第335話 重要任務/結衣

エリシア帝国はラフシャルの思いのまま動いていた。野心なのか野望なのか、ラフシャルは大陸全ての国を手中に収めようと考えているようで、エリシア帝国全軍に戦いの準備をさせていた。三年以内の大陸制覇……それに向けて、十軍神は各地に散らばり侵略戦争の準備を始めていた。


「結衣様、ラフシャル様がお呼びです。すぐに帝都へ戻ってください」


私も新設された攻撃部隊の長となり準備をしていたのだが、ラフシャルから個別に呼び出された。あの顔は二度と見たくないと思っているけど、今はそれを拒否する術がない。


「私に何か御用ですか」

「ふっ、そんな不機嫌な顔をするな。お前に少しお願いがあってな」

「はあ、命令ではなく、お願いですか?」

「そうだ。お願いだ。十軍神には敬意を持って接する必要がある。命令など無粋なことはしない」

ラフシャルなりに十軍神に敬意を払うのは勝手だが、だったらこんな爆弾を埋め込まないで欲しいものである。私は首下にある赤い宝石を触りながらそう思った。


「それでそのお願いとはなんですか?」

「北の氷河遺跡にへと援軍に向かって欲しい」

「北の氷河遺跡? 初めて聞く場所ですが……そこに援軍とはどういう意味ですか」

「ある男に秘密裏にそこを調べさせていたのだが、どうも苦戦しているようだ。今後のエリシア帝国にとって必要なものがそこに眠っているはずなので、その男を助けて手に入れてきてくれ」


命令ではないと言っても私に拒否する権利はないだろう。すぐにでもこの男の前から去りたくて私はその願いを聞き入れた。

「わかりました。行ってまいります。それでその、ある男、とは何者ですか」

「スカルフィという元傭兵の男だ。今は正式なエリシア帝国軍の者ではないが、後々は十軍神の一人となる予定の男だ」

「正式なエリシア帝国軍の人間でもない者にそのような大事な任務を与えているのですか?」

「その方が都合のいいこともある。それにあの男は信用できるからな」

「そこまで信用している理由はなんですか?」

ラフシャルは誰も信用などしていないと勝手に思っていたので気になり聞いてみた。


「おそろしく力に貪欲なのだ。力に貪欲な者は、目の前に強大な力をぶら下げればよく言うことをきく」


どうやらそのスカルフィという人物とも馬は合いそうにないようだ。



不本意ではあるけど、私は北の氷河遺跡という場所へ向かうことになった。部下を連れて行っていいということで、新設された私の部隊を引き連れていくことにする。


「結衣、それで北の氷河遺跡ってところで何をするの?」


私の部隊の副官であるメアリーが、北の氷河遺跡の話を聞いてそう質問してくる。

「私も詳しくは知らないのよ。詳細は先行してそこに行っているスカルフィって人に聞くことになってるの」

「スカルフィ!? スカルフィってあの天下十二傑の一人のスカルフィ?」

「え? 有名な人なの?」

「かなり有名よ。最強の傭兵団である剣豪団の一員で、剣王スカルフィの名は子供でも知っているわよ」


天下十二傑ってことはユウトさんとかと同じか……それは有名だよね。


「でも、もう天下十二傑の時代じゃないわね。これからは結衣たち、エリシア十軍神の時代だと思うよ」

「やめてよ、そんな言い方するの。私はそんなものになりたいわけじゃないわよ」

「諦めなさい。本人がそう思っていても、世論は新しい英傑たちの登場を面白おかしく持ち上げたりするんだから。これから本格的に十軍神として戦えば自然とその名は広まるだろうしね」


心底嫌ではあったけど、メアリーの言っていることは当たっている思う。世に私の名前は広まっていく……嫌だけど、もしかしたらそれで勇太くんが私に気が付いてくれるかもしれない……そんな小さな希望を持つことくらいしか、今の私にはできなかった。

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