第295話 リュベル王国/春馬
リュベル王国は、絶対的な権力を持つ王家が数千年もの間、統治してきた専制政治の国家である。長い歴史の中では、存亡の危機に見舞われることも幾度となくあったが、王家と、それに古くから仕える五つの大貴族の結束により乗り越えていた。
リュベル王国は古くからヴァルキア帝国といがみ合い、その領土を奪い合っていた。そんな両国の関係に変化がみられてきた。お互いの国に、要人がいききするようになり、なにやらしきりに話し合いがおこなわれるようになっていた。国境では年中、小競り合いがおこなわれていたが、それも全て禁止となり、挑発する行為すら厳罰の対象となっていた。
「ヴァルキア帝国の斥候部隊が、国境をこえてこない日がこれほど続くとはどういうことだ」
「うちの軍と同じように、向こうにも上からお達しがあったんだろうよ」
「それがわからないんだよ。古参兵に聞いても、こんな事態は初めてのことらしいぞ。いったい何が起こってるんだ?」
「噂では長期の休戦調停が結ばれるって話だが、あのヴァルキアと休戦なんてありえるのかね。春馬、お前はどう思うんだ?」
同じ軍団の仲間がそう話を振ってくる。この国でお世話になって日も浅いが、ヴァルキア帝国との関係は理解している。確かにおかしな状況だけど、利害が一致するのであれば、休戦という話になっても変とは思わなかった。
「どういう理由かはわからないけど、お互いに利益があるなら休戦という話になっても変じゃないと思う」
「ほう、お互いに利益がある話ね。そんなもんがあるのか疑問だが、確かに春馬の言う通りだな」
お互いに利益のある話については、それからしばらくして僕は知ることになる。僕は軍団長の推薦で、ビーストストライクの設計者として、ヴァルキア帝国との技術者会議に出席することになった。交流の為にお互いの技術を披露するものなのだけど、ここまでくると休戦というレベルでは説明がつかないと思った。
「貴方があの獣魔導機の設計者なのですね。想像していたよりかなりお若くてびっくりしています」
そう声をかけてきたのはヴァルキア帝国の第三皇子にして、帝国技術局の局長であるリフソー皇子という人で、僕の事を若いと言ったけど、彼も十分若く見える。
「早速お聞きしたいのですが、獣魔導機に取り付けられているあの強力な砲台は、どのような理屈で動いているのですか」
「あれはですね──」
リフソー皇子は僕の話を熱心に聞いてくれ、偉く感心してくれた。
「素晴らしい! やはり地球人は我々にない考え方をお持ちのようだ。あれほどの威力の砲台を量産されたら、ヴァルキア帝国は近いうちにリュベル王国に滅ぼされていたかもしれませんね。本当に同盟関係になれてよかったです」
「えっ、同盟関係!?」
驚きの発言に聞き返す。他の参加者もざわざわと騒ぎ出す。
「あっ、そうでした。まだ一般には公開されていない話でしたね。ですが、近いうちに公表されますし、貴方たちはリュベル王国の重要な位置にいる人物ですしかまわないでしょう。ヴァルキア帝国とリュベル王国は正式に同盟関係を結びました。これからはともに、より強大な敵と戦っていくことになったのです」
「より強大な敵とはどこのことですか? ヴァルキア帝国とリュベル王国が同盟して戦う相手などいるのですか?」
「強力な力を得たエリシア帝国です。それとアムリア連邦ですね」
たしかにエリシア帝国の話は僕も聞いていた。大陸最強国家だと聞いているけど、そこまで力をつけているとは思って無かった。さらにアムリア連邦はできたばかりの新興国だけど、ヴァルキアとリュベルが恐れるような相手なのだろうか。同じように疑問に思ったのか、同席していた他の人物が質問する。
「失礼ですが、十軍神の話は聞いていますし、エリシア帝国はわかるのですが、アムリア連邦も同じように強大な敵になりえるのですか?」
「春馬殿の設計した獣魔導機部隊を殲滅したのはアムリア連邦の傘下の組織です。それを聞いても強大な敵ではないと思いますか」
驚いた。僕のビーストストライク部隊を殲滅したのはアムリア連邦だったんだ。そうか、確かにそれなら強大な敵に違いない。
「その傘下の組織とはいったい……」
「無双鉄騎団というそうです」
無双鉄騎団……初めて聞く名だけど、僕のビーストストライクの仇の名として心に刻んだ。
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