えていないようで、俺は完全に無視されている。触れることもできないので何もできない。怒りに震えるなか、少女は外へと連れ出されていく。何もできないのはわかっていても、追いかけないわけにはいかなかった。


俺は急ぎ足で、少女を連れた兵士が通った家の入口をくぐった。その瞬間、周りの風景が一変する。まったく別の場所、そこは何かの研究施設のようだった。


周りを見ると、牢獄のような場所にあの少女が鎖につながれているのに気が付く。少女の目の前には食べ物の入った容器が置かれている。両腕を鎖で拘束されている少女が、その食べ物をどのように食べるかと想像すると不憫になった。


どこからか男が歩いてきて、少女のいる牢獄に近づく。そして厳しい表情でこう言い放った。


「また失敗だ!! どうしてこの天才が何度も失敗などするのだ! そうか……貴様だな、貴様が原因で失敗しているのだな!! どうしてだ! どうして私の足を引っ張るようなことをするんだ!! 理論通りに結果をだせ! 想定通りに動かせ!! 私の言う通りになるように努力しろ!!」


なんとも理不尽なことを言っている。声から、この男がデミウルゴスだというのがわかったけど、やはり、あまり性格の良い人物ではないみたいだ。


少女に怒号を浴びせるだけでは気が済まなかったのか、デミウルゴスは兵士に命令して牢獄から少女を出させた。そして、持っていた鞭で少女を打ち始める。


「お前が!! もっと! 頑張ればいいんだ! もっと! もっと!! 死ぬ気でやれ!!」


そんな言葉を浴びせながら、力を込めて鞭を打ち付ける。少女は悲鳴を上げて痛がっている。そんな場面を見せられて腹が立たないわけがない。俺はデミウルゴスの腕を掴んでそれを止めようとした。


しかし、さっきと同じように、俺の手は空しく空を切るだけでデミウルゴスの腕を掴むどころか触れることもできなかった。


「くそっ! なんなんだよこれっ!!」


そう叫んだ瞬間、また場面が変わった。次は研究室のような部屋で、中心にある歯医者にあるような重々しい椅子に、イプシロンコアにいた女の子が拘束されていた。


さっきまで見ていた少女は、このイプシロンコアの女の子の幼少の頃の姿だということにそこで気が付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る