第98話◇ついに来た決勝戦

 



 僕達の勝利を予想外の快進撃とするなら、フルカスさんとケイさん――ダンジョンネーム参加なのでオロバスさんと呼ぶか――の二人は、危なげのない見事な勝利を積み重ねていた。


 この大会では、二人は数々の強者を打ち倒してきた。


 彼らの誰もフルカスさんに一太刀も浴びせることが出来なかった。

 鎧が攻撃を弾くとかではない。ただの一撃も、フルカスさんに触れることは無かったし、オロバスさんに当たることはなかったのだ。


 しかし、それで負けた側の評価が下がることはない。……いや、どうしたって否定的な意見は出るものだけど、ほとんどの人は『これが魔王城四天王の強さか』と感心する方に意識が向いているようだ。

 とまぁ、そんな感じ。


 二人の強さ、特にフルカス師匠の強さについては身を以て知っているので、大会での活躍を見ても驚きはない。


「ベリト」


 会場へ向かう途中の僕ら。


「どうしたの?」


 勝利者インタビューを終えた僕らに残るのは、決勝の試合。

 けれどフィリップさんとの戦いは既に終わっている。


「その……僕は、あの二人に勝ちたい」


「? ん? うん……あ」


 何かに気づいたようなベリト。


「レメは、ボクが燃え尽きたって心配してる?」


「う……ごめん。少しね」


 目標を達成すると、どうしても気が緩むものだ。解放感を感じるなという方が無理な話。そこから気を引き締めるのに時間が掛からない人もいれば、時間が掛かる人もいる。

 まだ付き合いが浅く、そのあたりが掴めていなかったのだ。


「あはは、いいよ。というか、当然だね。さっきまで気が抜けてたのはホントだし。でも、大丈夫だよ。やるからには優勝目指すさ。それに……」


 続く言葉が発せられるまでは、間があった。


「ベリト?」


 なんて、僕が首を傾げるくらいには。


「き、キミとならさ、負ける気しないっていうか……」


 顔を逸らしながら、そんなことを言うベリト。


「……ありがとう、最高の褒め言葉だよ」


 【黒魔導士】はサポート要員。

 どれだけ高評価されても、入れて勝ちやすくなる【役職ジョブ】でしかない。


 僕と一緒にいて、負ける気がしないということは、絶対に勝つということで。

 それはどの【役職ジョブ】であろうと、最上の賛辞ではないだろうか。


 胸が熱くなるのを感じながら、見えてきた会場の光に向かって歩き続ける。


「れ、レメは?」


「え、ど、どうかな」


「ひどい!」 


「あはは、冗談だよ」


「……ほんとかなぁ。まぁフェニクスパーティーや魔王軍と比べたら、九十九位なんて頼りないかもしれないけどさ」


 あ、少し拗ねてしまったようだ。

 僕は反省しつつ、口を開く。


「僕は、小さい頃から【勇者】に憧れてて、一位パーティーになりたいとも思ってた。フェニクスとならなれると思ったよ。魔王軍になってから目標は少し変わったけど、『難攻不落』の名を落とさないように頼りになる仲間と戦った」


「……うん」


「これまで僕は一緒に勝ちたいと思う人としか組んでこなかったし、組んだ人とは絶対に勝ってきた。そして今回、僕は此処まで君と一緒に戦ってきただろう? それが答えじゃあだめかな」

 

 アルバとは性格的に合わないなぁと思うことも少なくなかったが、彼のフェニクスを勝たせたい思いは本物だ。そこが共有出来るなら、僕にとって共に戦う仲間として不足はない。


 僕の言葉に、ベリトはぼそりと言う。


「……回りくどい」


「うっ」


「嘘。伝わった……ありがとう」


 今、仮面の奥の彼女は顔を赤くしていることだろう。

 顔が逸らされたことで、そう予想する僕だった。


「行こうか」


「うん、勝ちにね」


 そうして僕らは、決勝に挑む。

 フィールドの反対側には、既に対戦相手が揃っていた。


『いやぁ、開催当初は誰が予想出来たでしょうか。決勝に残った冒険者が一人、それも【黒魔導士】になるとは』


『魔物となると、どうしても悪役、やられ役という印象ですが、こういった大会においては役柄を演じる必要がない。純粋にどちらが強いかを競う戦いだと、こういうことも起こるのですね』


『種族問わずで募集を掛けたからこそ見られる光景というわけですね。第一位としてはどうでしょう? 予選から含めると、結構な冒険者が参加していましたが』


『難しい質問ですね……。たとえばこの情報を、単に知らされたなら「情けない」と言ったかもしれません』


 ですが、とエアリアルさんは続ける。


『今回、私は直接彼ら彼女らの戦いを目の当たりにしている。観客のみなさんもですね。戦いの内容を、ぶつかり合う熱を私達は知っている。レメ以外の冒険者が残らなかったことに不満の声など、上げられませんよ。彼らは正しく勝利を重ねた結果、此処に立っているのですから』


『その通りですね。それに個人的にも楽しみな対戦カードです。レメ選手とベリト選手という人間と魔物のタッグ。対するは魔王城四天王が一角【刈除騎士】フルカス選手と馬人の射手オロバス選手。魔物と魔物が戦うというのも、普通のダンジョン攻略では見られないものですからね』


『冒険者同士の戦いや魔物同士の戦いが見られる。これは本当に面白い試みだと思いますよ。たとえば子供の頃、好きな冒険者を友人と話している時に、自分の好きな誰々の方がずっと強いと言い争いになることがありましてね』


『ほぉ、エアリアル殿ほどの方でも子供の頃はそういった話をされたのですね。ちなみに自分もしました』


『今回はタッグトーナメントですが、個人戦なんて開催されたら夢の一騎打ちが実現するかもしれないわけですよね。私も、正直戦いたい相手が沢山います』


『四大精霊契約者同士の戦い、なんてものも実現するかもしれないと考えると、興奮してきますね』


『フェニクスとは是非手合わせしたいですね。それと――レメ、君ともね』


 ……エアリアルさん。


 光栄ですけど、それだと僕に肩入れしているように聞こえますよ。


『フルカス選手とは、その内魔王城で』


 違った。

 決勝にまで上がってきた選手達に、観客の興味を持たせようとしてくれたのか。


 その後、オロバスさんの機動性と弓の腕、ベリトの剛柔自在な魔法にも言及。

 第一位が此処まで言うほどの選手となれば、観客の関心は一層高まる。


 更には第一位パーティーの魔王城攻略も示唆し、試合とは別のところで話題を提供。

 此処での発言なのだから、それが取り上げられるごとに必然的に大会の存在にも触れられる。


 結果的に、フェロー殿の人選は完璧、ってことになるのかな。


 ――まぁ、今考えることではないか。


「【黒魔導士】レメ、よくぞ此処まで来た」


 フルカスさんの、変声機を使った声。


「魔王城では、僕は途中で離脱しましたから。貴方と戦えて光栄です。【刈除騎士】フルカス殿」


 僕らが同僚であり、友人であり、師弟であることは観客に知られるわけにはいかない。

 だから、それが知られない範囲で思いを交わす。


「【黒魔導士】にしては中々の剣。きっと師匠が優秀……なのだな」


「えぇ、今日はその剣の師も試合を見ている、、、、ので、負けられません」

 

 目の前で。


「このフルカスに、勝てると?」


「相棒と、二人でなら」


「……その意気や良し」


 決勝が始まる。




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