第190話◇おや……? 調査団の様子が……?
僕とミラさんで、オリジナルダンジョンの追加調査員紹介は終了。
マルグレットさんの合図で解散となったわけだが、記者や
たとえば個別のインタビューを試みたり、面白い画が撮れないかうろうろしたり。
必要であればオリジナルダンジョンを攻略する、という僕の意見への反応は微妙。
大きなことを言ったという意味で興味を持った人はいたようだが、大体は【黒魔導士】が何を……という雰囲気。
タッグトーナメント優勝といっても、あれはベリトがいたからこそ。
『優秀なサポート要員で、一人でもそこそこ戦える』と思われていれば良い方なので、そんなものだろう。
野次馬の中には失笑する者もいたくらいだ。
逆に「よく言った!」とか「がんばれー!」などの声も聞こえてきたので、それだけでも以前とは随分違う。
エアリアルさんが僕を高く評価してくれた件も、素直に受け止める者もいれば後輩を立ててやっただけだと言う者もいる。
いきなり世界が変わったりはしないけれど、少しずつ昨日とは違う今日を重ねていける。
「先程の言葉には胸を打たれたよ」
びっくりするくらい綺麗な顔をした男性だ。
こういうのを神に愛されているというのだろうというくらいに、整った顔。金の髪に蒼い瞳。
白銀の騎士鎧に純白のマント。
もう三十代後半の筈だが、二十歳くらいから老けていないように思える。
ランク第二位パーティー所属・【騎士王】アーサー。
第一位パーティー【サムライ】マサムネさんや、第五位パーティー【遠刃の剣士】ハミルさんと並び、世界でも五指に数えられる剣士の一人。
年に一回行われるとある雑誌の特集「今一番セクシーだと思う男性冒険者100人」のトップに選ばれたこともある美形冒険者だ。
……どうでもいいがその特集、フェニクスとラークもランクインしたことがある。
「お久しぶりです、アーサーさん」
「あぁ、レメ」
【
精霊の加護が宿った武器を聖剣と呼ぶが、そうなると基本的に所持者は精霊契約者に限られる。
彼は精霊術は使えない。だが聖剣は使える。
つまり、何らかの方法で加護だけを得たのだ。
「私も田舎の出だからね、故郷を思う気持ちは分かるつもりだ。君の生まれ育った村を救う為に、我々も全力を尽くすと誓おう」
胸に手を当て、真剣な表情で言うアーサーさん。
「ありがとうございます。……そういえば、今回は三人での参加なんでしょうか?」
「あぁ、色々あってね」
アーサーさんの微笑に、一瞬翳が差したように見えた。
第二位パーティーはレイド戦にも不参加。もしかすると、何かあったのかもしれない。
「レメ。マルグレット嬢から聞いてまさかと思ったが、またこうして会えるとは嬉しいな」
少し離れたところでファンの対応をしていたその人が、こちらに近づいてくる。
黒い髪に黒い瞳。がっしりとした体型だが威圧感がないのは柔らかい物腰のおかげか。
アーサーさんと真逆を行くような、漆黒の衣装がよく似合っている。
第二位パーティーリーダー・【漆黒の勇者】エクスさん。
第二位パーティーは全員がイレギュラー。リーダーのエクスさんはその筆頭。
彼は現在、世界でただ一人――
地水火風を司る精霊たちは、数ある精霊の中でも人類に好意的だった。
戦争の無くなった後でも、【勇者】持ちに協力してくれるくらいだ。
だが当然、属性は四つだけではない。
四大属性以外の精霊は、それこそ御伽話に出てくるような存在だ。
気まぐれで、人にとって良いことをしたかと思えば、無邪気に残酷ともいえることをする。
オリジナルダンジョンを作るのも、そういった四大属性以外の精霊だ。
「エクスさん。僕もまたお会い出来て光栄です」
「レメ、俺は本当に嬉しいんだ。君のフェニクスパーティー脱退は本当に残念だった。俺は勝手に君に親近感を感じていたからね」
「……あはは、もしかしてお互い『黒い』からですか?」
「君は、君が思っている以上に多くの人を勇気づけていたんだよ。君が上位で頑張っていたから踏ん張れた【黒魔導士】は多いはずだ。自分の精霊術で悩んでいた俺も、『自分の力で出来ることをする』君の姿勢に元気を貰っていたからね」
エクスさんの顔から、その言葉が社交辞令などではないと伝わってきた。
フェニクスパーティー時代は何度か顔を合わせたことがある程度だったので、そんな風に思われているとは知らなかった。
「まぁ確かに、君が言ったようにお互い『黒い』というのは結構大きなポイントだがね?」
空気を和ませるように笑う彼につられて、僕の表情も緩む。
「それにしても
「いやぁ、はは……」
「タッグトーナメントでのコンビネーションは素晴らしかった。彼女は来ていないのだろうか?」
アーサーさんまでそんなことを言う。
少し離れたところで他の亜人の方々と話しているミラさんだったが、その蝙蝠触角がぴくぴくと反応したのを僕は見逃さなかった。
彼女はいまだに、人前で僕の近くに来ようとはしない。
僕が周囲に『混乱』を展開している時や魔王城、寮室は例外だが、つまり一般人の目にレメと吸血鬼の並ぶ姿を見せないようにという気遣いだろう。
