第232話◇飲めや歌えや選手たち(下)
不思議な宴だった。
様々な種族が、夜を演出された魔力空間で火を囲み、楽しく騒いでいる。
「ほらアルバ、あんた魔法剣頼りで剣術は下手くそなんだから、稽古つけたげるわよ」
「あ? 酔っぱらいが何言ってやがる」
【戦士】のアルバとブランカさんはなんだかんだで相性は悪くないようだ。
「木刀借りたからちょっと打ち込んでみなさい」
「どっからんなもん持ってきやがった……。チッ、まぁいいぜ? リーダーだけでなく、【戦士】の腕も勝ってるっつぅことを証明してやるよ」
「はっ、威勢は良いね」
周囲も盛り上がり、二人はしばし木刀で模擬戦を行った。
アルバはセンスがある分、ギリギリのところで理屈より感覚を優先しがちだ。
これが上手くハマることも多いが、相手が同じタイプで更に経験も上だと……。
「はっはぁ! びゅーんってねぇ!」
「チッ……!」
アルバの木刀が宙を舞い、その首にブランカさんの木刀が掛かる。
「若い若い。がっつくだけじゃあいけないよ」
「……ババア」
「もう一戦やりたいみたいだね」
「ばっ、おい! まだ剣拾ってねぇよ!」
アルバがギリギリ避けられる速度で木刀が振るわれる。
「実戦でそんな言い訳が通用するとでも?」
「あんたさっき稽古とか抜かしてただろうが!」
「敵の言葉を信じるとは、あんた意外と純粋だねぇ」
「うるせぇ! あぁクソ! やってやるよ!」
「ほれほれ、どっかーん!」
「どんな擬音だ!」
楽しそうだ。
「ベーラ、大丈夫ですか? あまり騒がしいのは得意ではないでしょう」
「平気です、リリー先輩。攻略後の打ち上げで慣れてきましたし、それに……自分が関わらない分には、賑やかな光景を眺めるのは嫌いではありませんから」
【狩人】リリーと【氷の勇者】ベーラさんは、倒木に並んで腰掛け果実酒をゆっくり味わっている。
近づこうとする男性はリリーの冷たい眼差しに射抜かれ、すごすごと退散。
予選参加者の中にいたエルフの女性がリリーに話しかけたことをきっかけに、何人かが集まって和やかに会話が展開されていく。
ベーラさんは特に参加はしなかったが離れることもなく、ぼんやりとリリーの横で話を聞いているようだ。
ちなみに【聖騎士】ラークは供される料理を選んでいる間に女性に囲まれ、いつも通りの眠たげな顔で対応。
それでも女性たちはキャーキャーと楽しそうだった。
……ラークは昔からすごくモテるのだ。
「うぉおお!? おいおいゴルカとバルバトスの酒飲み対決……終わらねぇ!」「マグマ酒……常人なら喉が焼け爛れるとまで言われる酒だぞ!?」「もう樽を空ける勢いだぜ!」
『西の魔王城』四天王である【獣を統べる義賊】バルバトスさんとガロパーティーの【重戦士】ゴルカさんが酒飲み対決をしていた。
あまり推奨出来る行為ではないが、彼らも大人。自分の限界は分かるだろうし大丈夫か。
一応ヨスくんの他にも、何人か【白魔導士】を探しておこう。
「やるじゃねぇかゴルカ! お前とも戦いたかったぜ!」
「バルバトス殿も中々! ふっ、これからいくらでも機会はあるだろうて!」
「それもそうか! 今はまず」
「あぁ、どちらかが音を上げるまで、この酒にて」
二人の声が「勝負!」と重なる。
「みんな楽しんでくれてるみたいで嬉しいよ」
「ふっ、言ったろ? お前なら出来ると」
この宴の功労者である【魔法使い】ブラウさんの肩を、【灰燼の勇者】ガロさんが労うように叩く。
「子供の頃から兄さんの無茶に付き合わされたから、これくらいはね。今回はレメさんの手も借りられたし」
「お前は本当によくやってるさ」
二人の間にしばらく沈黙が流れる。
「……予選、きっと通過出来るよ」
「あぁ」
「僕は、兄さんが最強だって信じてる」
「あぁ」
「次は勝とう」
「もちろんだ、弟よ。楽しく勝とうぜ」
「だね」
ブラウさんはこぼれるように笑った。
