第339話 敵と敵

広大なリュベル王国の移動には時間がかかる。休息を挟みながら目的地である、古代文明の研究施設へと向かっていた。


「付かず離れず、監視しているあのライドキャリアの人たちも大変ですね」

ジャンが作った芋の煮物を口に運びながら清音が気の毒そうに言う。

「ただじっと見ているってのも辛いでしょうからね」

清音の意見に、野菜たっぷりのスープを飲みながら渚も同意するが、ジャンは独自の考えを示した。


「いや、人によるんじゃねえか? 俺なんかからすると、ぼーと対象を見てるだけの仕事なんて、楽で簡単だから羨ましいくらいだ」

すぐにリンネカルロがその言葉に反応する。


「あら、ジャンでもそんな風に考えるのですわね。てっきり楽して安い仕事してるくらいなら忙しくても、お金のいい仕事をしてる方がいいと考えてると思いましたわ」

「いや、基本的にはそう考えてるが、楽で簡単な仕事も一定の評価はしている。俺には無理だが、楽な仕事を適度にやって、私生活を楽しく過ごす人生も悪かない」


確かにジャンには似合わない人生だとは思うけど、言いたいことはよくわかる。俺も本当は仕事よりも私生活を充実させたいとか思ってたりする。



そんな感じで何気ない会話をしながら、食事を食べていると、外が騒がしくなった。監視しているリュベル軍が何やら大慌てで動き出したのだ。


「何があったのかしら?」

騒がしい外のリュベル艦を見ながら渚が言う。


「どうやら何かが近づいているようだな。あの監視しているソウブってライドキャリア以外にもいくつかの部隊が周りを警戒してるんだろう。おそらくその警戒網に何者かが引っ掛かったんだろうよ」

「ちょっと待って! それって、さっきジャンが言ってたようなことが起こってるってこと? 大変じゃない、私たちも戦闘準備した方がいいんじゃないの?!」

「まあ、リュベル軍に任せればいいだろう。暇してただろうし丁度いいんじゃねえか」

「そんな悠長に構えていいのか? 攻撃してくる敵軍の方が多いかもしれないぞ」

あまりにもジャンが余裕の態度でいるから俺も指摘する。


「そうだったら、その時動けばいいだろう。それに俺たちはなるべく戦闘する気配すら見せない方がいいんだよ。ここが敵国のど真ん中ってこと忘れるなよ」


ジャンの言うこともわかるが、敵が近づいてきているのに何もしないでいるってのもなんとも気持ちが悪い。


しばらくすると、こちらに向かってくる敵の姿が見えてきた。ライドキャリア10隻に、魔導機100機ほどの規模の軍がこちらに近づいてきている。それを阻止する為だろうか、ソウブをはじめとする監視部隊が、近づく敵軍と俺たちの間に立ちはだかる。


「スイデル伯爵に警告する。あなたの行動は国の意向に背く行為であり、認められるものではありません。このまま撤退するなら罪にはといませんが、それ以上こちらに近づけば反逆罪として処罰します」


「うるさいわ! 中央軍の小童が!! 俺の弟が殺されたんだぞ!! 俺の大事な弟がアムリア連邦のゴミどもに殺されたんだ!! 黙ってこのまま俺の領地を通すわけないだろ!! 黙ってアムリアのゴミをこちらに引き渡せ!!」


「残念ですがそれはできません。どうしてもと言うなら、我々中央軍が相手をします。同じリュベル王国同士、刃を交える不毛さを理解ください」


「面白い! アムリアのゴミの前に、お前ら中央軍を血祭りあげてくれるわ!!」


どうやら交渉は決裂したみたいだ。両軍の緊張は高まり、今にも戦いが始まりそうだった。

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