林間学校⑤
肝試しのペアが俺・大木さん、夏美・冬姫、アキ・クラスメイトという形で決まってしまう。
俺は不安を隠さずにはいられなかったが、大木さんに迷惑をなるべくかけないように努力をすることに決めた。
そんな俺は、まだ来ていない大木さんを待っていた。
数分後、大木さんが俺の所へ息を切らしてやってくる。
もしかして、俺を探してたりしたのかな、それだとしたら申し訳ないのだが。
「はぁ、はぁ、ごめーん。遅れちゃった」
「大丈夫だよ、ペアが揃ったらスタートらしいから。行けそう?」
「うん、私は大丈夫。では、行きましょうか犬飼君」
「ああ」
そうして俺も暗闇の中に入っていく。懐中電灯はペアに一つなので俺が持って歩くことにした。
大木さんが『万が一抱きついちゃう時があるかもしれないから』ということだったので。
「やっぱり、懐中電灯一つだと不気味さが一段と深まるね。犬飼君は大丈夫なの?」
「今のところはね。なんか、非公式新聞部が暗躍してるらしいけど」
「え?嘘でしょ!あの杉下が関わってるとロクなことがないのに。でも、今回は生徒会で確認したけど問題なかったはず」
「大木さんって生徒会なの?」
「あれ、知らなかったの?私、生徒会で書記してるよ。だから、今回知ってる人で安心したんだ。浅海会長が窮愛してる弟君に」
ちょっと待て。限定解除してからは生徒会室に呼ばれてはいないが、もしかして色々と問題が起きてないか心配になってきたので、一個だけ大木さんに確認することにした。
「あのさ、浅海会長って生徒会室で俺のこと話してたりする?」
「あ、それもうデフォルトだよ。この場所も浅海会長のチョイスで多少、犬飼君への恨みが入ってるらしいよ」
やっぱりこの場所のチョイスは俺のせいかよ……俺のせいにされても困るが。
「なんか、色々とごめん」
「でも、こうやって犬飼君とペアになれたからよかったかな」
「それってどうゆうこと?」
「別に他意はないよ……多分ね……」
最後に何を言ったのか聞こえなかったけど、敢えて聞くことはしなかったがこの聞こえなかった言葉が、この先の波乱を巻き起こすなんて思いすらしなかった。
ある程度歩くと二手に分かれる道があって、俺らは左側を選ぶことにして歩き始めると雰囲気が変わったのが分かった。
この空間だけ温度が急激に下がるよな肌寒い感覚に見舞われる。
それは大木さんも感じていたようだったが様子が少し違った。
「これ、予定と違う。まさか!」
「ふはは、その通りだ。次期生徒会長候補の大木よ。ここから我ら非公式新聞部が取り仕切られてもらう。楽しみにするが良い」
姿を見せず、声だけなので不気味感が余計に増して、お互いに踏み出すのを躊躇するがいつまでもいても仕方ないので俺から歩き出すことにした。
だが、そこからは恐怖のオンパレードで怖いながらも必死に取り繕っていた。
次の瞬間、予想外の出来事が起きてしまった。
「大木さん、あと少しだから頑張ろう」
「う、うん……」
『キャハーーーーーーーーーー』
「い、いやーーーーーーーーー」
目の前に出てきた物に思いっきり驚いて、俺の持っていた懐中電灯を持って走り抜けてしまった。
取り残された俺は途方に暮れてしまった。
すぐに追いかければよかったのに、彼女の声に俺も驚いて一瞬動くことが出来なかったのが災いして、俺はその場から動くことが出来なくなってしまったのだ。
「ど、どうして後ろから誰も来ないんだ。二手に分かれるならあと4組くらいはいたはずだ。なら、1組くらいはこっちを通ってもいいはずなのに。うっ!」
真っ暗な所にある程度いると身体が恐怖で金縛りのような状態になってしまい、頭の中には『暗い』がリフレインしていて思考もまともに働かないので打つ手が何もない。
これが俺が一番恐れていたことだった。
元々は、こんな大がかりな仕掛けではなかったはず。
現に役員の大木さんが『予定と違う』って言ってる以上はもっと簡単な物だったのが非公式新聞部の暗躍により、ハードルが2段も3段も上がっていたのだろう。
とうとう、俺はその場に膝をついてしまったのだ。
こうなってしまうと、自力で立つことは不可能だったので誰か来るのを待つしかなく、大木さんが先に行ったのでアキが異常を感じて来るはず。
しかし、待てど来ない。
俺は意識を閉ざそうとしたその時、その声は。
「ハルーー!どこ、どこにいるの返事して!ハルーーーー」
声の主は、夏美だったようで俺は最後の力を振り絞り声を張り上げた。
「悪い、夏美こっちだ!」
俺の声が聞こえたようで大慌てで俺の所に向かってくる。
「ハル!」
膝をついて、情けない姿になっている俺を夏美は大切にするように抱きしめ包んでくれた。
「な、夏美。ごめん……」
「もう大丈夫だから。アキと冬姫も来てくれるから今は休んで」
「そうか……ありがとう……」
俺は、夏美にお礼を言うとそのまま意識が遠くなるのを感じて、そのまま落ちた。
気づいた時には俺は部屋に担ぎ込まれていたらしく、あまりの寝汗で起き上がった。
しかし、起き上がった時に脇に誰かがいることに気づく。
「夏美?」
「すーすー」
「もしかして、ずっと俺の看病をしてくれたのか」
「すーすー。ハル、ずっとそばにいる……から……ね」
「ありがとう、夏美。帰ったらデートしような」
自分から『デートしような』何故そんな言葉が出たのか分からないけどこうやって献身的にしてくれるから、夏美の願いを少しでもかなえてあげたいと思うのだろう。
俺は、服を一式持って部屋から出て先生を探すと意外とすぐ見つかり、向こうも俺を見つけるなり大急ぎで向かってきた。
「犬飼、もう起きて大丈夫なのか?」
「はい、ご心配おかけしましてすいませんでした。あの、寝汗だけ流したいのでシャワー借りてもいいですか?」
「ああ、それくらいなら。寧ろ、早く流してゆっくり休め。それと、個人的事情があるなら先に言うこと、分かったな」
「はい、では失礼します」
※
<夏美side>
ハルが部屋から出て行くとき、正確には起きた時には私は起きていたのだが、気恥ずかしさから寝たふりをしてしまった。
わざと寝言を言って誤魔化してたけど、その後のハルの言葉に私は俯くしかなかった。
「デ、デートって。ハルがデートって言ってくれた。夢じゃないよね?」
私は、軽く自分の頬を引っ張ってみると痛みがあるのでどうやら夢ではないらしいが一つだけ疑問が残っていた。
それは、ハルといるとドキドキすること。
だから『デート』っていう単語が出るだけで恥ずかしくなってしまう。
だけど、これがいわゆる『恋』なのかと言われるとまだ分からない。
今までまともに男友達がいたこともないし、こんなにドキドキする感覚は初めてというか、ハルに対してなのだが、どうしてか不思議な感覚が拭えない。
だから、これが『恋』に値するのか理解が追いつかなかったのだ。
「私、ハルのこと好きなのかな?でも、好きだったしてもハルに振られたらここにはいられないんだよね、きっと」
そう、今一番怖いのは振られるよりも『春夏秋冬』にいられなくなるっていうことが夏美が恐怖していることなので、ハルへの理解できないモヤモヤした気持ちは一旦、胸の奥にしまうことにした。
だが、とある人物の登場と挑発的挑戦によって自分の心の奥にしまっていた物を再燃させることになるとは。この時は思いもしなかった。
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