第237話 三傑と/清音

戦況は互角。いや、少しだけこちらが優勢に見える。だけど、それはエリシアの三傑が姿を現していない今の一時的なものであろう。三傑が現れれば戦況は一変する。それを止めること私一人では無理だ。やはりここは無理をしても父上とスカルフィの様子を見に行った方がいいと判断した。


勇太とブリュンヒルデに戦場を任せて、私は父上の向かった森の方へと向かった。森に入り、エクスカリバーとアロンダイトの姿を探す。


しかし、そこで見つけたのは最悪の二文字であった。


くっ……エリシアの三傑! こんなところにいたの!


私が見つけると同時に、あちらも菊一文字に気がついた。空気が一瞬で緊迫する。そこにいたのはユウトのアジュラ。ロゼッタのアグニア。エメシスのガイアティアの三機だけ、他に部下は連れていないようだ。だけど、部下がいるいないは関係無い。この三機だけで、百機の敵機を相手にするより厄介なのは間違いなかった。これからの戦いを想像すると、操作球を握る手が汗で湿る。


最初に動いたのはロゼッタのアグニアだった。アグニアは両手に持った、リング状の武器を振りかざす。すると炎の柱が、ボコボコと吹き出しながらこちらに迫ってきた。アグニアの炎の温度は魔導機の装甲を溶かす。私は迷わず回避した。だけど、回避した先にはエメシスのガイアティアが待ち構えていた。


ガイアティアは大きなハンマーで攻撃してくる。ハンマーの大きさからは想像できないくらい高速の攻撃に、反応が少し遅れる。ハンマーは菊一文字の肩にほんの少しだけ触れた。しかし、それだけで機体に信じられないほどの衝撃を受けた。さらにハンマーが地面を叩くと、衝撃波が伝わってきて、痺れるような感覚が襲ってきて菊一文字は吹き飛ばされる。


すぐに体勢を整えて、反撃の構えをとる。三機とも菊一文字と距離をとって囲むように動いてきた。まずは一機…… 私は強く踏み込んで、居合斬りでロゼッタのアグニアに斬りつけた。この三機の中では一番耐久力が低く、倒し易いと判断したのだけど、他の二機がそれを許してはくれない。アグニアに剣が届く前に、ユウトのアジュラに剣を受け止められる。


アジュラの剣で後ろに押し返されると、菊一文字に向けてアグニアから炎のブレスが吹き出された。それを避けると、今度はエメシスのガイアティアの追撃を受ける。ガイアティアのハンマーは菊一文字の近くの地面を抉り取る。土ごと後ろに吹き飛ばされる。さらに体勢の悪い状態で、ユウトの剣が襲いかかる。なんとか剣で受け止めるが、剣撃の威力を抑えきれずに、菊一文字は後ろに飛ばされる。


受け身をとって体勢を整えようと起き上がるが、目の前にはユウトのアジュラの姿があった。すでにアジュラは攻撃態勢にある。


しまった! そう思った時にはすでに遅い。アジュラの剣は鋭く振り抜かれ、菊一文字の片腕を斬り飛ばしていた。


父上ならこんなヘマはしない……師と弟子との差を痛感しながら、私は片手腕でこの窮地を乗り切る方法を模索した。


エリシアの三傑を相手に片腕の菊一文字で勝てるとは到底思えない。ならば逃げるしか方法はないが、三機とも微塵の隙も見せてくれなかった。退散する隙を作る為にブリュンヒルデに助力を頼むか……そう思ったのだけど、私は自分の思考とは別の人物に助けを求めていた。


「勇太……ごめんなさい……」

勇太はすぐに返事をしてくれた。


「どっ、どうした清音! 何かあったのか!?」


ここで助けを求めるのに躊躇した。変なプライドが邪魔をする。しかし、何も言わなかったのに、勇太は何かを察してくれた。


「よし! ちょっと待ってろ! すぐに行ってやる!」


勇太の実力は認める。戦力としてみても悪くない。だけど、ナマクラでは限界があるのも事実である。本来ならナマクラの勇太より、トリプルハイランダー専用機である鬼丸国綱に乗るブリュンヒルデの方が助けとしては適任であるはずだが、私は勇太を頼りにした。


どうしてだろう……勇太には父上と似ている強さを感じているからかもしれない。

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