第304話 不穏な動き/ジャン
「ジャンさん、少しお話いいですか」
シスター・ミュージーが真剣な顔でそう話しかけてきた。彼女の雰囲気から、すぐにあまりよくない話だと感じた。
「ヴァルキア帝国とリュベル王国に大規模な軍事行動の動きがあるって?」
「はい……」
シスター・ミュージーの話では、ヴァルキア帝国とリュベル王国に侵入しているアリス大修道院の諜報員が、同時に大規模な軍事行動の情報を送って来たというものであった。
「三強国の二つが大規模な戦争に突入するってことなのか?」
「だといいのですが、そうではないようなのです。どうやら両国の軍は、ルジャ帝国に向かっているようなのです」
「両軍ともか!! 嘘だろ……そうなると狙いがアムリア連邦ってことも考えられるな……」
両国が一時的に共闘してアムリア連邦を攻撃する可能性は0ではないと思っていたが、まさか本当にその動きがあるとは……。
「まだ、どういうつもりかはわかりませんが警戒はした方が良いと思います」
「そうだな、アムリア連邦にも伝えて警戒させよう」
その日のうちに、アリス大修道院からもたらされた情報をアムリア連邦の上層部に伝えた。アムリア連邦側も半信半疑であったが、情報源がアリス大修道院と聞いて慌てだした。
「まだ、量産機の準備が整っていないのは痛いですな……」
ビオラテ元帥が現状の戦力でヴァルキア帝国とリュベル王国の二国を相手に戦う厳しさを想像してそう言う。
「量産機はどれくらい製造できてるんだ?」
「2000機ほどです。しかし、ライダーのルーディア強化がまだまだ追いついておらず、実際に量産機に乗れるライダーは800名ほどかと」
「なるほどな。しかし、それでも貴重な戦力だ。すぐにビラルークに集めた方がいいだろう」
「わかりました。そう手配いたします」
広いアムリア連邦各地から戦力を集めるのは時間がかかる。下手すると現状の戦力で開戦を迎える可能性がある。今、ビラルーク周辺に展開している戦力は、旧一般機体が5000機と、ヴァルキア帝国と、リュベル王国の両国を相手にするには少なすぎた。
「すぐに勇太やリンネカルロを呼び戻した方がいいんじゃないの」
「私もそう思う。あの二人がいれば多少の戦力差ならどうとでもなるだろうし」
アリュナとエミナの意見に俺も同意する。しかし、現実はそう単純ではなかった。
「今から呼び戻しても間に合わない可能性が高いだろう。フガクで全速力で帰ってきても、一週間はかかる行程だからな。すでに両軍がルジャ帝国に入っているのなら、三日ほどで攻めてきてもおかしくない」
「そうなると、やはり現状の戦力で戦うことを考えた方がいいかもね」
「そうだ。勇太たちが間に合えばいいが、それに期待しない方がいいだろう」
こんなことになるのなら、ムサシにも四元素砲を取り付けておけば良かったと今更ながら後悔する。
周辺からビラルークに次々と戦力が集結してくるが、それでも十分とは言えない。サラマンダー主砲を取り付けたライドキャリアが100隻ほどあるのがせめてもの救いだな。
メカニック班の大半もフガクの方に搭乗している。ムサシにいるのは旧剣豪団のメカニックだけで、人数も三人と少ない。開戦したら魔導機の修理をする余裕はないだろう。
長期で戦うのは難しいな……全力で戦えるのは二、三日といったところだろうか。
ビオラテ元帥と戦術の話になった。勇太やリンネカルロが不在でも、やはり主戦力は無双鉄騎団との認識があるようで、俺たちを中心とした防衛作戦が立案された。
「この布陣だと、無双鉄騎団が崩れたら全軍が崩壊するな」
立案された内容を見て俺は発言する。
「はい。確かにそうですが、逆に言いますと、無双鉄騎団が崩れなければ、全軍が崩壊することがない布陣と言えます」
「それだけ、俺たちを信頼してくれるのはありがたいが、今は主力が二人も不在でな、ちょっと荷が重いかもしれねえな」
「その話は聞いております。ですので、残っている練習生の部隊を無双鉄騎団の指揮下に配置させていただきます。主力のお二人の代わりとはならないでしょうが、それでなんとかならないでしょうか」
練習生たちの強さは知っている。この戦力なら持つか……。
「わかった。そういうことなら引き受けよう」
防衛戦の作戦は決まったが、できれば徒労に終われば良いと思っていた。強国二国と戦争するなんて、やらなくていいのなら、やらない方が良いに決まっている。
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