第119話 ルーディア値2

カプセルの中を水が完全に満たしても不思議なことに呼吸をすることができた。カプセルの中から外を見ると、ラフシャルが何かの機械をカシャカシャ動かしながら、丸い時計のような計器が沢山並んだ機械を見ていた。


不意に彼が叫んだ。

「よし! 計測できだぞ」


ジャンが詰め寄るようにその結果を聞く。


「おい、それで勇太のルーディア値は幾つなんだよ!」

「まあ、待て、その前に勇太をカプセルから出してやらないとな」


確かにその通りだ、息ができるって言っても、こんなところに閉じ込められるのはあまりいい気分がしないぞ。


カプセルから出されると、俺はすぐに服を着る。外に追い出されていたライザも呼ばれ、オビワンがお茶を入れてくれた。


大きなテーブルの席に座りお茶を飲みながら落ち着いていると、ジャンがいきなり声を上げる。


「だっ! だから勇太のルーディア値は幾つなんだよ!」


そうだった、オビワンのお茶が美味しくて本題を忘れていた。ラフシャルは何かの結果を書いた紙を見ながらジャンにこう言う。


「せっかちな奴だな、計器が古代文明の物だから現代数値に計算し直してるんだ、少し待て」


「どうでもいいから早くしてくれ〜気になって仕方ねえんだよ」


ジャンの言葉を無視して、ラフシャルの計算は続く。そして3分ほど待たされて出した結果は……


「う〜ん……やっぱり何度計算しても2だな……」


「ほら、やっぱり2だろ、何回も言ってるのに信じないから」


ラフシャルの結果を聞いて勝ち誇ったようにそう言うがジャンはそれをまだ信じない。


「おい、計算間違ってんじゃねえか? こいつはな、メルタリア王国の国宝である魔導機を動かしたり、トリプルハイランダーも動かせないような魔導機も簡単に起動できる奴なんだよ、ルーディア値2なんてありえないだろ!」


ジャンの言葉にはあまり興味なさそうにラフシャルはこう言い返した。


「誰がルーディア値2なんて言った? 勇太はな、ディメンションクラス2なんだよ」


「ディメンションクラスって何だよ」

「古代文明で定義されていた、潜在力値をクラス分けしたものだ、クラス2は上から二番目ってことだ」


「何だよ、二番かよ、勇太のことだから一番上かと思ったわ」

「その認識は間違いだ。定義されているだけで、古代文明時代にもクラス1など存在しない」


「それでよ、どうでもいいけど、結局、勇太のルーディア値は幾つなんだよ」


「ルーディア値なんて変動する数値にそれほど意味はないけどな、現在使われてるルーディア値の計測機は潜在力値の一部を測って平均値をとって表してるだけだし、あれじゃ、潜在力値は測れないのに……まあ、目安にはなるけどな」


「いやっ! だからその変動するルーディア値でいいから教えてくれよ! もうこのままじゃ寝れねえんだよ!」


ジャンはラフシャルに縋り付いてそう懇願する。


「わっ、わかったから落ち着け、クラス2のルーディア値は100万〜200万くらいだよ」


「ひゃっくまんだと!」

「僕も驚いたけど、そこにいる勇太は、正真正銘の怪物だ。古代文明での実在した最高クラスは3、落ち着いているように見えるかもしれないけど、信じられないくらい、今、僕は興奮している!」


百万ね……やはりそう聞いてもしっくりこない。数値で人を判断すること自体に嫌悪感を持っているからか、自分の数値が高かったからと言って嬉しくも何ともない。


「ジャン、もう満足したか? 他にもやることあるんだからそろそろ行こうぜ」

「何言ってんだよ、勇太! もっと興奮しろよ! お前のルーディア値は100万越えなんだぞ!」

「だから、前から言ってるけど、数値に興味ないんだって。仲間を守るために魔導機を動かせる、その事実だけで十分だ」


「まあ、そんな風に言うのが勇太らしいけどな、それより、今日の予定、ここで済ませられるんじゃねえか」

「何だよそれ、魔導機整備所の工房を見回ってメカニック探さないでいいのか?」

「優秀なメカニックならここに二人もいるじゃねえか」


あっ、確かにラフシャルとオビワンならライザも納得の人材だ。ライザもその意味を理解して賛成する。


「ラフシャルとオビワン、うちで魔導機のメカニックやらないか?」


ジャンが単刀直入にそう切り出した。


「メカニックね、いいけど条件がある」

「何だ、給与面ならいくらでも考えるぞ」

「いや、そうじゃない、勇太をたまに貸して欲しいんだ」

「ああ、そんなことならいいけどよ」

「よかない!! 何だよ俺を貸し出すって」


「クラス2専用魔導機……僕はそれを作りたいんだ、その為のデータを取ったり、テストに協力して欲しい」


「おっ、すげーな、と言うか、ラフシャル、お前、魔導機を一から作れるのか?」

「作れるよ」


簡単に答えたラフシャルの言葉に、ジャンとライザが心底驚いている。ライザが驚きの表情で質問する。

「一からって……ルーディアコアはどうするの?」

「もちろんルーディアコアも一から作成する」

「ルーディアコアを作成って……ラフシャル、あなた一体何者なの?」


オビワンがそれを聞いてこんなヒントを出してきた。


「師匠の名はラフシャルじゃよ、聞いたことないのか?」


そう言われて、ジャンがハッと何かを思い出した。


「嘘だろ……神話に出てくる名前だ……大賢者ラフシャル……魔導機を最初に作った人物だ」


神話って……それを聞いて、一番に思ったのは、ラフシャルっていったい何歳なんだよ、であった。

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