第82話◇始まるよ大会予選
最終的に、タッグトーナメントには四十九組が集まった。
これでも減った方なのだという。
一応は誰でも参加オーケーなので、一般人の参加希望者も多かった。
だが参加には
そして
結果、
ほとんどが――冒険者と魔物だ。
「ねぇ……レメさん。いや、
僕らは今、生身から
「なんだい?
彼女は魔物として僕を呼び、僕は魔物としての彼女の名を呼ぶ。
リンクルームは四部屋設けられ、各部屋八台の繭が配置されていた。
仕切りが立てられ、入退室時間も調整され、プライバシーへの配慮もしっかりしている。
部屋を出て、僕らは廊下を進んでいく。
向かうは戦いの場。
「もしかしてなんだけどさ」
「うん」
「
緊張した声。
「多分ゼロってことはないと思うよ」
「そ、そうかな」
「わざわざ組み合わせ自由を謳っているんだからね、それを強調する為に声を掛けて集めたペアがいると思う」
参加要請を出したのが、フェニクス達やフィリップ・ニコラ兄妹だけとは考えづらい。
彼の目的は魔物へのマイナス感情払拭。
冒険者は基本、公の場で魔物と仲良くする姿を見せたりしない。設定上敵だからだ。
その設定の部分を消したいのがフェローさん。だからダンジョンを廃止したい。
誰かしらを説得し、魔物・冒険者でのペアを用意していると考えるべきだろう。
平等な存在で、共に在ることにおかしなところなどないのだと知らせていく第一歩として。
「そっか」
「緊張しないで。大丈夫だよ、僕らなら勝てるさ」
「うん……ただ、ボクが怖いのは……」
受け入れられないこと。
動画を投稿しても、再生数が二桁で止まってしまうパーティーもある。
趣味で済むなら、それでもいいのだ。一人でも見てくれる人がいるならいいじゃないかと思える。
けれど、人生として冒険者を選んだなら、それではダメなのだ。
より多くの人を楽しませられなければ、生きていけない。冒険者ではいられない。
続けていく為には、自分を好きになってくれる人が大勢必要。
だからこそ、見向きもされない現実は、冒険者にとって地獄以外の何物でもない。
あの地獄がまた顕現しやしないかと、彼女は恐れているのだ。
「大丈夫だよ」
「分かってるんだ……昔と今じゃ違うって。勝負に自信がないわけじゃないんだ。でも……どうしても頭を過ぎってしまうんだよ。誰もボクを見ていないんだって突きつけられた時の記憶が」
「だから、大丈夫だよ。まず一つ、悪い意味で注目を集めている僕と一緒ってこと」
脱退後……世間的には追放後、初めてとなる世間への露出。
【黒魔導士】レメというだけで、目立ちはするだろう。視線は集まる。
「……」
「もう一つ。もし失敗したら、僕の所為に出来る。無能な【黒魔導士】と組んだから失敗したってね」
わざと真剣な顔で言ってみた。
一秒、二秒、三秒くらいの沈黙。
「ふふっ……」
ようやく、彼女が笑った。
「それは無理だよ、レメ。君の所為で負けるなんて有り得ない」
「なら僕らは優勝するわけだから、みんなの視線は釘付けになるよ。優勝台に立てば、自然とそうなる」
「ボクの所為で負ける、って可能性が抜けてるよ」
「勘弁してくれ。君がいなきゃ勝てないよ」
「……ありがとう」
それきり、彼女の視線が下に向くことはなかった。
「ボクは勝って、証明するよ。ボクは憧れた勇者になれるんだってこと。そして――」
彼女が、僕を見た。
「――この世界に、素晴らしい【黒魔導士】がいるんだってことを」
その声に、もう憂いはない。
「……ありがとう」
そして僕らは戦いの場に到着。
長方形のステージだ。
普段、長球ボールを抱えたり投げたり蹴ったりするスポーツの試合で使われる会場を借りている。
僕らで最後だったらしく、会場には十六組のペアが既に揃っていた。
四十九組は多いということで、これを予選で十六組まで減らす。
フィリップさん達が、ランクが最も高いということで予選免除。
そうすると四十八組になるので、十六組が三つに分けられる。
丁度、運営が用意した三十二の繭を三回転すればいいわけだ。
十六組の中から五組勝ち抜き、というのを三回やると、十五組残る。そこにフィリップさん達を足して、本戦が執り行われる。
「おい……あれ」「【黒魔導士】レメっ? まだ冒険者やってたのかよ」「横はなんだ……魔物?」「
嘲りと笑い。
まぁ、こんなものだよな。レメとして露出するのは久しぶりだから、こういうのも懐かしく感じる。
ミシッ、っと音がした。
彼女の握られた拳が軋む音だった。
「あぁ、レメ。君が兄さんに怒った気持ちが、ようやくちゃんと分かった気がするよ」
表情は窺えないが、露出した口許は笑みの形に歪んでいる。
もちろん、込められた感情は怒り。怒りのあまり、笑っているのだ。
フィリップさんにフェニクスを二流と言われ、僕は怒りが湧いた。
ニコラさんも兄の失礼な態度に怒っていたが、そこは家族。口の悪さも承知済みであれば、どういう人間で、どういう思考があってあぁいう言葉を選んだかは承知しているだろう。
だから、僕の怒りに完全な理解や共感を示すことは出来なかった。
そこを今、彼女は分かったのだという。
――うぅん……いや、まぁ。やる気が出ているようだし、いいのか?
あまり感情的になるべきではないとも思うが、メラメラ闘志を燃やしている姿を見ると悪くない状態に思えた。
『えー、あー、あ、聞こえてるでしょうか? うん、よさそうですね。私は今大会主催者のフェローと申します。魔人です。怖くないですよ。嫌わないでくださいね、冒険者のみなさん。なんて。今回は参加希望をありがとうございます――』
スピーカーから声が聞こえる。
――これがフェローさんか。
会場内には魔力が満ちている。絶えず放出し、
フェローさんは話が長い人のようだ。
しばらくうっすら内容を聞くに留める。
そろそろだろうか。来た。
『と、いうわけでですね。十六組で今すぐ戦ってもらって。乱戦っていうのでしょうか? ガンガン退場させてしまって構わないので、残り五組になったら終了というルールです。では――始め』
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