番外編◇難攻不落の海水浴城へようこそ2
ある夏の日のことだ。
『難攻不落の魔王城』職員たちは、海水浴に来ていた。
とはいっても職員旅行ではない。
第六層・水棲魔物の領域を間借りして、みんなで海水浴気分を味わおうという企画だった。
訪れた職員たちは、みな思い思いに海を満喫していたのだが……。
そこへ我らが魔王様が登場し、『第一回魔王城紅白戦』の開催を宣言。
職員を
『さぁ! やって来たわね「第一回魔王城紅白戦」! 実況はこのわたし! 魔王城職員の
スキューさんは蛸の人魚の女性だ。上半身が人間で、下半身が蛸の亜人。
本人が言うように優れたデザイナーかつ、美しい人でもある。
蛸の触腕を模した髪留めがチャームポイントだろうか。
いつも明るい彼女は、上は三角ビキニ、下半身はスカートタイプの水着を着用。
マイクを握り、今日も元気いっぱいだ。
『そして解説を務めさせていただきます、フェローと申します』
フェローさんは赤髪の魔人で、魔王様の実父かつ、師匠の息子さんでもある。
タッグトーナメント、レイド、全天祭典競技と様々な企画を成立させた商人で、その手腕は確かなのだが、一時はダンジョン攻略を終わらせようと暗躍していた。
祭典競技の決勝を終えて心境の変化があったのか、以降そういった傾向は見られない。
代わりに、魔王様との関係修復に努めているようだ。
膝丈の水着に黒いシャツを肩に掛け、サングラスは頭に載せた格好。
セレブの海水浴といった趣だ。
『おい貴様、今日の情報をどこで手に入れた? スキューは招待したが、貴様など呼んでおらんぞ』
実況解説の二人は、砂浜に用意されたテーブルで、魔王様を挟むように座っている。
のだが、フェローさんの方は無許可だったらしい。
『娘との海。素晴らしい家族の思い出になりそうだね、ルー』
嬉しそうに微笑むフェローさん。
『話を聞け!』
『父さんの情報網を甘くみてはいけないよ。あ、今の格好良くないかい?』
『腹立たしいことこの上ないわ!』
『反抗期には、まだ早いと思うんだけどなぁ』
『誰か【勇者】を何人か此処に連れてまいれ! 討伐してほしい【魔王】がおるのでな!』
『おや剣呑だね。一体どこだい?』
『貴様のことに決まっておろうが!』
『それより、水着姿似合っているよ。あとで一緒に写真を撮ろう!』
『撮るのは貴様の遺影だ!』
『はっはっは。我が娘にジョークの才能もあるとは、誇らしいな』
『んがー!』
魔王様は両手で頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。よっぽど苛立っているようだ。
師匠も父親としてはアレだったようだが、フェローさんの娘に対するコミュニケーションにも難があるように思える。
通常のやり方では対応してもらえない、という事情があるにしてもだ。
『落ち着いてルー。ストレスは肌に悪いそうだよ』
『ならば貴様は余の健康を害する存在ということだな』
『それは大変だ。【白魔導士】を呼ぼうか?』
『貴様が消えろ』
『そんな悲しいことを言わないでおくれ。私は出資者でもあるんだから』
『ちっ……』
そう。フェローさんは祭典競技以降、魔王城の出資者になってくれたようなのだ。
以前フェローさんが開設した『ルーシーテレビ』を通して、魔物に関する様々な動画を発信できるようになった。
元々は全天祭典競技関連の動画を視聴する為の特設サイトだったのが、他の動画も上げていこうということになったという。
まだ試験的な運用ではあるのだが……。
今のところ、うちで再生数が多いのは、第五層メンバーによるお化粧やオシャレな着こなしについての解説動画。これはシトリーさんやメイドたちの可憐さもあって、男性視聴者も多いらしい。
この他、第四層メンバーによる『人狼式肉体強化術』というトレーニング動画。
あとは第七層【雄弁なる鶫公】カイムさんによる、雑学動画なんかも人気だ。
第八層【刈除騎士】フルカスさんの大食い動画も人気なのだが、食料確保に難儀しているらしく投稿数はまだ少ない。
あと、第三層【吸血鬼の女王】カーミラによる『【黒魔導士】レメ解説』動画は、動画のミラさんが異様に早口かつ目がギラギラしていて怖いという理由で、お蔵入りとなっている。
ミラさんは不満そうだったが。