……気にする必要ないのに。
「ベリトは来ていません。でも、ミラさんとも同じくらいに上手く戦ってみせますよ」
「ほう……いや失礼した。君や吸血鬼のお嬢さんの実力を疑っているわけではないんだ」
「大丈夫です、分かってますよ」
ミラさんの蝙蝠触角が嬉しそうに高速でぱたぱたと動く。
「ミラさん」
ぴくり。
彼女の肩が揺れ、話していた亜人さんに断りを入れてからこちらへやってくる。
「な、なんでしょうレメさん」
「こちら、エクスさんとアーサーさん。エクスさん、アーサーさん、こちらミラさんです。……個人的に親しくさせてもらってます」
ミラさんが驚いたように僕を見た。
正直、顔が熱くなるくらいに照れるが、彼女が気にしていることを「気にする必要なんてないよ」と伝えるにはこれが手っ取り早いと思ったのだ。
僕の方から、積極的に関わりがあることを伝えればいい。
第二位パーティーの二人は微笑まし気に笑い、ミラさんと挨拶を交わした。
「旅は長い。馴れ初めは必ず聞き出すからな」
エクスさんがそんな冗談を言う。……冗談、だと助かるんだけど。
「ん!? なんか軽すぎないか! 食料入ってる箱だよな?」
そんな声に、僕らの意識がそちらに向く。
なるべく新鮮なものをということなのか、一部の食料は今積み込んでいるところのようだった。
どうやらその食料を積んだ箱が、思った以上に軽くて驚いたらしい。
「あ? んなわけねぇだろパンパンに積んで……こっちも軽いな」
……どういうわけか、僕とミラさんは同時に顔を見合わせ、ある予感を共有した。
「な……か、空じゃねぇか!」「こっちもだ!」「どうなってんだこれ!?」「お、おいこっちだけなんか入ってるっぽいぞ」「ガタッって!? 今箱が動かなかったか!?」
「ミラさん」
「レメさん、黙っていましょう。私たちは関係ありません」
確かにレメとミラは関係ない。
レメゲトンとカーミラとなると、多分大アリなんだろうけど。
「せ、せーので開けるぞ? せー――おわああっ……!?」
タッグトーナメント決勝並の速度だった。
その場にいた戦闘要員のうち、僕とミラさん以外が警戒の色を見せる。
が、それは要らぬ心配だ。
何故なら――。
「おや、レメ……殿。奇遇。とーなめんと以来」
風を裂きながら迸った銀の光は、僕の前で停止する。
ぼりぼりと白い根菜を食べながら片手を上げるのは、雪白の毛髪に紫紺の瞳を持った小柄な少女。
よくものを食べる人で、豊満な胸と健康的な太ももから栄養がどこに行っているか一目瞭然。
本人的には動きやすい服装というだけなのだろうが、手も足も大胆に晒されている。
自慢の愛槍を背負った彼女こそは――。
「えぇ……お久しぶりです――フルカス殿」
魔王軍四天王の一角にして、第八層フロアボスを務める【刈除騎士】フルカスだった。
対外的にはレメとフルカスの接点はタッグトーナメントのみなので、彼女の挨拶はそれを配慮してのもの。
「え、フルカス!?」「魔王軍四天王の!?」「っていうか結局食料はどこへ消えた……?」
……彼女の胃袋です。
「フルカス殿が参加されるとは伺っていませんでした」
「緊急参戦」
「……なるほど」
魔王様としても、父親の企画に部下二人を表の顔で参戦させるだけ、では引き下がれなかったのかもしれない。
フルカスさんがいれば、その活躍で魔王城の名も売れる。
ダンジョン攻略を無くそうとしている父への対抗策のようなものか。
指輪は一時返却しているので、防衛になれば召喚すればいいわけだし。
「食料は……」
「食べ放題と聞いた」
「あぁ……なるほど」
費用は全部あちら持ちで、確かに食料の制限など聞いていない。そういう解釈も出来る、か。
「構いませんわ。フルカス様ほどの方の助力を得られるとなれば、安いものです。いくらでもお召し上がりくださいな」
優雅に一礼するのは、マルグレットさん。
……いや、それはどうでしょう。フルカスさんは底なしなんですよ……。
その言葉は、なんとかグッと呑み込む。
まぁ途中何度も他の街や村を経由するので、旅の途中で食糧不足に……みたいなことにはそうそうならない……と信じよう。
「ん。あと、あれを積んでおくように」
気づけば、近くにフルカスさんの大鎧が出現していた。
……アガレスさんの『空間移動』でここまで飛ばしたのだろうか。
「しょ、承知致しましたわ。レイド戦では敵同士でしたが、今回はよろしくお願いいたします」
「よろしく頼む」
フルカスさんはちらりと周囲を確認した。
「何をしてる、シトリー」
「あ~、ドッキリ仕掛けようとしてたのに~」
先程までミラさんと話していた亜人さんだった。
その姿が一瞬の内に――シトリーさんのものに変わる。
魔王城四天王が一角にして、第五層フロアボスを務める【恋情の悪魔】シトリー。
「来ちゃった、なんて~」
あー……。
魔王軍の参謀と、四天王の三人が揃ってしまった。
賑やかになりそうだなと思いつつ、とても頼もしいとも思う僕だった。
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