第198話 アルレオの最後
巨獣は嫌な予感を感じたのか、アルレオへの攻撃を強める。それを避けたり防いだりながら、時間の経過を待った。
「自爆後はアルレオのコアは破壊され、機体を動かすことはできなくなります。完全に無防備になりますので、回収をお願いしてください」
フェリに言われたように、ジャンに伝えて回収を準備してもらう。さらに自爆時はかなりの爆風が広がるらしいのでその警戒もするように言う。
「勇太、シャイニング・スマッシャーからコアを抜き取り、アルレオの腹部に入れてください。後の処理は私が行います」
フェリの指示通り、シャイニング・スマッシャーの中心部にあるコアを抜き取って、フェリが操作したのか、いつも間にか開かれた腹部にある穴にそれを入れた。
「コア融合開始── 無限スペル詠唱開始── 暴走カウントダウン──自爆開始まで後30秒」
ウォンウォンと明らかに危なそうな音がして、何やら暑くなってくる。コックピット内は危険を知らせるシグナルか、チカチカ点滅している。
これでアルレオとも最後になるのか……こいつには本当にお世話になったな……最初にファルマの家でアルレオを見つけ、逃げるために乗り込んで、最初の戦闘、それからお金を稼ぐために剣闘士になって……こいつがなかったら、こうして生きてることもできなかったかもしれないな……
アルレオに最後の別れを告げると、俺は目を瞑って自爆に備える。
「勇太! 回避してください! SSレベル個体の攻撃です!」
慌てたようにフェリがそう伝える。見ると、他の巨獣とは明らかに違う、黄金に輝く巨獣がアルレオに向かってきていた。
すぐに回避するが、黄金の巨獣の一撃はアルレオの右腕をもぎ取った。避けていなければ、今の一撃で機体を粉砕されていたかもしれない。
「自爆まで後10秒!」
黄金の巨獣の背中から人間のような腕が四本、ニョキニョキと生えてきた。それがアルレオをがっしりと掴み、動けなくする。そしてアルレオにかぶりつこうと、大きな顎を広げた。
ぐっ! ヤバイ……このままだと食われる……
「自爆まで、後5秒! なんとか持ち堪えて!」
自爆までにアルレオが破壊されては元も子もない。なんとか動く、左手で、マインゴーシュを引き抜き、それを黄金の巨獣の顎下に突き刺した。
少しはダメージを与えたのか、妙な声を出して巨獣が一瞬怯んだ。
そして自爆のカウントは0になる──
強力な重力が体全体にかかり、衝撃を受ける。ふわりと浮き上がるような感覚になり、大きく揺れる。
スクリーンはバチバチと音を立てて消え、外の様子がわからなくなった。
「フェリ! どうなった!」
「自爆攻撃は成功です。巨獣の99%は消滅しました」
「よかった、作戦は成功したんだな」
「いえ……自爆攻撃は成功しましたが、作戦全体では成功とは言えないかもしれません」
「どう言うことだ?」
「最後のSSレベル個体の攻撃で右腕を失ったことで、コア暴走エネルギーの放出にズレが生じてしまいました。辛うじてコックピットの破壊は免れましたが、爆発の衝撃で吹き飛ばされ、現在、地の亀裂に入り、真っ逆さまに落下中です」
「嘘だろ!」
ドンッと大きな衝撃を受けると、コックピットがグラグラと揺れ始めた。
「地底海流の小さい分岐の一つにのったようです。このままどこかに流されていきます」
「俺たち、どうなるんだ!?」
「申し訳ありません、どこに到着するかは情報不足でわかりません。最悪の場合、海流のループにのってしまい、永遠に彷徨う可能性もあります」
それを聞いてゾッとする。すぐに通信でジャンに救援を要請しようとした。
「ジャン! 聞こえるか! ジャン! 応答してくれ!」
しかし、ジャンからの返事はない。俺は全てのチャンネルを試して通信を試みるがどこにも繋がらなかった。
「自爆時のパルスで機器が破壊されたようです。全ての機器が使用できなくなっています」
「そうか……これでフェリも壊れてたら心細くておかしくなってたかもしれないな」
「その言葉の後に報告するのは酷なのですが、今、私はコックピット内に残っている残存エネルギーで起動しています。残念ながらそれも10時間ほどで切れてしまうでしょう」
ヤバイ、泣いてしまいそうだ……しかし、気持ちを切り替え、前向きに考えることにした。想定外のことが起こってもこうやって生きているし、このまま無事に何処かへ到着するだろう。ジャンたちも俺を探すだろうからすぐに見つけてくれると思う。
そう考えるようにしたが、やはり自分に嘘は付けない。不安で気持ちが押しつぶされそうなのを感じていた。
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