第262話 謎の部隊/渚
敵の指揮官の乗るライドキャリアを破壊すると、敵の指示系統が絶たれたようだ。敵左翼はみるみる組織力を失い崩壊していく。
友軍のターミハル軍は弱った敵軍に容赦ない攻撃を加える。無双鉄騎団も敵軍の掃討を開始する。敵左翼に圧倒していると言っても、敵の全軍の兵力を考えるとごく一部の数だ。確かにいまのうちに少しでも戦力を削っておくのが得策だと思う。
掃討戦でもリンネカルロの破壊力のある範囲攻撃は猛威を振るう。一撃で数十機という魔導機が無残に破壊された。さらにリンネカルロの影に隠れて目立っていないけど、ファルマの使うアローも驚異的な威力を秘めていた。空中から放たれる光の矢は、まるで光の雨のように無数に分裂して敵に降り注ぐ。分裂してもその威力は相当なもので、魔導機の装甲を貫き地面に突き刺さる。
敵はバラバラと撤退をはじめた。混乱して逃げるのも忘れていたようだけど、ようやく最善の策にたどり着いたようだ。
「追撃は不要だぞ。敵の本隊の動きもわからないのにむやみに突っ込むな」
ジャンの指示に従い、無双鉄騎団は逃げる敵への追撃を止めてその場にとどまる。しかし、友軍であるターミハル軍は追撃を停止することはなかった。逃げる敵軍を追ってどこまでも追撃する。
ワラワラと逃げる敵軍に群がっていたターミハル軍に、奥から新たな敵軍が現れ強襲する。どうやら撤退する味方を助けにきたようだ。新しい敵軍は士気も統率も高く。さらにターミハル軍が油断していたこともあり、強烈な一撃で多大な被害を与えた。
「馬鹿が! なにしてるんだ! くっ、仕方ない。アリュナ、リンネカルロ、あのままじゃターミハル軍が全滅してしまう。悪いがちょっと行って助けてやれ」
「仕方ありませんわね」
「あいよ。ナナミ、エミナ、渚、ついてきな、馬鹿な味方を助けるよ」
ユキハ、ロルゴ、アーサー、ファルマはフガクの護衛で残し、私たちは友軍の救援に向かった。
あっという間に形勢は逆転していた。ターミハル軍は多勢のエリシア大部隊に囲まれ、窮地に立たされていた。
「あの乱戦じゃ、範囲攻撃は撃てませんわ。包囲を崩して味方を救出することを優先しましょう」
「そうね。南東方面の敵に攻撃を集中しましょう。ターミハル軍、聞こえる? 南東の敵包囲を崩すからそこから部隊を撤退させなさい」
アリュナが通信でそう言うと、ターミハルの部隊長から了解したとの返事がきた。
アリュナとナナミが敵の壁に斬りこんでいく。二人は舞を踊るような軽やかな動きで敵を翻弄して、次々に敵機を斬り倒していった。エミナの姿は見えない。しかし、なにもしていない敵が不意に斬り倒されたり、ボウガンの矢で射貫かれたりして倒されているのを見ると、ステルスで姿を消して戦っているようだ。
リンネカルロの単体攻撃はまさに必殺の威力を見せていた。杖を振るとほとばしる雷は、大型魔導機も一撃で粉砕する。そんな強力な攻撃を連発している。魔導撃はかなりの体力と精神力を消耗するって聞いたけど、仕草からは消耗しているようにはみえない。
私は太刀を居合斬りのように抜き敵を斬り伏せる。さらに踏み込んで回転しながら周りの敵を斬っていく。急所を狙って一振りで敵を行動不能にしていく。敵機は多い。無駄な動きは命取りだ。
無双鉄騎団の活躍で、敵の包囲の一部を切り崩した。今ならターミハル軍が包囲から抜け出せる。
「今だよ、南東方面へ後退しな!」
アリュナの指示でターミハル軍が南東へと向かった。追ってくる敵軍にはリンネカルロの痛い一撃が放たれた。
「グングニル・テンペスト!!」
広範囲に無数の雷が降り注ぐ。落ちた雷からさらにバチバチと放電が広がり、多くの敵魔導機が倒れていく。
リンネカルロの攻撃を受けて、敵軍も追撃を諦めた。すぐに後退を始める。
「なんとか助けられたみたいだね」
「無能な友軍を持つと苦労しますわ」
今日の戦いはここまでかなと思っていたのだけど、エミナが何かに気が付いて声をあげる。
「ちょっと待って……敵軍から数機だけこっちに向かって来てるわよ」
「ほんとうね。私たちと差しでやり合うつもりかしら」
「だとすればなんとも命知らずですわね」
その時、近くで倒れていた敵の魔導機から笑い声が聞こえた。
「ハハハッ! お前たちはもう終わりだ! あれはニトロ隊の分隊だ。死神部隊の贈り物は【死】だけだ。命乞いすら聞き入れてもらえないだろよ!」
自分が倒されたのが悔しかったのかペラペラと情報を提供してくれた。それを聞いても無双鉄騎団の面々は恐れる様子はない。だけど、私は近づく魔導機たちに、今まであじわったことの無いような嫌な雰囲気を感じていた。
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