ガロパーティーは負けを引き摺らない。けれどそれは、気にしないということではないのだ。
悔しさを飲み込んで、次への戦意を胸に、今を楽しむ心の強さがあるだけ。
ちなみに【剣舞者】のラファさんは火に照らされながら魅惑的な踊りを披露。
周囲の女性を代わる代わるパートナーにしては、彼女たちの拙い踊りさえも芸術に昇華していく。
交代の度に女性のお尻や胸を撫でなければ、素直に感動出来るのだが。
ラファさんの雰囲気やダンスのリードのおかげか、女性たちが嫌がっていないのが幸いか。
「レメ」
気づけば、隣にフェニクスが立っていた。
酒の注がれた木樽ジョッキを渡される。
「あぁ」
受け取り、口をつける。
「新しいパーティーはどうだい?」
「楽しいよ。そっちも前より良い動きをするようになったな」
「魔王城で負けてから、君に言われたことをみんな素直に受け止めて努力したからね」
……確かに、アドバイス的なことを言った記憶がある。
「そっか。まぁ、お互い順調ってことで」
改めて、二人で乾杯する。
「レメ」
「なんだよ」
「私は、全力の君と再戦したい」
僕は今回、【黒魔導士】レメとしての参加。
予選からしてそうだが、角の魔力は一切使っていない。
自前の魔力を聖剣に通すことで圧縮・純化して魔法に使ったのだ。
「……どうかな。でも、今回そうならなくても、別に構わないだろ?」
「それは――」
「また来ればいい。お前の仲間と、僕たちのところまで」
魔王城第十層に、僕とその配下はいるのだから。
フェニクスは、笑った。
「あぁ、そうしよう」
「そう簡単にはいかないけどな」
「どれだけ困難かは関係ないさ。辿りつくよ。私は――勇者なのだからね」
そのようにして、僕らはしばらく静かにお酒を楽しんだ。
騎士さん達は最初こそ戸惑っていたが、次第に他の者たちと話すようになり。
僕らと話を終えたアストレアさんは、騎士のなんたるかをヨスくんに説いている。……実は僕はこれから逃れるように去ったのだけど、あとでヨスくんに食べ物でも持っていってあげよう。
レイスくんとフランさんは身を寄せ合って眠り、それをメラニアさんが優しい表情で見守っている。
そして……あれ、ヴォラクさんは?
「あー、オレは気づいた! 宴と言えば、あれだろう? 花火だろ? これから逆噴火の逆……順噴火? をお前らに見せてやる!」
『逆噴火』はヴォラクさんの技で、上空から火を噴いて超加速し、高威力の踵落としを決めるというものだ。
逆噴火の逆ということで、上に向かって火炎を吐くということか。
「おぉっと待て待てヴォラク! 抜け駆けとはいただけねぇな! 第一火を噴くだけじゃあ花火とは言えねぇ。ここはガキの時分から近所で花火兄弟の名を轟かせていたオレ達に任せろ。弟よ!」
「はいはい……用意するよ」
「花火兄弟だぁ? じゃあどっちの花火が観客を沸かせるか勝負するか?」
「いいねぇ、どうせなら他にも募るか! 我こそはって火属性使いはいねぇか!?」
これが街中なら取り締まられてしまうが、魔力空間内だし大丈夫だろう。
アストレアさんが「ガキの時分から……だと?」と目を細めたが、ヨスくんがすかさず仕事について質問することで意識を逸らす。
「お前も行ってくれば?」
フェニクスに言ってみる。
「いや、私は……」
「ふぅん」
「……やっぱり行ってくるよ。単なる余興だとしても、火精霊本体の契約者として逃げるわけにはいかないからね」
そんな戦いに赴くみたいな覚悟を決めなくても……。
「そうか、頑張れ」
「あぁ、夜を照らすくらいの気概で行く」
「それはもう太陽だな」
僕は苦笑して、親友を見送った。
花火対決? は大変に白熱した。
そのようにして、予選は終わり。
結果発表と本戦の日程が、近づいてきていた。
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