第5話  日常

魔術というものを知ってたから数日。私は、とりあえず全属性の魔法を試していた。魔法の属性の種類としては、火、水、風、土、光、闇の6種類がある。


試した結果として分かったのは、私に適性のある魔法は風と水であり、特に風と水を組みあわせた氷魔法の適性がずば抜けているらしい。最も他の属性・・・火、土、光、闇に関しては才能0らしい。おかしい。狐といえば狐火のイメージがあるのにも関わらず火の才能が全くないなんて。


おかげで私は「エクスプロージョン!」って叫びながら爆破させるような魔法が使えないみたいだ。1度は使ってみたかったんだけど。


最も人間とは違って才能がなければ使えないという訳では無いらしい。具体的に言えば習得に苦労はするものの初級魔術程度までなら使えるらしい。ほんとは少しでも才能があれば中級魔術程度までなら使えるらしいが気にしたら負けなんだろう。自分の才能が恨めしい。


そんなこんなで今やっているのは素振りだ。魔法以外の武器も使えるようにしておかないといざ魔法が使えない時に困ると思ったからだ。とは言ったものの5歳の体力でそんなに素振りが出来るはずもなく、20回ぐらいでいつもぶっ倒れている。ちなみに剣の方の才能を聞いたところ「うん。大人しく魔法の勉強しようか」と言われてしまった。解せぬ。


◇◇◇


「はぅ〜」


今私はお風呂に入っている。やっぱり汗かいた後の風呂は最高だと思う。私がお母さんと住んでいる家はやたらと利便性が高い。具体的に言えば日本にあった家電が全て魔力で動くようになっているといえば伝わるだろうか?


電球も冷蔵庫もコンロもあるしで便利すぎる。私は使えないのでほぼ意味が無いが。トイレは流石に水洗式とはいかなかったものの汲み取り式なので普通に便利です。


問題はお風呂だ。何故かお風呂にだけはめちゃくちゃ力が入っており、まるでどこかの温泉である。しかも何故かこの世界に無いはずの檜風呂まで用意されていた。このためだけにヒノキを用意したのかと思うと呆れてしまう。それにこの世界では体を洗う際に使うのは石鹸が主流にも関わらずご丁寧にシャンプーやリンス、ボディーソープが用意されていた。しかもこの世界で取れるハーブなどを組みあわせたものらしく匂いも良かったのでいつか作り方を教えてもらうことにする。とまぁ、こんな感じにお風呂好きにはたまらない感じだ。


果たしてこんな環境で過ごした後で独り立ちできるのだろうか?


「気持ちいい〜」


やはりお風呂は人をダメにするのだろうか?素振りで疲れて汗をかいた直後というのもあり、お風呂が気持ちよすぎる。そんな極楽の時間はいつまでも続く訳もなく突如としてお風呂場の扉が開かれた。


「やっほーエルちゃん。お風呂に来たよ〜。」


「げぇっ。」


「げぇって何よ。酷いわね。」


「嫌だってお母さん私をもみくちゃにするじゃん。」


「それはもう可愛いエルちゃんが悪い。」


(あぁ、だめだ。これ。)


お母さんは基本的に訓練ではスパルタなのだがそれ以外ではもうただの親バカである。こいつ本当に女神か?と思うぐらいには親バカだ。


最近ではやっとお風呂に1人で入れるようになったにも関わらずしばらくしたら乱入してくる。


そして私の全身を組まなく洗っていく。その後、抱きしめられた状態で一緒に浴槽に入る。いや、めちゃくちゃ洗うの上手いからいいんですよ?でも当たっているんですよ。何がとは言いませんが、2つの双丘が。これがもう女の体になったから全く興奮はしないものの、ほんの少しだけ残っている男の精神が日に日に削られるんですよね。


でもそれとは別のことが頭をよぎるんですよね。そう、お母さんは美人でスタイルも抜群。スラリとした手足に綺麗なクビレに綺麗で整っているおしりに胸。果たして私は、お母さんのような美人になれるのでしょうか?


「もげてしまえ。」


「大丈夫よ、エルちゃんもきっと将来は素敵なお嫁さんになれるからね。まぁ、私に勝てるような人がいない限りはエルちゃんを嫁には出さないけど。」


いやもうそれ私一生独身じゃん。そもそも男を好きになるかわかんないけども。そんな会話をいつも繰り広げているのだが内心では結構うれしい。だって家に帰ってきたら話す人がいるんだよ?これだけ私の心は解けていく。それにお母さんも本当に嫌がることはしてこないしね。


(恵、快斗。はいなくなってしまったけどとして元気に生きているからね。)


◇◇◇


「瑠衣!瑠衣!どうして、どうして居なくなっちゃうのよ!」


俺ー中村快斗なかむらかいとの目の前では、幼馴染の橘恵たちばなめぐみが涙を流しながらも必死に訴えていた。そう、今俺たちはもう一人の幼馴染である遠藤瑠衣の葬儀に来ている。


2日前の夜に俺は瑠衣が亡くなったことを知った。死因としては轢殺。女の子を守るために犠牲となったらしい。運転手は居眠り運転をしていたそうだ。


(あいつらしいんだよな。)


瑠衣は、基本的にお人好しだ。特に彼の両親が亡くなる前などはそれが顕著だ。亡くなってからは生きる気力を失ったかのような状態だったが恵と二人で支えた。それから少しずつ生きる気力を取り戻していった。それでもやはり両親を失った傷は大きかったのだろう。彼が以前のように自然に笑えるようになることは無かった。


もしかしたら自分の命の価値と少女の命の価値を比較したのかもしれない。それともどこか自分の死に場所を求めてさまよっていたのかもしれない。あいつはいつもどこか人生をあきらめているかのような無気力さを感じさせられるからだ。


だがそんな仮定は今はどうでもいい。問題は残されるようになったこちら側の問題だ。


恵は、瑠衣のことが好きだった。だが瑠衣の状態的に告白が出来ずにずっとこじらせていた。そんな中の突然の訃報だった。俺も涙を枯らすくらい悲しいが恵の場合は、さらに酷いだろう。


瑠衣は、もしかしたらこんなことになるのを予期していたのかもしれない。彼は随分と前に1つ頼み事をしてきた。


「もしも俺が亡くなった場合は、恵を支えてあげて欲しい。彼女は脆い。」


その時の俺は、そんなことを言うな!と叱った。だが彼が頼んできたたった1つの頼み事だ。


(こっちは任せて。天国では幸せに暮らしてくれよ。)


俺は、泣きじゃくる恵の背中をあやしながらそう願った。

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