ダンジョンはその性質上、先の階層の職員ほど待機時間が生まれるので、防衛以外の仕事が発生するのは人によってはありがたいことだろう。
ファンとしても、魔物の別の側面が見られて嬉しい。
『娘からの許可も得たことで。改めて今回の企画について説明いたしましょう』
――『第一回魔王城紅白戦』。
――魔王軍を偶数層と奇数層の二チームに分け、勝敗を競わせる。
――最大五回戦。先に三勝したチームの勝利。
――各チームは、一回戦ごとに代表層を選定。
――その後、競技が発表される。
肝となるのはここだろう。
競技が先に発表されるのなら楽なのだ。
たとえば競技の一つが『競泳』なら、僕らのチームは第六層の水棲魔物たちを参加させれば有利だ。
しかし、この紅白戦では順序が逆。
先に参加メンバーを選ばなければならない。
つまり、水棲魔物の参加を発表した勝負で、競技内容が『砂浜での徒競走』になる可能性もあるのだ。
このランダム性が、吉と出るか凶と出るか。
戦略以前に、運が重要になってくるということ。
ルールはまだあった。
――五回戦のみ、全階層からの参加を受け付ける。
――両チーム特定の層を選出し、四回戦までのサポート役とすることができる。
これは簡単だ。
普通に考えれば、各チーム五層ずつなので、一回戦につき一層を当てれば済む。
しかしこの紅白戦では、盛り上がりの為か五回戦までもつれ込んだ場合は全員参加という仕様。
よって最初から一層が
ので、その一層を事前にサポート役に設定し、四回戦までに仲間の助けとなることを許すわけだ。
『勝利したチームは、ルーシーちゃんの権限と魔王パパのマネーの許す限り、各層につき一つ、どのような願いでも叶えてもらえるわ!』
そうそう、そういう賞品があるのだった。
『はっ、それはいい。頼むぞ――
魔王様が皮肉げに言うのだが。
『ルー、パパと呼んでくれるなんて嬉しいよ。あぁ、勝利チームに報酬に関わる費用は、全て私が負担するとも』
フェローさんが涙ぐむ。
『ぐっ』
フェローさんを凹ませることは、生半可な言葉ではできそうにない。
『ともかく、だ……! みなの健闘を祈る!』
魔王様が強引に話を打ち切る。
『さぁて! それじゃあ一回戦に参加する層を決めてちょうだい!』
スキューさんの指示に従い、僕らは考える。
とはいえ、競技内容が不明な以上、考える余地などほとんどないのだ。
『あぁ、それとこれからの試合でサポートを務める層も、決めてくださいね』
フェローさんが補足する。
赤チーム。奇数層。番犬の領域、吸血鬼の領域、夢魔の領域、空と試練の領域、時空の領域。
白チーム。偶数層。死霊術士の領域、人狼の領域、水棲魔物の領域、武の領域、渾然魔族領域。
僕は白チームとなる。
「サポート役は、第十層が担うべきでしょうね」
僕の意見に、反対する者は出なかった。
僕と【黒き探索者】フォラスは黒魔法で、【魔眼の暗殺者】ボティスは石化の魔眼で、【一角詩人】アムドゥシアスは彼女の操るアルラウネたちで、敵の妨害ができそうだ。
「お願いいたします」「うむ、参謀殿の采配が活きる形であると思うぞ! 貴殿の武勇に関しては、五回戦で発揮する機会もあるだろうしな!」「異議なーし」「……同意」と、各層のフロアボスたちからの賛意も得られた。
『いいんじゃない?』
特に意見は聞いていないが、ダークも賛成のようだ。
「では、一回戦ですが……正直情報がなさすぎます。強いて言えば、特化型の人よりも、様々な状況に適応できる人だとありがたいですね」
この海水浴場が舞台な筈。そう考えると、大きく海エリアと砂浜エリアに分けられるわけだ。
これだけでも、適した者とそうでない者がいるだろう。
片方に適した者を選出した場合、二分の一の確率で不利な環境で戦うことになる。
競技内容の傾向さえも確認できない一戦目。
水陸の両方で活躍できる層に、出場をお願いしたいところだ。
「では、我が第二層を尖兵としていただければと思います」
第二層フロアボス【死霊統べし勇将】キマリスさんであった。
確かに、彼の死霊であれば水も砂も苦としないだろう。
僕は仲間たちを見回し、みんなが頷いたことを確認。
「では、任せる」
参謀口調を意識して、キマリスさんを見る。
水着の上に暗めの色合いのシャツを羽織ったキマリスさんが、「はっ」と応じた。
◇
『さぁて出場層が決定したようね! 赤チーム! 一回戦の出場チームは第一層・番犬の領域! サポートチームは第五層・夢魔の領域!』
