夏美とデート

 日頃の感謝のお礼として、俺は夏美とデートすることになった。


 俺の個人的な意見で言えば、デートは恋人同士の行為だと思っていたので、アキから否定をされた時にその考えは少しづつ変わっていき、その結果が林間学校の肝試しの後ことだった。


 自分の口から『デートしような』なんて言うなんて思わなかったのだ。


 俺自身、夏美に対して恋愛感情を持っているのかすら分からないのに、デートなんかしていいのかと、少し悩む所ではあるが言った以上は夏美に喜んでもらいたいのだ。


 果たして、この『喜んでもらいたい』というのはどっちなのか。


 異性に対しての言葉なのか、春夏秋冬のメンバーとしての言葉なのか。


 俺は、夏美の家の近くになるとLAMを送り、家の前で待つ。


「おはよう、ハル。迎えに来てくれてありがとう♪」

「………」


 ドアを勢いよく開けて出てきたのは、清楚感漂うワンピースを着た夏美で、俺はその姿に一瞬だけ声を出すのを忘れてしまったくらいに……か、可愛すぎる。


 いいのか?俺なんかがこんな可愛い子を連れてデートなんて……


「……る。ハル?」

「ごめん、あまりに可愛くて見惚れた」

「な、な、なんでそんなこと普通に言えるの!?」


 普通って言うか、俺の思ったことを単に声に出ただけなんだが……っていうか、気持ち悪いって思わないのか不思議である。


 まぁ、これで引かれて帰られてしまっては何の意味すら持たなくなるので。


「今の事は忘れて、再スタートってことでいいかな?」

「恥ずかしかっただけで嫌じゃないの。なんて表現したらいいか分からなくて」


気持ち悪いと言われなかっただけ幸い。


 ってことで、再度仕切り直して俺達はあのショッピングモールへと歩き出すと、夏美がこんなことを聞いてくる。


「今日は、どこにエスコートをしてくれるのかな?」

「さて、どこにしようか。夏美は何かしてみたいことある?」

「ハルから言ってくれたんだから、ハルが決めてね♪」


 どうやら、今回は俺が決めないと駄目なようだな……まぁ、時間もあったからプランはそれなりに考えてあるけどな。


「分かった、今日はショッピングモールじゃない所でもいいか?」

「ちょ、ちょっと待って!!わ、私、まだ心の準備が……」

「夏美?」

「だって、私に色々するつもりなんじゃないの?」


 ……おい、誰だ。純真無垢な女の子に入らぬことを吹き込んだのは!


「一応、確認するけどさ。それ、誰から聞いた?」

「え、冬姫が『ハルがモール以外を選択したら覚悟しておきなよ』って」


 冬姫め……俺の中では花村さんか雪本さんかと思っていたからな。


 ってことは、アキも少し……十分に関与してそうだから、どうお仕置きをしてやろうかな。


「いいか、俺の言葉以外はなるべく信用するな」

「私はハルの物なの?」


 首を傾げて言うんじゃない……可愛すぎて周りの男も見てるに気付いてくれ。そして、その言葉を外で言ってはいけません!


「今のは俺が悪かった……俺は夏美を大事にしたいから付き合ってもいないのに、そんなことはしない」


 あれ?俺、今思いっきり爆弾発言しなかったか?したよな?したな俺!


「大事……」

「な、夏美?」

「嬉しい、私もハルを大事に思ってるから」


 身体をこっちに寄せてくるものだから、夏美から発せられる香りと顔の近さにドキッてしてしまい。


「お、おう」


 こんな声しか出せなかった……


「で、結局はどこに行くの?」


 変な事を言い出したのは夏美さんなんですけど……もう、何を言っても埒が明かないので、ちゃんと伝えることにする。


「ちょっとした、レジャー施設で遊ぼうと思ってな」

「それって、ロンドワンのこと?」

「ああ、夏美はボウリングやビリヤードをやったことは?」

「実は、どっちもやったことなくて。ハルは?」


 俺が提案してる訳だから、俺が全然できなかったら意味ないでしょうに。


 さすが、天然ドジっ子属性を持つ夏美様である。


「親父に教えてもらったよ。まぁ、上手いかどうか分からん」

「そっか、間近で『平均詐欺』が見れるってことだね。楽しみ♪」


 あのさ、ハッキリ言っておくけど『平均詐欺』はアキと冬姫の造語であって、存在しないからね!?って、絶対に聞いちゃいないなこれ……


 駅を降りて、ロンドワンまで着くまで人がわんさかいるもんだから、ちょっとでも目を離せば夏美とはぐれる可能性があるので。


「夏美、今だけ俺と手を繋いでくれるか?はぐれない為に」

「う、うん。私の方こそお願いしていいかな」


 俺は、夏美の手を軽く握ると『あわわ』って表情をしているが、好きでもない男子に手を握られたら、困惑して言葉にならんよな。


 口をごにょごにょさせながらも、言い出せない夏美を余所に俺は歩き出し、夏美の歩幅に合わせる。


 ロンドワンに着くまでの間、俺の心臓はバクバクもんでアキと冬姫は毎回こんなことをしてるのかと思うと、2人が凄いなって思ってしまったのだった。

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