第196話 窮地へ

異界の門に近づくと、異様な声と、地響きのような音が聞こえてくる。まだ状況はわからないけど、何か嫌な雰囲気はひしひしと感じる。


「もう、かなりの数の巨獣が湧き出てるようね」

「な、ナナミ、怖くないからね!」


「いきなり、この対巨獣装備の出番がありそうだな、二人とも到着した瞬間にぶっ放す準備しておいた方がいいかもしれないぞ」


遠目から見て、何かがウヨウヨと蠢いている姿を捉える。あれが全部、あの巨獣だと思うと背筋が凍る。


「やばそうな雰囲気ね、急ぎましょう」

アリュナの言葉に同意して、俺たちは魔導機の足を速めた。


異界の門の現状を見て、ゾッとする……もはや数えきれないほどの巨獣が大地を埋め尽くし、その中にポツンと、フガクとリンネカルロのオーディン、ファルマのガルーダ、ロルゴのガネーシャ、アーサーのセントールの姿が見える。


どの魔導機もボロボロで、まともに動いているのは宙で巨獣の攻撃から逃れているファルマだけだった。


俺はすぐにシャイニング・スマッシャーを構えて巨獣の群れに銃口を向けた。

「フェリ! あの巨獣の群れから味方を助けれる最適のポイントを教えてくれ!」

「はい、マスター。スクリーンにターゲットを表示します。中央ポインターをターゲットに合わせて発射してください」


フェリがそう言うと、外の景色が映し出されているスクリーンに、丸いターゲット表示が現れる。俺の狙いとともに動く、三角形の表示をそこに合わせて引き金を引いた。


グオンッと急激なGが掛かり、シャイニング・スマッシャーから強烈な光が発射される。光は巨獣たちを焼き払いながら真っすぐに伸びていく。


仲間たちに迫っていた巨獣が一掃され一安心する。だけど、リンネカルロのオーディンはピクリとも動いていない。心配になり声をかける。


「リンネカルロ、大丈夫か!」


しかし、返事はなかった。これはかなりやばい。リンネカルロ、ロルゴ、アーサーの三人を助けようと思うが、次の巨獣の群れがこちらに向かって来ているのを見て判断を迷う。


「プロミネンス砲、照射!」

アリュナのベルシーアの持つ、対巨獣兵器、プロミネンス砲から、高温、重密度の紅蓮の炎が照射される。近づいて来ていた巨獣の群れをその炎で焼き尽くす。


「アースクエイク・グラヴィティ!」

ナナミのヴァジュラは向かってくる巨獣の集団に突撃して、アースクエイクユニットで強化された魔導撃を放った。地割れが起こるほどの衝撃が半円に広がり、巨獣たちは崩れた地面に飲み込まれるように倒れていく。


これだけ破壊力のある対巨獣兵器であるが、それでも湧き出る巨獣のスピードの方が速いようで、巨獣の絶対数は減っているようには見えない。このままでは動けないリンネカルロたちが危険だし、全滅の危険性すらある。


とりあえず、リンネカルロたちを助けないと……


「アリュナ! ナナミ! 俺が巨獣どもの囮になるからその隙にリンネカルロたちをフガクに収容してくれるか」


「了解。だけど、勇太、無理するんじゃないよ」

「勇太、相手は巨獣なんだから、いつもみたいな無茶したらダメだよ」


「わかってるよ。ジャン、聞こえてるか、俺が囮になって巨獣を北に誘導するから、その間にリンネカルロたちを収容してくれ!」

「また、無茶いいだしたな……だけど、今回ばかりはその無茶しかねえだろうな。わかった、収容準備はさせる」



とにかく、俺は目立って巨獣を引き付けることにした。閃光モードに変更して、薄暗い地下空間では目立つ光を放ちながら、巨獣の群れの中を走り回る。巨獣に知能があるかどうかはわからないけど、巨獣たちはアルレオの放つ光に吸い寄せられるように集まって来た。


ある程度ひと塊になったところで、シャイニング・スマッシャーを放つ。多くの巨獣をその破壊の熱線で倒すが、減っているようには感じられない。


シャイニング・スマッシャーの光にも反応して、さらに周りから巨獣が集まってくる。集まってくる数があまりに多く、恐怖を感じて、俺はすぐにもう一度、シャイニング・スマッシャーを放った。だけど、発射の反動と同時に、嫌な音が機体全体から響いた。


「マスター。アルレオに影響が出始めました。シャイニング・スマッシャーは次の一撃が限界です」


さすがにこの状況で機体の限界が来ると焦る。あと、一撃……それでこの窮地から抜けださないといけない。俺は必死に思考を巡らせた。

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