誕生日(下)

 アキと冬姫が俺らを呼ぶ声がしたので下へ降りると、食卓にはまさに豪華絢爛を思わせるように俺の好物が並べられていた。


 うわぁ~、おもてなし感全開だな。なんか申し訳ない感じだけど2人が折角俺の為に作ってくれたんだから感謝しないとな。


 母さんも今回はどうやら蚊帳の外になっていたようで、食卓の光景を見るなり驚いていたが、父さんが見たらどうゆう反応するかな。


 案の定、帰ってきた父さんが食卓を覗くと『こりゃすごいな』って驚愕し、母さんはこれだけしてくれたことにお礼をしていた。


「これって、冬姫ちゃんとアキ君で作ったの?すごいじゃない!春彦の好物だらけで。作るの大変だったでしょう?ありがとう」

「夏美に比べたら私達は大したことしてないですよ、今日一番頑張ってるのは夏美ですよ。あれ手作りしてましたからね」

「ちょ、ちょっと冬姫。それはまだ内緒してってお願いしたのに~」


 ん?夏美が一番頑張ったってどうゆうことだ?


 もしかして、俺とアキが部屋にいる間に帰ってきて準備を始めていたのかな?


 それなら辻褄は合うけどなにか違和感があるんだよな~。その違和感は食事の最後まで感じ取ることが出来なかった。


「さぁ、せっかく作ってくれたんだから温かいうちに食べましょうか。今日はうちのことで色々とやってもらいありがとう。ほら、春彦も!」

「分かってるよ、アキ、冬姫、夏美、今日は俺と春夏の為にここまでしてくれて本当にありがとう。今日という日を大切な思い出にしたいと思う」

「「「「「「誕生日おめでとう」」」」」

「ありがとう」

「にゃーにゃ、にゃー」

「ふふ、春夏も喜んでくれているみたいだね。後でお楽しみがあるからに少しだけ待っててね、春夏♪」


 2人?が作った豪華な食事を前に俺らは、ずっと笑いながら食卓を囲んでいた。


 食事会も終わりが近付くと、アキと冬姫と夏美が立ち上がりそれぞれの場所へ向かった。その時、俺はある物がないことに気づいた。そうゆうことか。


 夏美と冬姫は冷蔵庫から大きいケーキと小さいケーキを取り出した。


 アキは照明の電源のところに居て、その意味とは言わずとも分かる。


 冬姫は大きいケーキに17本分のロウソクを立てて火をつけて、小さいケーキには夏美がキャットフードを1粒乗せてあげていた。どうやら準備完了らしい。


 アキが電気を消して、夏美と冬姫が歌い出すとアキも上手くメロディーに乗り歌い終わると。


「「「ハッピーバースデー、ハル、春夏」」」


 パンパンとクラッカーの音が盛大に響いた。


 春夏は小さなケーキにすごい勢いで食べていた。俺は、大きなケーキを改めて見直すと先ほどの違和感の正体が明らかになった。


 冬姫が『夏美が一番頑張ってる』って言った理由も……俺は、夏美に問いかけてみた。


「もしかして、俺と春夏のケーキは夏美が作ってくれたのか?」

「う、うん。ただ、小さいケーキはペットショップでお願いしたの。作ってあげたかったけど、食べて調子悪くなったら怖いから。ハルのはおばさまに聞いて」

「そこまで手を込めてくれてありがとう。とても、凄く嬉しい。夏美の作ったケーキ食べさせてくれるか?」

「うん♪味はその期待しないでね。初めて作ったから……」


 夏美、初めての事を俺なんかにしてくれたのか……俺は、夏美にまだ何もしてあげれていないのに。


「初めて作ってこんなに完璧に出来るもんなのか?冬姫?」

「正直、初心者のレベルじゃないよね?まぁ、お菓子作りの経験値があったから作れたのかな?違う、夏美?」

「さすがだね、色々と試行錯誤はしたけどね。なんとか出来たよ」


 でも、家に戻って食材を入れた時はケーキなんてなかった。ってことは3人は最初からこの日の為に策を練っていたことになる。そんな仕草は一切しなかった。


「今回の件は、夏美と冬姫の案だよ。俺は今日だけ冬姫にお願いされただけだ」


 アキは、しかめ面していた俺にそう告げた。夏美と冬姫は『やったね、夏美』とハイタッチしてやったりの顔だな。


 しかもあの表情はまだサプライズがあるな、絶対に。

 

 だが、いつまでもやられっぱなしも性に合わないので、そろそろいつも通りの俺に戻るとするか。


「色々ありがとうな夏美、冬姫。そういえば、夏美?春夏のプレゼントは?」

「あ、そうだった。春夏、おいで」


 夏美に呼ばれると春夏が『なになに?』って感じで寄ってきた。ポケットから丁寧にラッピングされた袋を開けると、そこに入っていたのはあの時に選んだ物。


「本当はハルがするべきだけど、今回は私が付けるね。新しいのはハルに付けてもらってね。うん、この色選んで正解だったね」

「そうだな。でもな夏美、これからも首輪を変えるのは夏美の役目だからな?俺は俺で春夏に出来ることをやるから」

「私が変えてもいいの?ハルの家族なのに」

「おーい母さん、夏美が変なこと言ってるけどどうする?」

「へ?」


 俺がいきなり母親に問いかけるもんだから、夏美はなにがなんだか分からない顔をしている。この家での自分の存在位置を再確認させてやる。


 俺に呼ばれて母さんがこっちにやってきた。


「なぁ、夏美がうちの家族じゃないって言うんだけどどうする?」

「え?そうなの?春彦、夏美ちゃんになにしたの!」

「何もしてない。話をいきなり脱線させるなよ、それでどうするのよ」

「うーん、どうやら私も他人行儀だったかしらね。ふふ♪」


 うわぁ~、母さんが笑みを浮かべるなんていつぶりだ?夏美、自分の言ったことを存分に後悔してくれ。


「夏美?うちの家族じゃないってどうゆうことかしら?」

「お、おばさま?」

「春夏がうちにいるってことは貴女はうちの家族なんですよ。自分の娘が実家にいるようなものでしょう。母親がうちに帰ってこなくてどうするの?」


 少しだけ、怒気を出しつつも夏美に近づき、優しく夏美を包み込むように抱きしめる。『怒ってごめんね』と表現するかのように。


「この子がこの世を去るまでは夏美はうちの家族だから、首輪を変えるのは母親の仕事です。分かりましたか?」

「は、はい……分かりました、おばさま」

「おばさま?」

「お、お義母さん」

「良く出来ました。まぁ、本当の意味で『お義母さん』で呼んでもらえる日が来ればいいんだけどね?へたれが頑張ればの話だけど」


 これで、一件落着だな。っておい、どさくさに紛れて何問題発言かましてるんだよ。しかも、人をへたれ扱いするんじゃない。俺だって、やるときは......やるよな?


 すると、面白がるようにアキと冬姫、そして父さんが話に紛れ込んできた。

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