第230話 望まぬ救援
戦場は一瞬静まり返った。そして状況を理解したのか、剣豪団から歓声が上がる。
一方、エリシア帝国軍からは悲痛な声が聞こえる。そして倒れたユウトのアジュラを助ける為か、一斉に動き出した。
オヤジのエクスカリバーの前に炎の壁が出現する。おそらく前に清音と戦ったロゼッタの仕業だろう。さらに停止していた戦闘が再開される。周りで戦いの音が鳴り響く。
俺も戦いに参加して敵を斬り伏せる。敵は大将であるユウトを倒され、士気が乱れているように感じる。思ったより手応えを感じなかった。
だけど、そんな中、士気など関係ない動きをしている敵もいた。目の前で、ブリュンヒルデの鬼丸国綱がぶっとばされる。トリプルハイランダーの彼女があんな勢いで吹き飛ばされるなんて、どんな相手だ……
「勇太さん! さがってください! エメシスのガイアティアです!」
ブリュンヒルデの鬼丸国綱をぶっとばした相手、ブラウンのボディーカラーの、他の魔導機よりひとまわり大きな大型魔導機。エメシスって、確か三傑の一人だよな。
さがってくれとブリュンヒルデに言われたが、どう見ても彼女は劣勢である。ここは助力しないわけにはいかない。
俺はナマクラを動かし、ブリュンヒルデの前に出た。ナマクラは平均的な魔導機のサイズより少し小さい。大型のガイアティアと並ぶと、まるで大人と子供ほどの差となっていた。
「ハハハッ── 何かの冗談か。世に聞こえたあの剣豪団に、こんな雑魚魔導機が混ざってるなんて」
どうも三傑は余裕がありすぎるのか、外部出力音で自分の気持ちを表現したがる。短い付き合いのナマクラだが、馬鹿にされるとあまりいい気持ちはしないな。
「あの世で、天下十二傑のエメシスに木っ端微塵にされたことを自慢するがいい!」
そう言いながらエメシスは巨大なハンマーを振り上げた。あんなのが直撃したら、確かに木っ端微塵に粉砕されそうだ。
「勇太さん! 避けて!」
ブリュンヒルデが悲壮感たっぷりにそう助言してくれる。もちろんこんな攻撃をまともに受けるつもりはない。俺はハンマーの軌道を見極めて、紙一重でそれを避けた。しかし、その攻撃の真の狙いは直撃ではなかった。ハンマーが地面を激しく叩くと、目に見えるような衝撃波が広がる。やばい! ナマクラの装甲ではこの攻撃は耐えられない。そう思うより先に、『一閃』で会得した集中を防御へと変換して発動していた。ナマクラの周りに青いオーラが発現して包み込む。
ドドドドッと機体に大きな衝撃が走る。ギシギシと嫌な音がするが、なんとか耐えられそうだ。
「どんな手品使ったんだ! ハイランダー機でもバラバラに吹き飛ぶ衝撃波だぞ!」
余程、今の攻撃で倒す自信があったのか、エメシスは驚いている。しかし、本当に驚くのはこれからだ。俺はさらに集中を高めて攻撃に転じる。
「一閃!」
まさか反撃してくるとは思わなかったのか、ナマクラから繰り出された光の軌跡を、ガイアティアは完全に避けることができなかった。ナマクラから繰り出された光の剣は、ガイアティアの装甲を切り裂く。だが、やはりナマクラの攻撃力ではこれが限界か、ガイアティアのダメージは致命傷には遠い。
「隙あり!」
俺の一閃を受けて無防備になったガイアティアに、さらにブリュンヒルデの鬼丸国綱の剣が襲いかかる。さすがはトリプルハイランダーの攻撃力だ。その剣撃はガイアティアの肩を斬り飛ばした。
「ぐっ……どんな見た目でもやはり剣豪団か……フッ、まあいい。ユウトの回収も終わったようだし、ここは引かせてもらうぞ」
そう言うと、ガイアティアは後退し始めた。俺とブリュンヒルデは逃すかと追いかけようとしたが、その瞬間、地面が大きく揺れて妨害された。
三傑は逃げるのも上手いな……嫌味ではなく、本当にそう感心していた。
ユウトを回収したエリシア帝国軍は全軍が撤退した。オヤジは無理な追撃はしないように指示を出した。確かにユウトは倒したけど、ロゼッタとエメシスは健在だ。追撃時に反撃を受けると、大きな被害が出るかもしれない。
戦いは終わり、皆、勝利に喜んでいると思ったのだけど、スカルフィだけは違ったようだ。大きな声でオヤジに文句を言う。
「師よ! どうして援軍に来たのですか! 我々だけで勝利できた戦いでした!」
「いや、お前たちだけでは敗北していた。スカルフィ。本当はお前もわかっているだろ」
「私ではユウトに勝てなかったということですか……」
「そうだ。今のお前ではユウトには勝てない」
オヤジがそう断言すると、スカルフィは押し黙った。その表情は悔しそうで、怒りを滲ませていた。
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