第343話 天候

基地への立ち寄りは完全に無駄足となったが、気にせず目的地へと出発することになった。古代文明の研究施設はまだまだ距離があり、長い旅になりそうだった。


「ついてくるのがやっとって感じですわね」

監視部隊のライドキャリアのソウブが、今にも止まりそうな感じでミライについてくるのを見て、リンネカルロは心配そうにそう言う。


「おそらくコアに直結しているエレメンタルラインの一部が破損してますね。あれではいつ止まってもおかしくありません」

フェリの疑似体がソウブの状態を見てそう分析する。普通の人間のように見えるけど、このフェリ、ホムンクルスの技術で作られた作り物なんだよな。フェリの本体はアルレオ弐の中にいて、この疑似体は遠隔操作されている。


「止まったら止まったで置いていくしかねえな。そうなると監視するものがいなくなるけどいいのかね」

「さっきは、エミッツ殿の奮闘に期待する、なんて言っといてえらく冷たいな、ジャン」

「奮闘には期待するが、足手まといになるなら置いていくしかねえだろ」

「確かにそうですわね。よく考えたら勝手に監視している敵に気を遣う理由なんてありませんわ」

ジャンの言葉にリンネカルロも同意する。


「まあ、そうかもしれないけど、アムリア連邦とリュベル王国の国同士の問題にならないか?」

「なったとしても人質を持っているアムリア連邦が圧倒的に有利だろ。まあ、責められるとすれば現場の指揮官であるあのエミッツ殿だろうな」


顔を知っているだけにそうなると少し可哀想になってくるな……俺は今にも止まりそうな危ういう感じのソウブを見ながら、止まるな、頑張ってついてこい、と心の中でエールを送った。



俺の応援が効いているのかソウブは止まることなく、なんとかミライに付いて来ていた。しかし、その奮闘を無にするような別の問題が発生する。


「嵐が来るな……」

ジャンが遠くの空の雲行きを見ながらそう呟く。

「なんだ雨が降るのか?」

「馬鹿、そんな生易しいもんじゃねえ! 魔導機も無事では済まないような暴風嵐だ。フガクくらいの大型ライドキャリアなら問題ないが、このミライじゃ持たないかもしれねえな……」

「ちょっと待て、ミライで持たないかもしれないようなもの、あのボロボロのソウブじゃ、一溜りもないんじゃないのか?」

「その通りだ。こりゃ、どこかに避難するしかねえな」

「避難ってどこに?」

「こんなところに基地も街もねえからな、大きな洞窟かなにかあればいいんだが……」


「迷ってても仕方ないですよ。ここは地元である監視部隊に聞いてみたらどうですか?」

清音の意見はすぐに採用され、ジャンがエミッツに聞くことになった。


「申し訳ありません、自分もこの地方の出身ではないので地理に詳しくはないです。しかし、部下にこの辺りの出身者がいますので確認します」


エミッツが部下に確認すると、数キロくらい東に移動した場所に、大きな鍾乳洞があると情報を得ることができた。

「よし、ちょっと遠回りになるけど、東に移動するぞ」


目的地の方向とは違うが、危険を回避する為に俺たちは鍾乳洞へ向かうことになった。ソウブも暴風嵐を危険を認識しているのかそれに異を唱えることはなかった。


鍾乳洞は確かに大きかった。ミライはもちろん、中型ライドキャリアのソウブもなんとか入ることができた。二隻が鍾乳洞内に避難してしばらくすると、外に暴風が荒れ狂い始めた。暴風嵐と言っても台風くらいだろうと思っていたけど、そんなレベルの天候ではなかった。稲妻もバチバチと無数に飛び回る地獄絵図で、大袈裟ではなく、リンネカルロの放つ魔導撃くらいの威力がありそうであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る