第239話 不測の

清音の通信に切羽詰まった雰囲気を感じた。どうも変なプライドがあるのか、はっきりとは言わなかったが、かなりヤバイ状況にあるようだ。


こっちの戦況は乱戦が続き激しい戦いが繰り広げられているが、エリシア帝国の三傑もいないこともあり、俺一人がいなくなっても戦況に影響はないだろう。すぐにオヤジや清音の向かった森へとナマクラの歩みを進めた。



清音の状況は俺の思っていたより悪かった。と言うより最悪と言ってもいいだろう。清音の菊一文字は片腕と片足を失い。機体の下半身はボロボロに破壊されている。あちらこちらに破損が見られれ、とでも動けるようには見えなかった。清音をそこまで追い詰めていたのはエリシア帝国の三傑で、今まさに菊一文字に止めを刺そうとしていた。


「清音! 大丈夫か!」

「勇太!」


よかった、返事があった。生きていることを確認して安心すると、俺はナマクラで三傑の前に踊りでた。


明らかな機体の性能差に三傑はナマクラを警戒していない。負けるはずがないと思っている気持ちの隙をつければ勝機はあるか。


「ごめんなさい、勇太! 父上のエクスカリバーが……父上もスカルティの姿も見えず……どうも胸騒ぎが止まりません! もう菊一文字はもう動かないので、私は機体を捨てて父上のもとへいきます!」


「わかった。ここは任せて清音はオヤジのところへ行ってくれ!」


少なくとも清音が菊一文字から出る時間を稼ぐ必要がある。俺は剣を構えて三傑を威圧する。


「ハハハッ〜 いくらなんでもこれは面白すぎる! 俺たち三人を相手に本気で戦う気のようだぜ。そうだ、思い出した。コイツ、前の戦いで俺のガイアティアに傷をつけた奴だ。どうやらあれで勘違いさせたみたいだな」


「エメシス。油断してはダメよ。こんな機体に乗っていても剣豪団の一員なのは間違いないのだから」

「油断なんてしないぜ。あの時の借りをここで返させてもらうだけだ」


剣を構えている敵の前で呑気なものだ。俺は気合を込めて、集中を高める。そしてその力を剣に込めて放った。


「一閃!!」


油断していないと言いながら、完全に油断しているエメシスのガイアティアの腹部を狙った一撃は命中する。金属片が弾け飛び、ガイアティアの腹に切り傷が生まれる。


「くっ! これだ。忘れてたぜ! 一度ならず二度までもやってくれたな!」


ガイアティアは大きなハンマーで反撃してきた。これを剣で受けるのは無謀だろう。俺は横に跳躍してそれを避けた。


避けるのを狙ってアグニアの炎が襲いかかってきた。ナマクラの装甲など簡単に溶かしそうな炎を喰らうつもりはない。さらに跳躍して転がり避ける。しかし、そこにはユウトのアジュラが待ち構えていた。


アジュラは変則的な上段斬りのような技を攻撃を繰り出してきた── 俺は剣でそれを受け止める。ズシっと重い感覚があったが、なんとかそれを受け切った。さらにアジュラは剣を押してナマクラを力でねじ伏せようとする。ギシギシと機体が軋む音が聞こえる。ナマクラの力で押し返すのは無理そうだ。俺は剣を引いて、一度後ろに下がった。


そしてアジュラが踏み込んでこちらに迫ってくる瞬間を狙った。気合を貯め、集中を一気に開放する。何度もチャンスはないだろう。俺はこの一撃でアジュラを倒すつもりだった。


「一閃!!」


しかし、気を込めた瞬間、バギッと嫌な音が響いた。そしてガクッと嫌な感覚で体が自沈む。剣を振るうどころか、立っていることも困難になってしまった。


戦闘中だと言うのに、ナマクラの機体のどこかが壊れたようだ。そもそも一閃の動きに、ナマクラの機体が耐えられなかったみたいだ。せめてこの戦いが終わるまで待ってくれればいいのに……


立っているのもやっとのナマクラで、三傑に対抗できるわけもなく……ユウトのアジュラの剣の一振りでナマクラの頭部が斬り飛ばされる。さらにガイアティアのハンマーでぶっとばされ、最後にはアグニアの炎に焼かれた。


アグニアの炎の熱はコックピット内にも伝わってくる。このままでは焼き殺されると恐怖を感じ始めた時、炎は沈下したようで温度が下がってきた。


頭部を破壊されて周りの状況がわからないけど、どうやらこれ以上はナマクラに攻撃を加える気はないようだ。炎で焼かれた熱も冷めてきたようで外に出ることにした。

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