第225話 分裂

バルミハルに到着した剣豪団は、すぐに情報を収集し始めた。幸いにもバルミハル軍は顕在で、王都でエリシア軍と激しい戦闘を繰り広げていた。


「バルミハルに侵攻してきたエリシア軍は100機前後、どれも手練れの精鋭部隊で三傑以外も侮れない強敵だ。一方、味方のバルミハル軍は魔導機800機、ライドキャリア18隻ほどが防衛にあたっている」


オヤジが戦いの前に、バルミハル軍から提供された情報を皆に伝える。


「正直なところ、ユウトたちを相手にするならバルミハル軍は邪魔になるな。ヴェフト師匠。バルミハル軍は一旦下がらせて、我々だけで対処しましょう」

スカルフィの言葉に弟子であるモドレッドが同意する。


「自分もそう思います、師匠。強者の戦いに弱者はいらないですね」


それに対して、清音が反論した。

「いえ、侵攻してきたエリシア軍は100機前後です。敵数や戦況を見ても、剣豪団の倍の戦力が有していると考えた方が良いでしょう。そうなるとバルミハルの戦力は重要になってきます」


「フッ、清音殿は剣豪団の一人をエリシア軍の一人と同等で計算しているようですが、ご自分の流派にもっと自信を持った方が良いではないですかな。慎重も過ぎると臆病ととらえられますよ」

ディアーブロが清音を小馬鹿にしたようにそう言い返す。その言葉に清音の弟子であるブリュンヒルデが反応する。


「臆病とは失礼な! 相手はユウト側近の精鋭部隊ですよ! 普通のエリシア正規軍とは訳が違うじゃないですか!」


「ユウト側近だろうが、我々は最強の傭兵団である剣豪団だ! 倍程度の敵に恐れをなしてどうする!」

「ですから敵を恐れて言ってるのではありません!」


どう考えても清音の考えの方が正しいだろう。人を従えている者にはそれを守る義務がある。不要な危険を冒す必要はない。しかし、オヤジは何を思っているのか清音一門とスカルフィ一門の言い合いに割って入ろうとはしなかった。仕方ないので、俺も一言言ってやることにした。


「今回は清音の方が正しい。剣豪団がいくら強かろうと、他にも強い奴らはいる。しかも今回は大陸最強とか言われてるほどの相手だろ? せっかく味方がいるんだから、一緒に戦ったらいいだけだろ」


「部外者は黙ってろよ、勇太!」

鉄平が俺の発言が気に入らなかったのか威圧するように怒鳴る。


「確かに俺は正式な剣豪団のメンバーじゃないが、剣聖ヴェフトの弟子だ。発言するくらいいいだろ」

「よかねえよ! 俺たちは自分たちの誇りの話をしてるんだ! 部外者のお前に、剣豪団としての心構えを否定する権利なんてないんだよ!」


「はあ? 何が誇りだ! 仲間の命に比べたら、そんなもの何の価値もない! 清音が言っているのは仲間を無駄に危険にしたくないってことだ。ちょっと考えたらわかるだろ!」


その俺の言葉が気に入らなかったのかディアーブロも俺に食ってかかってくる。

「フッ、ちょっとナマクラで鉄平のクレイモアを倒したくらいで偉そうなものだな。貴様に剣豪団の誇りを否定されるのは心外だ」


「勇太さんのあの凄い技は本物です! それに勇太さんは剣豪団の誇りを否定してる訳じゃないじゃないですか!」

トリスが俺の為にそう言ってくれたのだろうけど、そのタイミングで本格的に清音一門とスカルフィ一門で言い合いに発展した。お互い自分の主張を言い合い、収集が付かなくなった。


「そこまでだ!! 要はみんな剣豪団を大事に思ってくれてるってことだろ。いいじゃないか、誇りを大事にするのも、仲間を思うのも、どちらも大事だ。スカルフィ。お前たちは単独で思う存分戦ってこい! 清音。お前たちはバルミハル軍と共同戦線を張れ! たまには別れて戦うのもいいだろう。お互い自分の主張が正しい事を証明する為、全力で戦ってこい!」


オヤジの言葉一つでその場の殺伐とした雰囲気は収まった。さすがは剣豪団の長である。しかし、オヤジの言葉に唯一納得してない男が一人いた。


「ヴェフト師匠は私と清音、どちらと共にいくのですか── 」

そう聞いたスカルフィの表情は決意のようなものを感じるほど真剣だ。

「おう、俺は勇太のお守りだ。お前や清音に教えることはないからな」

オヤジはスカルフィとは対照的に明るくそう答える。


「……── そうですか……」


そう言うと、スカルフィは自分の弟子たちを連れてボクデンへと戻って行った。なんとも悲しいような微妙な感じであった。

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