第327話 最終防衛/ジャン

全軍に基地中央部までの撤退を指示したが、後退するのも難しい状況であった。逃げるように中央部に集まってくるが、途中に撃破される味方機が後を絶たない。


「無双鉄騎団! 後退する味方を援護してくれ! 少しでも多く逃すんだ!」


こうは言ってるが、無双鉄騎団の面々の疲労もかなり蓄積されているのはわかっていた。それでもそんな指示を出さなければいけない状況に唇を噛む。


「ジャン! トリスの虎鉄が大破しました! 回収して撤退します!」


ブリュンヒルデがそう報告してくる。放置して踏ん張れとも言えないのでそれを了承する。さらに悪い報告が続く。


「ユキハ機とアーサー機が損傷! このままだと危ないので退くわよ」

「なんだと、エミナ! 何があったんだ!」

「敵の精鋭部隊が突入してきたのよ。応戦して数十機を倒したけど、こちらもかなりの損害を受けたわ」


ぐっ……すでに手の施しようがなくなってきている。


「アリュナ、清音、今、どこにいる」


「西門にてヴァルキア帝国の部隊と交戦中! かなり強い敵だから話してる余裕もないよ!」


「ナナミ、ロルゴ、そっちはどうだ!?」

「味方機を援護しながら後退中だよ! どんどん敵が溢れてきて怖い……」


くそっ! どうすりゃいいんだ……焦りの気持ちから、無理とわかっていても、勇太たちの救援を通信で催促する。


「勇太! 今どの辺だ! こっちはもう持たないぞ!」


気持ちが焦っているからか、フガクではなく勇太の言霊箱に直接通信を送っていた。魔導機に搭乗していないと思っていたが、勇太から返事があった。しかし、ガガガッとノイズが入り、内容はよく聞こえない。


「どうした!? 何かあったのか?」

「……ジャ……いま…………こに……ちょ…………だか………」


あまり通信障害など起こらないのだが、どうなってるんだ……状況がわからず、モヤモヤする。


フガクの方に確認しようとしたのだが、ここで戦況がさらに動いて、緊急連絡が入る。


「ジャン! 西側の友軍は壊滅! アリュナ機が大破! アリュナをやったのは天下十二傑の覇王キュアレスのようよ。キュアレスは精鋭部隊を率いてそっちに向かってる! 私は負傷したアリュナを連れて撤退中!」

「何! 負傷って、アリュナは大丈夫か!」

「気絶してるけど、命に別状はないわ」


それを聞いて心底安心する。しかし、現状は最悪である。西側の友軍は壊滅。アリュナがやられ、清音も撤退中となるともう西側の敵を止める者はいない。


覇王キュアレスがここまできたら終わりだな……。キュアレスが率いている精鋭部隊がどれほどのものかはわからないけど、清音が精鋭と迷いもせずに言うくらいだから相当なものだろう。もはやそれに対抗する戦力はこちらにはなかった。


少し諦めの気持ちが出てきたその時、ナナミが興奮したような口調で俺にこう言ってきた。


「ジャン! 上空を見て!」

「上空だと!?」


言われるままに、ムサシのブリッジの脇にある小窓から上空を見上げた。すると、凄いスピードでこちらに飛んでくる物体を見つける。物体をよく見ると、それは魔導機のようだ。飛んできた魔導機は丁度ムサシの真上辺りで停止する。


「あれは……」

飛んできた魔導機は三機、そのうちの一機は見覚えがある。


「ヴィクトゥルフ!! すると残りの二機は勇太と渚の専用機か!」


驚いていると、勇太から通信がくる。ノイズはなくなり、鮮明に聞こえる。

「ジャン、早めに帰ってきたぞ!」

「お前たちだけか!? フガクはどうした?」

「やばい戦況の話を聞いたからな、途中から俺たちだけで飛んで先にきたんだ」

「それはナイス判断だ! こっちはアリュナもやられて絶体絶命だ」

「なんだと! アリュナは大丈夫か!」

「命に別状はない! それより早くなんとかしてくれ!」

「わかった、任せろ!」


勇太は簡単にそう言う。しかし、その言葉はどんな強大な援軍より俺を安心させる。もう大丈夫だと心の底から思っていた。

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