誕生日(下)②
俺と春夏の誕生日をしてる中で、夏美が変?なことを言うもんだから母さんが夏美を、見事なほどに誑し込んで納得させる形となった。
これはもう収拾がつかないやつになってないか?歩く度に地雷を踏む気分である。誰か、この気持ち分かってくれる人がいて欲しい。その願いは届くことはない。
「あらあら、もう公認もらっちゃっていいな、私達ですらまだもらってないのに。2人は運命の赤い糸で繋がってるのね、羨ましいわ」
「おめでとう。これで晴れて公認のダブルデートが出来るね」
「私も、折角なので夏美と呼ばせてもらうかな?母さんだけ『ちゃん』を抜くのはずるいからね」
俺らは、3者3様+1の言い分にタジタジになっていたが、なんせ味方がいないのだから。
唯一の味方は春夏なんだけど、この様子を見る限り俺の味方をしてくれる気はないらしい。いや、する気が無いのだ。
とりあえず、この場で決定したことが数点あるのだ。
①夏美は春夏が去るまではうちの家族として扱うこと。
②夏美はうちにいる時は家族としているようにすること。
③春夏の首輪の交換はすべて夏美に一存すること。
大きな所はこんな所で他は、夏美が大変なるので追々ということになった。
4人は、後片付けをして俺の部屋に戻った後、下でのやり取りを振り返っていた。
「いやー、おばさんのやることは予想できないわ。まさか夏美をハルの家族にしてしまうとはな」
「あの笑みが出た時は、なにかをやからすって分かっていたが、あそこまでは予想外だった。余程、夏美を気に入ってるんだな」
「あんなド迫力で迫られたら断れないし、でも嬉しかったのもあるの。だって、この子がいなくなるまでは一緒に入れるから」
夏美は、春夏を抱き上げて自分の胸に閉じ込める。春夏もいい顔してるな。別に春夏が羨ましいと思ったわけではない……多分だが。
「でも、もし2人が付き合うことになっても問題ないよね?だって公認だもん。夏美がおばさんのことを『お義母さん』って呼んだ時のおばさんの笑顔が凄かったもん。これで、ハルが夏美を捨てたら超がつく修羅場になりそう」
もし、そうなれば冬姫の言う通りになるのは間違い無く、ついでに勘当されそう。
「俺は、夏美を捨てるようなことは絶対にしない。夏美が幸せになれるまではずっとそばにはいるつもりだ。修羅場ってなんだよ」
「ん?その言い方だと夏美がハル以外の人と付き合うみたいな言い方に聞こえるけど?責任取るんじゃないの?娘を取り合う息子と母の戦争とか」
なんだろう、意味の分からない略奪戦争になってるけど!
「何の責任だよ?俺と夏美はまだ出会ったばかりでまだお互い知らない所もあるし、好意がないのに付き合うなんて失礼でしかない。そんなことしたくないわ」
「はぁ、多少変わってもハルはハルだね。それがハルの良い所でもあり悪い部分でもあるんだけどね。んじゃ、そろそろ渡しますかね?」
渡すもの?誕プレなら嫌って言うほどにもらったんだが?
