第59話 健康第一

全ての買い物が終わり、そのままライドキャリアに戻ってもよかったのだが、ジャンがどうしても行きたいところがあると言ってみんなでそこへやってきていた。


「ここだ、ここ、いや、一度来てみたかったんだよな」


そこはかなり大きな施設で、看板に大きく『ゆ』のマークが書かれていた。


「オエドスパね、最近、各国で支店を増やしてる娯楽施設だってのは知ってるけど、何するとこなの?」


アリュナがそう聞くと、ジャンが嬉しそうに説明し始めた。

「オエドスパはな、何十種類もの風呂、何種類ものマッサージ、世界各国の美味が堪能できる屋台などがあるとこでよ、なんでもサウナってのが最高にハードで極上の癒しだって噂なんだよ」


そのジャンの説明を聞いて、俺は日本にある馴染みの娯楽施設を思い出した。

「あっ、ここは健康ランドか」

「さすが地球人、わかってるじゃねえか、確かオエドスパのオーナーも地球出身だって話だからな」


健康ランドならサウナ好きの親に連れられ、何度も来ているので馴染みはある、確かにちょっとリフレッシュするにはいいかもしれない。



「えっ! ここって混浴なのか!」

オエドスパの中に入り、男女が同じ風呂に入ると聞いて驚いていた……ちょっと恥ずかしいんだけど……


「なんだよ、地球では男女別なのか?」

「そうだよ、混浴の健康ランドあまり聞かない」

「へんっ、そりゃつまんねえな」


俺も男の子である、混浴ということでアリュナやエミナの裸を想像して赤面する。


しかし、実際中に入ってみると……


「なんだ、水着着て入るんだ……」

確かに混浴ではあったが、水着着用で入る風呂であった。


「なんだよ、裸だとでも思ったのか? 知らねえ男女が裸で風呂に入るなんてありえねえだろ」


「いや……確かにそうだけど……」


「あら勇太、私の裸が見たかったの? 別に言えばいつでも見せてあげるのに」

「ナナミも見せてあげるよ」


別に見たいわけじゃ……いや……みたいには見たいが、そう意味じゃないんだよな。


獣人化している肌を見せたくないファルマは、一人で休憩室で本を読んでいるが、他のメンバーは各々何十種類もある風呂を堪能していた。ナナミが大きな浴槽で泳いでいるのは日本人としてちょっと気になるが、この世界では別にマナー違反ってことはないらしく当たり前のように受け入れられている。


そして俺は泡がブクブクと湧き出しているマッサージ風呂で体をリフレッシュさせていたのだが……


「ちょっと、あなた! 私が今からそのお風呂に入りますから出て頂戴!」


いきなり訳わからない声をかけられた。見ると金髪で長い髪のスタイル抜群の女性が、仁王立ちでこちらを見下ろしていた。


「いや、入れるスペースあるだろ、どうして俺が出なきゃいけないんだよ」

一人用ではないマッサージ風呂には十分のスペースがあり、俺が出なくても余裕で入れるからそう反論した。


「知らない異性と同じお風呂に入るなんて汚らわしい……そんなことも想像できないのですかあなたは……」


「いやいや、そもそも俺が先に入ってるだろ、一緒に入るのが嫌なら出るまで待ってろよ」

「私、待つの嫌いですの」


なんて、わがままな女だよ……


「とにかく俺はまだ出ないからな」

「そうですか、では実力行使に出させてもらいます、アーサー!」


そう誰かを呼ぶと、同性の俺が驚くほどの銀髪美形で長身の男性がサッとやってきた。


「リンネカルロ様、どうかいたしましたか」

「この男が風呂を譲ろうとしません、叩き出しなさい」

「はっ! かしこまりました!」


そう言うと美形の男は俺に掴みかかり、力尽くで風呂から引きずり出そうとした。


「ちょっ! ちょっとやめろよ!」


俺の抵抗する声を聞いて、アリュナが駆けつけてきた。

「私の勇太に何してるんだい!」


そう言って美形の男性に容赦ない蹴りを顔面に入れた。


「ぐはっ!」


「ちょっと! 何するのよ、あなた! アーサーが唯一、他者に誇ることができるその整った顔を蹴りつけるなんて……この顔が歪んだりしたら、アーサーには本当に何も良いところがなくなるのよ! そうなったらあなたどう責任とるつもりですか!」


「知らないわよ、私の勇太に悪さするのが悪い!」


「誰の勇太か知りませんけど、私の堪忍袋の緒も切れました……こうなれば決闘です! 私たちと勝負しなさい!」


「決闘ね……いいけど、武器は何にするんだい」

「武器なんて野蛮な物は使いません! 比べるのは己の精神と忍耐力です!」


「ほほう、面白い……具体的にはどんな勝負方法なんだい」


「アレです!」


そう言ってリンネカルロ様が指差したのはサウナルームであった……

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