第281話 恋文
ダイラム伯爵の部下たちの魔導機の修理が終わったころ、アムリア連邦の支援軍がアリス大修道院に到着した。それは魔導機1000機の大部隊で、守りやすいアリス大修道院を守備するには十分の戦力であった。
「勇太殿、もういかれるのですか」
名残惜しそうにダイラム伯爵がそう挨拶にきた。
「ダイラム伯爵、お元気で」
「勇太殿こそお気をつけて」
さらにマザー・メイサにも丁重に挨拶される。
「無双鉄騎団とアムリア連邦にアリス様のご加護がございますように」
「ありがとう、なにかあったら駆けつけてくるから」
支援軍が到着したので、俺たちは予定通りアリス大修道院をあとにする。目指すは、アムリア連邦最大の軍事拠点、ビラルークという場所であった。
「それにしても、いくら強固な山上にある場所でも、1000機ほどの戦力でヴァルキア帝国やリュベル王国から守り切れるものかしら」
アリス大修道院を出発してしばらくすると、エミナがもっともな心配を呟く。
「心配するな、俺もそう思って、フガクの副砲のサラマンダーを五門ほど取り外して置いて来たからよ。あの強固な場所に強力な砲門がありゃ、どんな大軍でも落すのは至難のはずだ」
ジャンが事後報告でそう言う。
「いつの間にそんな段取りしてたんだ」
「アリス大修道院はこれから重要な情報源になるからな、潰されたら困る」
何はともあれジャンの気遣いに感謝する。それにしても、守銭奴のジャンが高価であろう副砲を簡単に置いていくとは、情報に対する価値を高く評価しているんだな。
「そう言えば、渚、お前はアムリア連邦に着いたらどうするんだ? ラネルのところに帰るのか?」
食事中、ふと気になったので聞く。
「ラネルと話をして、しばらく無双鉄騎団でお世話になることに決まったから、よろしく」
渚は俺の顔をみることもなく、パンをかじりながらしれっとそう報告する。
「また、どうしてだ。ラネルと喧嘩でもしたのか?」
「違うわよ! ルーディアの鍛錬とかあるから、今はこっちにいる方がいいだろうってなったの!」
「まあ、渚は修行好きだからな……一緒にきている二人もこのままこっちにいるのか?」
「ユキハもルーディアの鍛錬に興味あるって言ってるし、ヒマリも友達ができて嬉しいみたいだから、今は二人とも戻るつもりはないみたいね」
俺と渚の会話をジャンが聞いていたようで、こう突っ込みを入れてきた。
「別にここにいるのは構いやしないけどよ。働かない奴に食わす飯はねえから、ちゃんと仕事はしてもらうぞ」
もっともな意見ではある。渚たちもそれは承知しているようで、与えられた仕事は文句言わずにやっているようだ。
「そう言えばラフシャル。アリス大修道院にあった禁書ラフシャル・ウェポンの正体は確認したのかい?」
めずらしくみんなと食事をしていたラフシャルにアリュナが聞いた。ラフシャルはいつもは格納庫でサンドウィッチなどで簡単に済ませたりしてることが多いので、もう少しみんなと食事の時間を共有して欲しいとは思っている。
「あれね……あれは確かに僕が書いたものだけど、設計図でもなんでもない。ただの手紙だよ」
「手紙……それがどうして兵器の設計図だって思われているんだい?」
「いや、その時、紙がなくってね。昔の論文の裏にさらっと書いて渡しただけなんだよ。論文には確かに思案していた兵器の内容が含まれているから、それを見て設計図だと思ったんじゃないのかな」
「ちょっと待て。だったら、ヴァルキア帝国やリュベル王国がアリス大修道院を狙う理由はないんじゃないか! それを公表すれば全て解決すると思うんだけど」
「アリス大修道院にはそのつもりはないみたいだよ。そもそも彼女たちにとっては、禁書ラフシャル・ウェポンがどんなものなんて関係ないみたいだ。聖母アリスが一番大切にしていた書物……ただそれだけで最高の宝だそうだ」
「話が見えてこないな。ラフシャルの手紙を聖母アリスが大事にしてたってことなのか? そもそも聖母アリスって何者?」
そう俺が言うと、思わぬところから説明が始まった。
「聖母アリスは、現在では神格化されて神様のようになっていますが、元々は普通の人間です」
それはフェリであった。実は会議とかで、博学なフェリの意見を聞きたいとの要望があり、会議などもよくやる食堂にフェリと直接繋がる専用内部通信の装置を取り付けていたのだ。
「当時のアリスとラフシャルの関係ですが……」
「こら! フェリ、余計な事を言わないでくれ」
「まあ、深くを説明する必要もないでしょう。そういう事です」
なんともよくわからない話だけど、アリュナたちは今のフェリの言葉で全てを察したようだ。
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