「ああ、あまり遅くなると帰るのも危ないからな」
「そうだね、ハル誕生日おめでとう。これは私とアキからだよ」
俺は、冬姫から箱状の包みを受け取り、丁寧にラッピングを剥がしていき箱の上部を抜くとそこにあったのは俺がいつかアキに見立ててもらうと思ってた品だった。
「いいのか、こんな高そうな物。2人とは言え結構な出費だろ?」
「お前な、自分の誕生日の時はそんなこと気にするな。時計だってピンからキリまであるし、俺はお前の性格を知らない訳ないだろう?何年付き合ってると思ってるんだよ」
そうだったな、アキがどうしてこうゆうことをしたのか。
理解するのは簡単で要は時計付けていずれはアキに見立ててもらったり、いつか自分の足でそこに迎えるようにする為の物だと。
俺は、アキを憎む日が来ることがあるのだろうか?ないな、寧ろ感謝しかないのだ親友であり、最大の理解者を。
「ありがとう、アキ、冬姫。大事に使わせてもらうよ」
「大事もいいけど、壊れるくらい沢山着けてくれればいいさ。なぁ、冬姫?」
「うん、壊れたらその時はハルが自分で買いに行くだろうからね。ねぇ、折角だから着けてみてよ?ちょっと見てみたいな」
「ああ、もらって着けてる所見せなかったら申し訳ないもんな」
俺は、箱から時計を取り出して腕に着けてみる。それを見たアキは。
「うん、似合ってるね。良かった」
「着けるのが癖になるくらい付けるな」
「よし、俺らのプレゼントは渡せたから俺らは先に帰るな。夏美、頑張れよ」
「夏美、頑張ってね」
「お、おい、お前達ちょっと待て」
「「また明日な」」
2人は、そのまま帰ってしまい、この部屋にいるのは俺と夏美と春夏だけで何故か急に緊張が襲ってきた。しかも、こんな時に限って春夏は静観してるもんだから余計静か。
さっきまで2人でここにいたはずなのに、今となってはまともに夏美の顔が見れないでいた。でも、それは夏美も同じ状況だっだらしい。
だが、夏美は決心したように顔を上げて俺に先ほどと同じくらいの箱状の包みを出して、俺に渡してくれた。まさか、また時計だったりするのかな?
「夏美、空けてもいいか?」
「う、うん。お気に召すか分からないけど」
「夏美が選んでくれたんだから、大丈夫だと信じてる」
これまた丁寧にラッピングされた包みをきれいに解いていき、箱状の物が姿を現す。俺は、箱の上部を引き上げるとそこにあったのは時計ではなかった。
「これは、ネックレス?」
「誕生日プレゼント悩んでて冬姫に聞いたら『アクセサリー持ってないからあげたら』って聞いて。あ、デザインは自分で選んだの」
「ありがとうな、俺の為にこんなにしてくれて。着けてみていいか?」
「うん、着けるところ見たいから。お願いします」
俺は、ネックレスを首に掛ける。ネックレスのデザインは三日月の形をした物だった。
物々しい感じは一切せず、シンプルに主張するような感じでこれならあまり気にせず付けられそうだ。
「これなら、学校でも着けられそうだな。今日は何から何までありがとう。夏美のおかげで最高の誕生日を迎えることが出来たよ」
「私だけじゃないよ、アキ、冬姫がいてくれたから出来たの。それにこうするのは私達がハルを心の底から信頼してるからだよ。ってまだ入って間もない私が言うのは変だけどね」
「そんなことない!」
俺は、思わず夏美を抱きしめてしまった。
自分でも何故そんなことをしたのか分からないけど今は、こうしたかった。
夏美は、急に抱きつかれて突き飛ばされると思ったが、そんなことはなく寧ろ借りてきた猫のようになってしまっていたが、数分間はこの状態だった。
俺は、我に返って夏美からそっと離れた。
「悪い、急に抱きしめたりなんかして。いきなり男に抱きしめられるなんて不快だったよね。本当にごめん」
「わわ、私は、きき、気にしてないから大丈夫だ……よ。う~~。でもハルなら嫌じゃ…ないよ」
夏美は俺の身勝手な行動の所為でしどろもどろで返しているが、段々と声が小さくなっていき、最後の方は聞こえなかった。
俺は、夏美をいつものように家の前まで送っていく。その間はなにを話せばいいか分からずに無言で家の前に着いてしまったのだ。
やっぱり、さっきのことで怒ってるのかな……
「ハル?私、怒ってる訳じゃないからね、ただ何を話したらいいか分からないだけだから誤解しないで、お願い」
「ああ、分かった。実は、俺も同じで会話の糸口が見つからなくてさ。怒ってないないなら良かったよ、それじゃまた明日な」
「うん、また明日」
俺は、帰り道に色々と考えていた。一番は、なんであの時夏美を自分から抱きしめてしまったのか?
夏美のことを好きなのかと言われれば今は違うのかもしれない。けど、ならなんであんなことをしたのかが理解できない。
両親の戯言に乗った訳でもないに。その答えは一向に分からないままだった。
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