第66話 同盟交渉/渚



エモウ王国の王都ルルアブル、私たちはエモウ王国との同盟締結の為にこの国へ訪れていた。


「とにかく最初は私がエモウ王と話をするから、お父さんはドムナで待っててね」

「しかしな、ラネル、王であるワシが行かないと交渉にならないのじゃないか」

「いきなりお父さんが訪ねて、エモウ王の機嫌を損ねたらどうするのよ。ここは私がいって地固してくるから、それから本格的な交渉をお父さんがすればいいでしょ」


「うむ……そうか、だったらそうしてもらおうかな」


少し腑に落ちない感じではあるが、娘のラネルを信頼している王はラネルの言うことを素直に聞いた。


東部諸国連合の正式な特使としての訪問に、エモウ王も面会を断ることはなかった。順調に面会の約束をして、訪問することになったのだけど、なぜか私もその席に同席することになった。デルフィンが護衛で同席するのはわかるけど、私がいる意味がわからない。


「エモウ王が謁見室でお待ちです、どうぞこちらへ」


衛兵の一人に、私たちは謁見室へと案内された。


「ラネル王女だな、久しいな……と言っても前に会った時は、君はこんな小さな子供だったから覚えていないだろうがな」


謁見室に入ると、すぐにエモウ王がそう声をかけてくれた。ラネルはエモウ王が言うようにそれを覚えてないようで、苦笑いで誤魔化している。


「母から話は聞いてます、エモウ王には大変お世話になったと……」

「そうか、ルリハが君にそんな話をしてくれたんだな、まあ、座りたまえ、ゆっくり話をしよう」


凄く気さくでいい人みたいだ……王はどうしてこんないい人と仲が悪くなったんだろうか……それにエモウ王、凄く優しい笑顔だ……あれはまるで……いや、今はそんなこと考えている時じゃない。


「ルリハが亡くなってもう何年になるかな……」

「5年です……」

「そうか……本当に美しく素晴らしい人だったよ……」


そうか……ラネルのお母さん亡くなってるんだ……確かに話には出てくるけど見たことなかった。


「それでエモウ王、本題の話なんですが……」

「そうだった、君たちは東部諸国連合の特使として訪問してきたんだったな」

「はい……実は東部諸国連合とルジャ帝国の関係が悪化していまして……ルジャ帝国への牽制の為に、エモウ王国と同盟関係を築けないかと言う話でして……」


「なるほど、そう言う話か……」

「正式なお答えはよく考えてからとなると思いますが、いかがでしょうか……思案する可能性はございますでしょうか」


「東部諸国連合との同盟は100%ありえない。これだけは言えることだな……」


「100%! それはどうして……」

「単純な話だ、東部諸国連合という組織は信用できない」

「しかし、エモウ王国はルジャ帝国とは敵対していますし、お互い利益があるのであれば……」


「信用できない相手と同盟関係になるなんて不利益しか産まない、たとえ敵の敵であろうとそれは変わらないよ、悪いけど東部諸国連合とは同盟は結べない」


「どうしてそんなに信用できないんですか?」

「ラネル王女、東部諸国連合から何カ国か離脱したのはすでに知っているよね?」

「はい……四カ国が脱退しました」

「それはなぜか分かっているかい」

「それルジャ帝国の策略で……」


「確かにそうだが、いくらルジャ帝国でもこんな短期間にそんな切り崩しができるかな?」

「そ……それはどう言う意味ですか……」

「東部諸国連合の内部に、協力者がいないと不可能なんだよ……その協力者は今も切り崩しに動いているはずだよ」


「まさか! そんなこと……」

「ありえないとでも言うのかい、そんなに信用できるほど東部諸国連合は一枚岩だったかな」


どうも思い当たることがあるのかラネルの顔色が変わる……


「わかったかね、そんな組織と同盟なんて何のメリットもない、いやデメリットでしかないからありえないんだよ」


ラネルはそれ以上何も言えなかった……それほど的を得た話だったのだろうけど、どうも東部諸国連合の話になった時のエモウ王の顔は好きではない……あんなに優しい笑顔をしていたのに……何ともムズムズとする気持ちが溢れてきて、私は思わずこう言った。


「それでは、アムリア王国と同盟を結びませんか」


よくわからない娘の言葉に、エモウ王は動揺の表情をした。


「いきなりなんだね君は……エモウとアムリアが同盟だって? 残念だけど不釣り合いだ、国の大きさが違いすぎる」


「だけどアムリアは信用できる国ですよ、それはあなたが一番よくわかってるんじゃないですか!」


「ちょっと渚! 何言い出すのよ!」

ラネルがそう静止するが私の言葉は止まらない。


「ラネルのお母さん……いえ、ルリハさんの話をしている時にエモウ王は凄く優しい表情をしていました! あれは愛している人を思っている時の優しい表情です! 愛している人がいた国を……愛している人の娘のいる国を信用できないなんてあるわけないですよね!」


「渚! エモウ王に失礼ですよ! 謝りなさい!」


ラネルの言葉を無視して私はさらに言葉を続ける……でも、どうして私、こんなに怒ってるんだろ……


「どうなんですかエモウ王! 私の言ってることは間違ってますか!」


「……ふっ……女性と言うのはどうしてこうも本質を見抜くのが上手いのだろうな……確かに私はルリハを愛していた、今でも一番大事な女性だ、ルリハの国にルリハの娘か……確かに信用しないわけにはいかないな──いいだろう、アムリアとなら同盟を結ぼう、あのバカのマジュニも一緒にきてるんだろ、すぐに正式に同盟関係を結ぶからここに呼ぶがいい」


その言葉を聞いたラネルは驚いていた……私もこうも上手くいくとは思ってなかったのでしばらく思考が停止していた。

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