『そして白チームの方は、一回戦の出場チームが第二層・死霊術師の領域。サポートチームは第十層・渾然魔族領域ですね』
『サポートチームに関しては、概ね予想通りかしら?』
『そうですね。黒魔法も
『問題は競技の内容よね! さて、それはルーシーちゃんに決めてもらうわ! この箱の中に入っている札に競技内容が書かれているので、それを引いて読んでちょうだい!』
用意周到だなぁ。
促されるまま、魔王様が卓上の箱に小さな手を突っ込み、札を抜く。
『ででん! さーて、一回戦の勝負は――!?』
『うむ――種族不問の競泳である!』
――なるほど。
これだけでは判断できないが、オーソドックスな競技内容だ。
この傾向が保たれるのなら、『天候設定を暴風雨にした状態で
少し安心だ。
『このメンバーで、普通の競技が成立するかって疑問はあるけどね』
ダーク、不安になるようなことを言わないでくれ。
ともかく、試合が始まろうとしていた。
キマリスさんが用意したのは、水属性魔法の扱いが巧みな【勇者】の
対するは、ケルベロス状態の第一層フロアボス【地獄の番犬】ナベリウスさん。
ルールはシンプル。
プールの端から端までを泳ぐように、直線を描くように設定された海エリアを泳ぎ切るだけ。
どちらがより速くゴールできるかを、競うというもの。
スタート地点は、海上に突き出る岩場だ。
逆サイドの岩場に先にタッチした方が勝者となる。
「死霊は魅了されない。敵チームのサポートは、この戦いにおいて無意味です」
死霊を操るキマリスさんが、クールに言う。
「あぁ」
僕は頷いた。
シトリーさんを筆頭とした夢魔メイドさんたちの魅力は脅威だが、死霊には効かない。
逆に、ナベリウスさんには僕の黒魔法が届くだろう。
溺れたら危険なのでそんな使い方はしたくないのだが、海中では【海の怪物】フォルネウスさんや【人魚】のみなさんが待機してくれている。
彼ら彼女らは『水を除ける魔法』が使えるので、万が一溺れてもすぐに救出可能。
『さぁ、両チーム準備完了ね!』
『最初の一戦というものは、その後のチームの士気にも関わる重要なものです。単純な勝敗以上の価値を持つこの戦い、果たして勝利の女神はどちらに微笑むのでしょうか』
スキューさんとフェローさんの言葉が終わると、魔王様が開始の合図を出す。
『では、第一戦目――始め!』
両チーム一斉に泳ぎ出す――否!
『あはははははっ! 白チームの死霊、
『対する赤チーム、これは……犬掻きでしょうか!』
ナベリウスさんは、頭だけを水面から出し、手を交互に掻くようにして泳いでいる。
確かに、そういった泳法を犬掻きと呼ぶのだが……【地獄の番犬】でもそう泳ぐようだ。
『人間から見ると推進効率が悪いらしいけれど、亜人形態をとらなかった理由はあるのかしら』
『複数形態をとれる種族でも、扱いやすい形態というものがあると聞きます。後天的に両利きにした者でも、元の利き手の方が使いやすい、というようなものでしょうか』
『そのたとえ、わかりにくくない?』
『ふむ。では、きっちりした服も好きだけれど、楽な服装の方が落ち着くというような』
『一気に親しみやすさが出てきたわね』
実況解説の二人が話している間に、ナベリウスさんの目的が判明。
彼は前方を進む死霊に向かって、三つ首を向けると、口を開いた。
「なっ! まさか!」
キマリスさんの動揺するような声。
そして、豪炎が吐き出される。
『おぉっとー!? ナベリウス選手、火を吹いたわ!』
『みな様ご安心を、こういったことを想定し、水棲魔物の方々には海底付近にて待機してもらっておりますので』
そういう問題なのだろうか。というか想定されていた事態なのか。
『ほらやっぱり』
小人状態のダークが言う。彼女の言葉通り、普通の競技では終わらないようだ。
海水が灼熱され、蒸発した海水によって蒸気が噴き上がり、そして、蒸気が晴れたあとには。
膝から下を失った死霊が、なんとかまだ進んでいた。
「ぬっ!」
ナベリウスさんが悔しげな声を上げる。
「参謀殿!」
キマリスさんの叫び。
「……わかっている」
今起きたことに内心驚きつつ、だが体は冷静に動いてくれた。
僕から放たれた『速度低下』の黒魔法が彼の犬掻きを阻害し、その体が海中に沈んでいく。
「無念……」
