氷使いの狐巫女さん
七草 みらい
第1章 幼少期
第1話 神様
ある日の下校時刻。俺は、いつも通り一人で歩いて帰っていた。
俺こと遠藤瑠衣に両親はいない。厳密にいえばいたといえばわかるだろうか。小学6年生の頃、お盆休みに両親と車で旅行に出かけた。2泊3日ののんびりとしたものだ。そして両親が共働きで忙しいために家族での貴重な時間だった。とても楽しい時間だった。
だが悲劇は突如として訪れた。俺が両親と話しているときだった。信号が青になったのを確認し、道路を渡ろうとした。その途中で横から思いっきりトラックが衝突してきた。何が起きたのか俺は分からなかった。ただ一つ分かったのは俺が生きていく望みを失ったということだ。結果としてトラックの運転手と両親がなくなり、俺だけが生き残った。復讐をすることもできずに俺はただ茫然としているだけだった。
幸い親族がやさしかったのもあり、俺は死ぬまで苦労しないほどのお金を手に入れることができた。だが俺はただ無気力だった。たった二人の家族を失ってしまったのだ。心の傷はとても大きく、ゆっくり腐っていくかに思われた。
だがそんな俺を救ってくれたのが幼馴染の橘恵と中村快斗だった。彼らだけはいつも一緒にいて支えてくれた。こんなふがいない俺のためにいつも一緒に支えてくれたのだ。感謝しかない。
(もう5年か。)
あの事故からもう5年が経った。忘れたくてもいまだに忘れることができない。俺は、永遠に過去に引きずられたままなのだろうか。そんなことを考えてた時。
小学生くらいの女の子だろうか。その子が一人で横断歩道を歩いている。そこへ一台のトラックが近づいてきている。だがその速度が下がりそうにもない。
咄嗟に俺は、飛び出して女の子の背中を思いっきり押した。それと同時に俺にも衝撃が走る。痛いだろうな。でも生きているならそれでいい。
口の中に広がるのは鉄の味。急激に冷えていく体温。あぁ、俺は死んでしまうのだなと確信してしまった。俺には自分の命なんて大した価値がないと思っていた。そうでもなければ車に引かれそうになった子供のために道路に飛び出る真似なんてしない。
申し訳ない気持ちだったが俺の命程度でまだ未来の明るい子供を救えたのはうれしかった。こんな俺にも存在価値があったんだなって思えた。どうしてだろう?今にも死にそうだというのに何にも感じない。俺はもしかすると心の中でどこか死に場所を探していたのかもしれない。でもひとつだけ心残りがあるとすれば・・・。
(あぁ、すまんな。恵、快斗。最後にお別れぐらいしたかった。)
そこで俺の意識はプツリと途絶えた。
◇◇◇
「ん?」
目を開けてみれば目の前に広がるのは真っ白い空間。白、白、白・・・。壁や床、天井すべてが真っ白だった。
(あれ?)
ふとここで俺は違和感を覚えた。確か俺は、女の子を守ろうとして車にはねられたはずだ。だとしたら俺はなぜ今意識があるのだろうか?ひょっとするとここは死後の世界なのでh
「違います。」
「だれだ!?」
割り込むかのように挟んできた透き通るようなはっきりとした声。その存在感を表すような声に思わず声を荒げた。
「こちらです。」
後ろから聞こえる声にそっと振り返った。
「ッッ!?」
そこにいたのは今まで見たことのないような美女。まるでその完成されたかのような美しさからは人間じゃないとはっきりわかる。そう、それはまるで
「神様みたい?」
「そう神様みたいってえ?心を読まないでください」
「それは無理かなぁ。まぁ、これでも一応神だからね。えへへへ。」
「はへ~、すごい。」
「ところで感心してるところ悪いんだけど進めてもいいかな?」
「あっはい、すいません。」
どうやら少しトリップしていたようだ。少し申し訳ない。きりっとした表情で女神さまが話を始めた。
「あなたには3つの選択肢があります。1つ目はこのまま成仏する。2つ目は同じ世界で生まれ変わる。ただし、この場合はもちろん赤ん坊からね。遠藤瑠衣という人物は間違えなく死んでしまったのだから。一度決まった運命を捻じ曲げることはできないわ。3つ目はそうね。私の管理する世界で生まれ変わる。この3つのうちのどれかね。」
まず1つ目もありっちゃあり。正直心残りはほとんどないからだ。
2つ目は、ない。純粋に生き返ることができるならよかったがこの場合は完全な生まれ変わりだ。しかもその場合、恵と快斗はどうなるのだろうか?俺が成長しきるころにはもうすでにいい年になっているかもしないし、そもそも居場所もわからないしで却下。そして何より俺のことを説明しても信じてもらえないかもしれない。それが一番いやだ。
かと言って3番目の世界も。
「あなたの両親生きているわよ。」
「3つ目のでお願いします。」
「うんうん。やっぱそうこなくちゃね。簡単に説明すると地球にはない魔法が発達した世界で”命の価値が非常に軽い”世界なの」
「ッ」
命の価値が非常に軽いその言葉に思わず息をのんだ。
良くも悪くも日本という環境は非常に平和だ。銃火器で血で血を争い合うような物騒な地域ではなく、法律で戦争が禁じられているぐらいの国だからだ。命の価値が軽いというのはそれだけ争いが絶えないということだろう。
「だから考え直すなら今のうちだけどどうする?」
「大丈夫です。」
俺は女神の言葉に即答した。両親に生きて会えるまたとないチャンス。
「おっけー。そのほかにも人間以外にもエルフやドワーフといった種族がいてね・・・。」
女神から説明された種族の説明をまとめるとこんな感じだ。
人間・・・良くも悪くも普通の種族ですべての種族で平均的な種族。
エルフ・・・人間族よりも体格的に劣るが魔法の腕はその分人間より優れている。弓の腕前はピカイチ。寿命が長いために人間の貴族から狙われることがある。
ドワーフ・・・人間よりも力が強く、酒が大好き。火属性に素養があるものが多いので鍛冶職人が多い。
獣人族・・・猫や犬、狼など様々な種類がいる。基本的に何かしら一芸に特化している。
寿命は人間が50から70くらいなのと比較するとエルフが600、ドワーフや獣人族たちが300年ほど生きることを考えるとかなり違った。ただし上位の種族ハイエルフやエルダードワーフなんかは不老らしい。
そこで悩んだ末に俺は種族を決めた。
「狐人族でお願いします。」
俺が選んだのは狐人族。種族的な特徴を述べると魔法に特化した種族だ。せっかく魔法が使えるチャンスなのだから魔法が使える種族を選ぶほかない。
「おっけー。それで何か希望はあるかな?ある程度は聞いてあげられるけども」
「・・・」
その時の女神様の声は楽観的もしくは可愛らしいとも取れるような声色しているが目が笑ってなかった。そうまるで相手を見極めようとするような目だ。神相手に駆け引きなどする気もさらさらないがここで例えばチートが欲しい、ハーレム希望とか言った場合一瞬でも灰にされるような気がする。まぁ、そんなことなど微塵も望んでいないのでいいのだが
「ん?決まったかな?」
「はい。成人までは少なくとも平和に過ごせる環境にして下さい。」
「そんなことでいいのかい?」
「はい。それだけあれば十分なので」
「いい子だね。任せなさい。」
そこで急速に眠気が襲い掛かってきた。
「それじゃおやすみ。ふふふ、こっからは私のターンだぜ。」
最後のほうがよく聞こえなかったがなぜか寒気を感じた。
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