第195話 枯渇/リンネカルロ

一気に湧き出てきた巨獣の群れを見て、いつも余裕のある私も膝が震える。


「ロルゴ! アーサー! 前衛になって群れを抑えて頂戴! ファルマ、小さな個体を狙って攻撃するですわ!」


ロルゴとアーサーだけでそれほど長くは群れ抑えられないだろう。勇太、ナナミ、アリュナの三人がいれば……そう思わずにはいられなかった。


三人の穴埋めはフガクが担う。遺跡の前に展開して、すでにバリスタから大量のアローが放たれていた。多くの巨獣を串刺しにするが、溢れる巨獣の勢いを止めるほどではなかった。


第一陣がロルゴ、アーサーまで到達した。その瞬間、私は雷撃を放つ。


「トリプル・ライトニング!」


三つの雷球が一番先頭の巨獣に全て命中する。巨獣はカウンターで打撃を受けたように後ろに仰け反った。さらに連続でトリプル・ライトニングを放つ。迫ってくる巨獣に全て命中する。大きな巨獣だと、トリプル・ライトニング一発では倒せない。何度も打ち込んでようやく崩れ落ちてくれる。


魔道撃は無尽蔵に放つことはできない。気力も体力も消耗して、やがて限界を迎えて使用できなくなる。このペースで使えば、十分ほどで枯渇するであろう。使用頻度を抑えたいところだが、迫りくる巨獣は容赦がない。前衛でロルゴとアーサーがなんとか止めているが、私の攻撃が弱くなると、おそらくすぐに巨獣に押し潰される。


さらに大きな集団が一斉にロルゴとアーサーに迫ってくる。オーディンとガルーダの攻撃でその勢いを止めることはできず、多くの巨獣がガネーシャとセントールに群がってくる。巨獣の爪や牙が二体の魔導機のボディーを破壊していく。


くっ……仕方ないですわ。

「トールハンマー!」


トールハンマーの青い雷は大きな帯となり、巨獣の群れに突き刺さる。大型の巨獣も含め、十体ほどが青い雷に貫かれて絶命する。


トールハンマーを連発できれば随分楽なのだが、この魔導撃は消耗が激しく、一発でトリプル・ライトニング数十発分の気力を失う。時間を稼がなければいいけないこの状況、やはり使用はなるべく控えるべきだろう。


さっきのトールハンマーの一撃でロルゴとアーサーは一瞬持ち直したが、巨獣の沸きは止まるどころか勢いを増し、さらに倍する数が迫って来ていた。


フガクからの艦砲射撃は休まず巨獣の群れに攻撃をおこなっているが、倒れる巨獣より湧き出る方が遥かに速く、巨獣の絶対数は増えるばかりだ。このままでは十分も持ちそうにない。さらに多くの巨獣がガネーシャとセントールに群がるのを見て、私は二発目のトールハンマーを巨獣の群れに放った。


自然と息が荒くなってくる……体中が怠く力が入らなくなった。集中力は薄れ、自分の限界が近いことを実感する。


次のトールハンマーが最後の攻撃になる……そう実感していた。


その最後の一撃は思ったより、早く放つことになってしまった。アーサーのセントールが巨大な巨獣の一体に、押しつぶされそうになる。見捨てるか一瞬悩んだけど、自然と、トールハンマーを放ち、救ってしまっていた。


「はぁ……はぁ……ふぅ~ こっ、これくらいなんともないですわ!」


強がりだというのが伝わってしまったのか、アーサーが余計な事を言う。


「リンネカルロ様、後はこのアーサーにお任せて、少しお休みなってください!」


任せられるなら任せたい、だけど、物理的に不可能なのは目に見えている。私は最終手段に出た。


力を振り絞り、オーディンをガネーシャとセントールの間に割り込ませる。そして手に持った杖で巨獣を打っ叩く。魔導撃は使用できなくなっても、まだ残った気力だけでオーディンを動かすことはできる。白兵戦だけでもトリプルハイランダーにも遅れは取らない。


しかし、実際に受けた巨獣の猛攻は予想以上だった。巨獣の攻撃を受ける度にオーディンのボディーが悲鳴を上げる。肩の部品は弾け飛び、胴部の一部は剥ぎ取られる。鈍器として乱暴に扱った杖の先端は折れ曲がり、一瞬で満身創痍の状態に追い込まれた。


防御力が高く耐久力のあるはずのガネーシャもすでに片腕を無くし、足を折られ、立つこともできなくなっている。アーサーのセントールは頭部を破壊され、エレメンタルラインを切断されたようで、完全に行動不能になっているようだ。


もはや、ここまでか──まだ、封印完了まで時間があるのに……


諦めの気持ちの中、勇太の顔が浮かぶ……そう、勇太が来ればなんとかなる! 私は最後の気力を振り絞り、ボロボロのオーディンを動かした。


折れた杖を振り回し、がむしゃらに巨獣と戦うが、オーディンに限界が来たようだ。思い通りに動かなくなってきた──戦う気持ちとは裏腹に、オーディンの動きは鈍くなり、やがて完全に停止した。


「ごめんなさい……もうダメ……」


誰に謝っているのか私は申し訳ない気持ちになり、そう呟いていた。


だけど、絶体絶命のその時、希望の光が放たれる。一瞬の強い閃光の後に、巨大な光の線が巨獣の群れに襲い掛かる。


無数の巨獣が、蒸発するように消えていく──そして通信に心地よい声が聞こえてきた。


「リンネカルロ、大丈夫か!」


その声を聞いた私は強烈な安心感により、張り詰めた気持ちが緩み、そのまま意識を失ってしまった。

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