そう言い残し、三ツ首の魔物が海へと没した。
『相棒の黒魔法って、やっぱ凶悪だよね』
言わないでくれ。
同僚を海に沈めるという絵面の酷さは、ちゃんと自覚してるから。
僕の隣では、カシュが「あわわ……」と顔を青くしている。
ダンジョン防衛を日々目にしているとはいっても、今のは衝撃的な光景だっただろう。
その
『たった今、白チームがゴールしたわね!』
『第一戦目、勝者は白チームとなりました』
そして、海中に沈んだナベリウスさんが、【海の怪物】フォルネウスさんの背中に乗せられて浮上。
そこでカシュもほっと息をつく。
「大丈夫だよ」
と彼女の頭を撫でる僕だが、正直驚いた。
確かに、対戦相手の泳ぎを妨害してはならないなんてルールはなかったが。
ナベリウスさんが亜獣形態だったのは、そちらの方が火炎の威力が高いからだろう。
つまり、最初から火を吹くつもりだったのだ。
だが水流による死霊の加速が思いのほか速かった為、距離が開いてしまい、膝下しか灼けなかった。
この勝利は紙一重だったと言える。
もちろん、死霊ではなく、たとえばキマリスさん本人が出場していたら、ナベリウスさんもあそこまで強引な手は選ばなかったに違いない。
そうでないと困る。
今日の僕らは、生身で来ているのだ。
勝利と引き換えに、お気に入りの死霊が傷ついたことで、キマリスさんが落ち込んでいる。
僕は彼を労うように、その肩にそっと手を載せた。
『さて、第一戦は白チームの勝利に終わったわけだけれど、ルーシーちゃん、感想は?』
『うむ。勝者こそ白チームであるが、油断が感じられたのも事実。キマリスは純粋な競泳勝負と勘違いしておったし、レメゲトンは黒魔法を躊躇ったな?』
その通りだった。
意識を切り替えねばならない。
元々、これが勝負だということはわかっていたが。
社員旅行の余興ではなく、生身を使った全力勝負だったのだ。
赤チームは、それにいち早く気づいていた。
次は、それを理解した上で勝つ。
◇
第二戦。
赤チームからの参戦は第七層・空と試練の領域。
白チームからの参戦は第四層・人狼の領域。
競技内容は『ビーチフラッグス』。
――旗のついた短い棒を、砂浜に差す。
――選手たちは、棒と直線で結ばれる場所にて、顔を棒の反対側に向けうつぶせで待機。
――スタートの合図と共に立ち上がり、あとは先に棒を手にとった者が勝者となる。
今回、距離は三十メートルとなった。
赤チームからはフロアボス【雄弁なる鶫公】カイムさんが出場。
白チームからはフロアボス【人狼の首領】マルコシアスさんが出場。
「カイム殿! ここは、両者一騎打ちといきませぬか!」
「あ、いえお断りいたします!」
マルコシアスさんの提案を、朗らかに一蹴するカイムさん。
「むっ。では、致し方ありませぬな」
残念そうなマルコシアスさんだが、断られるのも無理はない。
純粋な足の勝負となれば、マルコシアス有利。いや、カイムさんは空を飛ぶという手もあるか。
それに、空を飛んではいけないというルールもない。
それでも、マルコシアスさん有利には変わりない。
仲間のサポートを捨てるという選択肢は、カイムさんに得がないのだ。
だが、僕やフォラスの黒魔法を除外できるのは、一考の余地があるようにも思える。
ノータイムで断ったということは、対策を講じているのかもしれない。
『さぁて、なんだかしょんぼりしているマルコくんと、相変わらず着ぐるみで中の人が見えないカイムくんが、位置についたわね!』
『着ぐるみで海水浴に来ると、あとの手入れが大変そうですね』
『確かに! お手入れ方法も気になるけど、それよりも勝敗はどうなるのか! さてルーシーちゃん、頼むわね』
『うむ。第二戦目――始め!』
魔王様の合図と共に、試合開始。
まずはマルコシアスさんが瞬く間に立ち上がり、駆け出す。
少し遅れてカイムさんが空を飛び、風魔法によって加速を開始。
カシュが「マルコさんっ、がんばってください……!」と応援する横で、【人狼】たちも雄叫びを上げる。
「うぉおお! 漢!」「漢!」「漢ォオオオッ!」
それを聞いたカシュは目を白黒させたあと、「お、おとこーっ!」と応援の言葉を変える。
違うんだよカシュ、『漢』に『頑張れ』の意味はないんだ。多分……きっと……。
応援の言葉を聞きつつも、僕とフォラスによる黒魔法はカイムさんを狙っていた。
