第40話◇第十層攻略直前インタビュー

 



「さて、いよいよ第十層攻略ですが、これまでを振り返ってどうですか?」


 魔王城前、リポーターの男性からの質問。

 私達五人は映像板テレビ番組収録用映像記録石ビデオカメラのレンズを向けられ、インタビューに応じていた。


 映像板テレビ放送では、明確に枠が決まっている。この時間からここまで、という明確な区切りがあるのだ。


 だから攻略が成功するにしろ失敗するにしろ、早く終わってしまうとよくない。長ければ編集すればいいが、短いモノを長く伸ばすのは難しい。同じ映像を何度も見せたり、スローにしたりするにも限度がある。


 なので、攻略以外の部分で尺を稼ぐわけだ。

 意気込みを語ったり、勝利後に感想を語ったり。そういう映像が使われることも珍しくはない。


 魔王城は他のダンジョンと比べても展開が読めないので、第十層攻略前にインタビューさせて欲しいと言われた時も不思議には思わなかった。

 きっと、魔王戦の前にもされるだろう。


「私達に続く形で攻略を進めた多くの冒険者が一層で全滅しているように、魔王城は非常にレベルの高いダンジョンです。数少ない二層以降への進出者達もみな、四層までに全滅している。設定されている『攻略推奨レベル』よりも難度の高いダンジョンという印象でしょうか」


 私達が攻略した時には遭遇しなかった謎のローブの魔人と、黒魔法を使う【黒妖犬】。これらが登場した時、突破出来た者はいない。

 そういう意味では私達は幸運と言えるかもしれないが、わざわざ触れまい。


 ……しかし、噂を聞く限り相当数の黒魔法使いを揃えていたようだが、私達の攻略開始までに集められなかったのか?

 謎のローブの魔人も、謎と言われているだけあって役割が不明だ。【黒妖犬】使い、と予想されてはいたが。


「なるほど。確かにこれまでほとんど退場者を出さなかったというのに、第五層から毎回誰かしらが落ちていますからね」


「難攻不落の名に恥じぬ魔物を揃えた、攻略し甲斐のあるダンジョンということでしょう」


「第五層と言えば、【黒魔導士】レメ脱退後の初攻略でしたか。フェニクス氏は彼と幼い頃から親交があったようですが、親友の脱退が攻略に及ぼした影響などはあるのでしょうか?」


 …………。

 レメのことは訊かない取り決めだった筈だが、リポーターは何食わぬ顔でマイクを向けて来る。


 レメ脱退に関する私の意見は、世間に発表されていない。沈黙を貫いたからだ。

 レメは必要だったと言ったところで誰も喜ばず、望んでいるのは切り捨てたことが正しかったという言葉。


 そんなこと、口にしてやるものか。

 インタビューを切り上げてダンジョンに向かおうとした私だが、そうなる前に声を上げる者がいた。


「レメさんは非常に優秀な【黒魔導士】だったと思いますよ」


 【氷の勇者】ベーラだ。

 一瞬ぽかんとしたリポーターだったが、すぐに口を開く。


「え、えー、ですが貴女はそのレメ氏と入れ替わりでパーティーに入ったわけですよね。戦力強化を望まれて。そして実際に戦力はアップした」


「そう思うなら、貴方は見る目が無いですね」


「――――」


 ベーラの冷笑に、リポーターは固まる。


「私の加入で強化されたものがあるとするなら、画面映えでしょう。全体のバランスは前の方が良かったと思います。派手な戦いが見せられるようになった、それが私が加入したことの利点ですね。それだけだと思います。それ以上を語る程、私は恥知らずにはなれません」


 最早驚くまい。

 ベーラは言いたいことをズバッと言う人間だと、もう分かっていた。

 最初は緊張からかおどおどした印象を受けたが、短期間で慣れたらしい。


「れ、レメ氏が優秀な【黒魔導士】だったと? 噂では以前から仲間内でも問題視される程に役立たずだったと言われていますが」


「噂を根拠にモノを語ってしまうんですか? というか、それを新入りの私に訊いてどんな答えを期待しているのでしょう。あ、そういえば第一位【嵐の勇者】エアリアルさんもレメさんを褒めていましたね。これは噂じゃないですよ?」


「だ、第一位がっ? そんな話は……」


 個人的に会った時に聞いた話だ。彼らが知らないのも当然。

 顔を赤くしながら、リポーターはマイクをアルバに向けた。


「あ、アルバ氏はっ、以前のインタビューで明言されていましたね? ご自身が彼に脱退を促したと、そしてそのことは正しい判断だったと!」


「……これ、十層攻略前のインタビューだよな。いつまで此処にいない奴の話を続けるんだよ。仕事をしろ仕事を」


 ラークとリリーが意外そうな顔をした。

 これまでのアルバならば、嬉々としてレメの欠点をあげつらい楽しげに笑った筈。

 だが今は不機嫌そうな顔でリポーターに苦言を呈した。


 私達から望む答えが得られないと分かったリポーターは、しばらく悔しそうな顔をしたが、やがて当初の予定通りの質問を再開した。


「第七層から第九層まで全て三人が落ちていますが、第十層はどうなると思われますか」


「まだ見ぬ強敵が待ち受けているでしょう。ですが私達の戦いに敗北はない。それはこれまでの戦いが証明していましょう。今回も、そこだけは変わらない」


 その後、一人一人の意気込みを答え、インタビューは終了。

 カメラが止まった後で、私はリポーターを呼び止める。


「は、はぁ、なんでしょう。あれはわたしの独断ではなく上が――」


「どうでもいい。以後、気をつけて頂きたい」


 目の前に立った私が切にお願いすると、リポーターは腰を抜かして震えてしまった。

 ベーラが私の袖を引かなければ、リポーターは失禁したかもしれない。


「……あの、リーダーの幼馴染愛は分かったので、一般人を魔力で脅さないで下さい」


 魔法という形に練り上げずとも、人は魔力を感じることが出来る。

 たとえば人が感じる『気配』というのは、人から無意識に放たれた魔力を察知したものだとも言われる。

 これは感じる者が少ないだろうが、『殺気』も同じ。


 【炎の勇者】が意図的に魔力を向ければ、常人はわけも分からず脳内が恐怖で埋め尽くされる。

 レメの黒魔法に比べれば魔力効率がかなり悪い上に、魔力を纏う術を持っている者には効果が薄いので、ダンジョン攻略には使えない。

 あと、画面映えもしない。


「脅していないよ。注意していただけだ」


「物は言いようですね」


「……随分とパーティーに馴染んでくれたようだな。リーダーとして嬉しく思う」


「光栄です。レメさんが恋しくないですか?」


「からかうな」


「心配しているのです」


「物は言いようだな」


 ベーラが微かに笑う。


「勝てますよ、このパーティーで」


「あぁ、分かっている」


 私達は魔王城へ向かう。


「ベーラにばかり働かせてしまっています。挽回せねばなりませんね」


「難度がさ、高いんだよね、やっぱ。でも、ここまで来てやり直しは嫌だしなぁ」


「……何が出てきてもぶった切る。もう落ちねぇ」


 三人もやる気は十分。


「さぁ、第十層を攻略しよう」



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