初めてのボーリング

 まさか、ボーリング場まで来てナンパ男に引っ掛かるとは俺すらもびっくりな所だが、ハッタリをかまして見事に撃退することに成功。


その後、俺は夏美のボール選びをすることになった。


「ボールってどうやって選ぶの?」

「まずは、自分でどれが持てるか確かめてみて」


 夏美は、それぞれを持ち比べた結果、9ポンドを選択したが女性として選ぶ重さとしては正解らしい。


 その後も、俺の指示の下で色々と教えながら準備を進めると。


「うん、これなら大丈夫そう。なんか、楽しみになってきた」

「じゃ、行こうか。あ、ボールには油がついてるから服につけないように気をつけた方がいいな」

「油?」


 自分達のレーンに到着したので、夏美の先ほどの質問に答えることした。


「ボールを投げる所をレーンって言うんだけど、そのレーンにはボールが向こうまで行くように油が塗ってあるんだよ」

「そうなんだ」

「ほら、隣のレーンの子が投げるから見ててごらん」


 論より証拠を見せる為に隣にいた家族に目を向けさせると、丁度小さい子供が投げる手前だった。


 子供が投げると力なく、止まりそうに思えるが一向に止まる気配を見せないままピンに当たり弱々しく倒れていくが、これまた運が良く全部倒れた。


「あんな小さい子の力でも届くんだね。不安が一気に無くなった♪」


 良かった、投げる前に笑顔に戻ってくれたのは隣の小さい子供のおかげ。


 しかし、靴を履こうとした途端に俺はあることに気付く。


「夏美、今日はサンダルか……ちょっと待っててくれ。あ、サイズは」

「ハル?」


 俺は、フロントに行くと靴下を購入して夏美に渡した。


「失念してた、この靴に履く場合は靴下が無いといけないのを。ごめん」

「ありがとう♪」


 靴を履いて、俺と夏美はレーンの前まで行くとある程度の説明をすると『気をつける』と言って、元の場所へ戻る。


「言っておくけど、俺の投げ方は特殊だから参考にしないでくれ」

「そうなの?」

「けど、ボールがピンに当たる所だけは見ててくれるといいかな」

「分かった」


 見本を見せる為に俺が最初に投げることにして、所定の位置に立ち、周りと同調しないようにしてから、投げる動作に移り、ピンにめがけて投げ……ピンに当たる前に俺は。


「来い!」


 ボールがピンに当たった瞬間、気持ちいい音が鳴るとピンはびっくりするほど綺麗に倒れ、席に戻ろうとすると夏美は茫然と見つめていた。


「夏美?」

「ハル、か、格好いい!すごい、すごい。私も早く投げてみたい!」

「落ち着いて、今からちゃんと説明するから」


 あまりにも綺麗過ぎた所為か、夏美が興奮してしまい、落ち着かせないと大変なことになりそうなので。


 ようやく、落ち着いた夏美を見て大丈夫と判断した俺は、夏美にレクチャーをすることにしたが、俺自身もレクチャーできるほど上手い訳ではない。


「夏美は、上手く投げるのと楽しく投げるのだとしたらどっちがいい?」

「うーん、今日は楽しく投げたいな。でも、どうして?」

「単に聞いただけ。そうしたら必要な事だけ教えるから投げてみようか」

「お願いします」


 今回は、ちゃんと投げるを重視するよりも楽しく投げることを重視にしたので俺は夏美には最低限の事だけを伝えた。


『右隣の人と一緒に投げない』『ボールは振り子のようにして投げる』『レーンにある▲を見て投げる』の3点だけを教えた。


 夏美が、所定の位置に立ちボールを構えると少しふらつく感じがしたので俺が夏美を両肩を持って支える。


「あ、ありがとう。ずっと持ち上げると結構重いんだね」

「大丈夫か?変えるか?」

「ううん、大丈夫だからちゃんと見ててね。行くよ」


 レーンの少し前から投げるような形にして俺の言った通りに投げるとボールは一直線にピンへと向かって行く。


 夏美は、その場でボールの行方を見ていて内心ドキドキだろう。


 そして、ボールとピンが触れた瞬間に俺の時よりは小さい音ではあるが爽快な音が響き、ピンは……


「倒れろ!」


 俺は、気づけば叫ぶような声を出していてピンはグラグラしながらも倒れる。


「たおれた……倒れたよハル!」


 夏美が俺の所へ向かってくるなり、抱きついてくるもんだから俺の心臓はバクバクもんになっていた。


 このままだと、俺の方がやばくなりそうなので『夏美』と声を掛けて優しく引き離すと、自分の行為に気付いたのか顔を真っ赤にして俯いた。


「ご、ごめん。あまりにも嬉しくて」

「俺は、大丈夫。それよりもおめでとう」

「ありがとう。全部ハルのおかげだよ♪」


 再び、夏美を落ち着かせて俺達は投げることを一旦放置して談笑していた、


「ハルの言った通りにしたら出来た。あれはなんていうの?」

「あれは、ストライクで2投目で全部倒すとスペアって言うんだ。残りは追々説明するから今は投げようか」

「うん、あの感覚忘れたくないもんね」


 その笑顔は、ほんとに反則だよな……アキよ、こんな時はどうしたらいいんだ?


 いない人間に、頼ることは出来ないので俺は平常心を心がけることにした。


 夏美が初めてということもあるので、2ゲームほどで済ませる。


 お会計を済ませると、店員さんからスコアシートが渡されるので2人で見る。


「ハルのこの点数はいい方なの?」

「うーん、微妙だな。俺って尻上がりタイプなんだ。夏美は初めてにしてはいい点数だと思うから」

「冬姫とかはボーリングするの?」

「数回行ったけどな、良い時と悪い時の幅が大きいんだよな」


 ゆっくり遊んでいたので、他に回る時間が無くなってしまったから夕食を済ませて夏美を送り届ける。


「ハル、今日はありがとう。楽しかったからまた連れて行ってくれる?」

「いいよ、今度はみんなで行くか?それともまた俺と行くか?」


 そう言うと、夏美は俯いてしまいながらも必死に声を絞り出すように。


「で、出来たらハルと行きたい。でも、みんなとも行きたい」

「了解だ、ならまた2人で行く機会作ろうな」

「うん。それじゃまた明日ね。おやすみ」

「おやすみ」


 夏美が、家に入ったのを確認すると家に向かって舵を切る。


 今日一日、夏美の魅力に踊られっぱなしだったが悪い気はしない。寧ろ、役得すら思えるほどに……けど、これが恋愛感情なのかは今の俺には理解出来なかった。


 そして、今日の事がある2人にバレているとは露知らずにいた。

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