第159話◇第八層・武と『決闘』の領域2




 【龍人】は優れた種族だ。

 並の冒険者では束になっても相手にならない。


 ただ、ここまでで彼らが証明したように、証明するまでもなくランクが物語るように、ここにいる者の中に、並の冒険者はいない。


 【錬金術師】リューイさんは、戦鎚使い。槌を振るい、それが床を叩いたり、軌道によっては擦ったりする度に、サイズが大きくなる。槌越しに分解した床の素材を、そのまま武器に纏わせているのだ。


 錬金術とは、万物を錬成する試みの総称。

 それは石ころを金に変えるようなものだけでない。


 たとえば『斬る』ことを求められた剣であればより『切れ味』を鋭く。

 『斬り続ける』ことを求められた剣であれば『耐久性』を高めるような。

 何かを、より完全な存在に近づける術。


 リューイさんはその応用で、戦いの場に出る。

 ダンジョンにあるもので武器防具を創造、強化して戦う。

 本来は錬成の為に用いる精錬・分解・融合などを、戦闘に転用した珍しい【錬金術師】なのだ。


「フンッ……!」


 巨大化した戦鎚の振り下ろしを、【龍人】が両手を交差させて防ぐ。

 耐えられると判断したのだろう。事実、押し負けることはなかった。

 一撃目は。


「――――ッ」


 戦鎚が離れると、それはでコーティングされていた。

 攻撃の瞬間に、鱗を剥がして戦鎚に融合させたのだ。


 石製の武器は防げても、己を守る鱗が武器に使われたら……?

 そうして、リューイさんは至るところを腫らしながらも、最後は【龍人】を叩き潰した。


 そんな具合に、第八層戦は続いていく。 


 【魔法使い】のミシェルさんは「行っくよ~」とノリノリで大規模な爆破魔法を放ち、敵を四散させた。


 【疾風の勇者】ユアンくんにとっては、初めての魔物との一騎打ち。硬さもとれてきた彼は、さすが育成機関スクールを次席で卒校した秀才。風魔法を駆使して、見事に敵を打倒。


 【狩人】スーリさんは、敵が接近するより先に、その両の瞳を『神速』で貫き。


 【戦士】ハミルさんは通常の斬撃と『飛ぶ斬撃』を重ねることで、一瞬の二連撃を成立させた。


 【召喚士】マルグレットさんは膂力向上の装備と巨大な斧を召喚し、契約した亜獣と共に戦った。


 【破壊者】フランさんは枠に嵌まらない、それでいて『強い』としかいいようのない活躍を、この層でも見せた。異形の右腕に振り回されることなく、意のままに操る姿は見事としかいいようがない。


 他の【勇者】達は危なげなく突破。

 負傷者を出しつつ、退場者は無し。


 そして、彼らは合流する。

 四つの扉の先にあるのは、広々とした闘技場のような空間。

 そこでは、巨大な黒騎士と、幾人かの【龍人】が待ち構えている。 


「フルカス殿! 私を覚えているかな」


 エアリアルさんが嬉しそうに声を掛ける。


「……?」


「あっはっは。いや、構わないとも。ほら、貴殿はオロバス殿とタッグトーナメントに参加しただろう? 解説席にいたのが私なのだ」


 僕がベリトと一緒に出た大会だ。


「……あぁ」


 フルカスさんも、なんのことか思い出したようだ。


「この戦いと、何か関係が?」


「いいや。単に私が、あの日見た貴殿と戦えることを光栄に思うというだけのことだ」


「であれば、なおのこと、言葉が必要とは思わない」


 槍を構えるフルカスさんを見て、エアリアルさんが歓喜に身体を震わせる。


「まったくその通りだ。無粋な真似をした」


 戦いが望みならば、戦うだけでいい。

 フルカスさんの言葉に、エアリアルさんは感動さえしているようだ。


「……一人でやる?」


 エアリアルさんの様子に気づいたレイスくんが、そう言うが。


「いいや、気遣いは無用だよレイス。これはレイド戦なのだから。だが、ありがとう」


「あ、そう。じゃあ、遠慮なく」


 エアリアルさんとしても、一人でやりたい気持ちは強いのだろう。

 だが、それは個人的な願い。チームを勝たせる者として、ここで最優先していいものではないとの判断。


「【勇者】でフルカス殿を攻める。他の者は【龍人】を」


 【嵐の勇者】による簡潔な指示。全員が即座に行動を開始。


 【嵐の勇者】エアリアルが正面から堂々と接近。

 【魔剣の勇者】ヘルヴォールがこれまた正面から駆け寄る。

 【迅雷の勇者】スカハは後方で聖剣の柄に手をかけ。

 【疾風の勇者】ユアンと【湖の勇者】レイスはそれぞれ風魔法で移動し、左右から挟もうと動く。


 【勇者】という生き物は、存在そのものが規格外。

 対応する【役職ジョブ】は【魔王】だが、基本的には最深部にしかいない存在だし、全てのダンジョンにいるわけではない。

 非常に珍しいものなのだ。


 基本的に、ダンジョンというのは冒険者が勝つ。

 僕が参謀に勧誘された時にも話に出たが、亜人がダンジョンでの自分達は『やられ役なのか?』と思ってしまうほど。

 だからこそ、僕は魔物の勇者という新しい道を見つけ、それを歩むことになったのだけれど。


 この魔王城が難攻不落の名を冠するのは、全てのダンジョンの中で唯一、完全攻略されたことのないダンジョンだから。

 フェニクスパーティーによって、人類の到達記録は第十層まで伸びた。

 だが第四位パーティーであっても、魔王の姿を拝むことさえ出来なかったのだ。


 しかし、今回はどうなるか。

 フェニクスに並ぶ人類最強候補【嵐の勇者】を筆頭に、計五人の【勇者】がいる。

 一流の冒険者達もだ。


 そして今、五人の【勇者】が、フルカスさんに迫っていた。

 彼女が槍を頭上で振りまわす。あの巨躯で、ぐわんぐわんと空気を豪快に掻き混ぜている。


 次の瞬間、槍が振り下ろされた、、、、、、、

 エアリアルさんに向かって。


 振り下ろしに合わせて伸びた槍は、当然のように彼に届く。

 が、彼は対応。風の聖剣の切り上げで槍を切断。


「……これは」


 エアリアルさんが何かに気づくのと、フルカスさんの攻撃は同時。

 切断面から、複数の穂先、、、、、が生えてきたのだ。


 そして、それぞれが冒険者達を狙って伸びる。

 フルカスさんの槍は魔法具。伸縮自在で、切られても長い部分を本体として、再び伸ばすことが可能。穂先だろうが柄だろうが再生出来る。


 そして、その自由度はかなり高いようだ。

 形状の変化にも対応しているとは。


 槍の操作は使用者がしなければならない。

 だから今、フルカスさんは、移動する十一人を捉え、その全員を槍で襲ったことになる。

 真正面の振り下ろしから連続する、十一の奇襲に対し、彼らは――。



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