だが、それは――弾かれた。
「…………っ」
フォラスが怪訝な顔をするのが分かった。
『ありゃりゃ、向こうは対策万全だね』
理由は一つしかない、
だがカイムさんの魔力によるものだけ、ではない。
【夢魔】のみんなが、『発動前の
僕が全天祭典競技で見せた
あの精度の魔力操作で、移動中の仲間を保護するのは極めて困難。
それを集団で行うなど、いかに魔王城勤務の者でも、一朝一夕では身につかない。
理屈は単純。
僕もフォラスも、よほどのことがない限りは最短距離で魔法を飛ばす。
だから、僕らとカイムさんを結ぶ線上に、魔力を展開すれば、それで
またしても、やられた。
これは真剣勝負。分かっている。
だが言うまでもなく黒魔術はやり過ぎになるし、角の魔力貯金を使えば魔王城防衛に支障をきたす。
故に、己の魔力器官が生み出せる分で、最大五戦を戦い抜く必要がある。
そういった計算から魔力量を絞ったのだが、これが失敗だった。
それだけではない。
僕は【夢魔】さんたちが、その力を
世界ランク第一位【サムライ】マサムネさんの精神力さえ突破して術中に堕とす技量だ、マルコシアスさんにだって通じるだろう。
だから、僕は魔力の大部分をマルコシアスさんの保護に回していた。
こちらは
『相棒のそういう計算まで読まれてたんだね』
僕はすぐさま黒魔法を放ってカイムさんを妨害しようとするが――競技内容が不利に働く。
そう、一瞬の機会を見逃すという失態は――三十メートル勝負では致命的。
「うぉおおおおおおおおおお!」
「ほっほっほ!」
砂を巻き上げるようにして駆けるマルコシアスさん。
夢魔の魔力に守られながら加速を続けるカイムさん。
二人の速さはほとんど拮抗しており、両者そのまま、フラッグに飛び込む。
ずさぁっと、二人の体が砂浜を滑る。
そして、棒を手にしていたのは――。
「今回は、我々の作戦がちですな」
「うぉおおおおおおおおおおお! 済まない兄弟たちよ!」
カイムさんの着ぐるみに、棒は挟まれていた。
慟哭するマルコシアスさん。涙ながらに健闘を称える【人狼】のみなさん。精一杯の拍手を贈るカシュ。
『カイムくん、やったわね!』
『第二戦目、勝者は赤チームとなりました。エンタメとしては理想的な、接戦ですね』
これで勝負は一対一。
『ダンジョン攻略とは勝手が違うとはいえ、相棒が二回も読みを誤るなんて珍しいね。まぁ、たまにはそういう失敗を見せてくれるのも、可愛げがあっていいと思うけど……相棒?』
「そうか失念していた僕がみんなの戦い方を理解しているように僕の戦い方もみんなに理解されていると考えるべきだったんだそもそも向こうにはミラさんがいるんだから『レメ』も『レメゲトン』も丸裸にされていると想定すべきでその上で相手チームの予想しない形あるいは予想されても防げない形で黒魔法を当てるべきだったのに競技内容を理解する方に意識が割かれて肝心の最適なサポート方法に関しては単純な策しか用意できなかったこれは僕の落ち度だもう同じミスを犯してはいけない――」
『あ、相棒?』
思考を切り上げ、仲間たちに向き直る。
「すみません、次は絶対に勝たせます」
「オレも次は負けない! 頼むみんな! 第五戦に繋いでくれ! いや失言だった! ここから二連勝で、勝利を掴んでくれ!」
僕とマルコシアスさんの言葉に、仲間たちが頷く。
海水浴というイベントを頭から追い出し、普段とはルールの異なるだけの戦いの場と心得る。
『白チーム、戦意が漲ってるわね』
『勝利を喜ぶ赤チーム、気を引き締める白チームと対照的な光景です。さて、白熱の紅白戦、第三戦目に移りましょう』
「じゃあ、そろそろワタシが出ようかしら」
僕らのチームから進み出たのは、水を操って砂浜を進む人魚――フロアボス【水域の支配者】ウェパルさんだ。
そして、相手チームからは。
「私が行きます」
フロアボス【吸血鬼の女王】カーミラが参戦。
『赤チーム、参加チームは第三層!』
『白チームは、第六層ですね』
どんな競技内容が来ても、次こそは絶対に仲間を勝たせてみせる。
それこそが、【黒魔導士】の役目なのだから。
魔王様が箱に手を入れ、札を引く。
『第三戦目は――水着による魅力勝負である!』
「……え?」
……え?
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