采配ミス
昼ごはんをパンケーキ屋でのんびりした時間を過ごし、その後にショッピングモールを2人で歩いていると夏美は、ある場所で足を止めたので俺は、顔を上げると。
「ん、ぬいぐるみ屋か。時間はあるから見たいなら見ようか」
「う、うん、ちょっとだけ見てもいいかな」
「全然、構わないよ。ゆっくりでいいからな」
店内に入ると、色んな動物のぬいぐるみが大小とあり、女の子ならどれも欲しくなりそう感じで仕上がっている。俺は気になるぬいぐるみを見つけたので、その瞬間に夏美にサプライズをすることを思いついた。
夏美は俺が気になっていたぬいぐるみには気づかなかったようで、好都合だったから俺らは一旦店を出てすぐに俺は行動を開始することにした。
「夏美、ちょっとだけ手洗いに行ってくるからここで待っててくれないか?」
「いいけど、近くまで付き合うよ?」
「気遣いだけありがたくもらうよ。すぐ戻るけどナンパには気をつけろよ」
一番懸念しないといけないのはそれだけど、こんな大型のショッピングモールでも馬鹿な事をする奴なんてそうそういないと勝手に思い込んでしまった。
この後に、夏美に怖い目を遭わせてしまうとは思わずに……そして、夏美は俺にこう言う。
「私にナンパなんてないよ。冬姫じゃあるまいし、そんなに魅力ないもん」
「……無自覚。いや、行ってくる。危険と思ったら大声を出せよ」
ほんと、自分に魅力ないなんて無自覚もいい所だ。今日、どれだけ視線を向けられていたと思ってるのかな?自分だって、その視線に気付いてるはずなのに。
今日、一緒にいて分かったが夏美に向けられる羨望の目は凄かった。俺がいるから男は近寄らないがいなくなれば絶対に寄ってくる。そんな無駄な自信だけならあったので俺は用事を済まして戻ることにしたが……
戻った時光景を見た瞬間、自分のやり方を間違ったことに気付く。
「ごめんなさい、人を待ってるのでここから動けないんです」
「そんなのLAMとか入れとけば大丈夫だって。ちょっとだけ付き合ってよ」
「困ります。いい加減にして下さい!」
ほらね、やっぱりこうなるか。どっかのカフェに座らせておいた方が正解だったな。改めて夏美のポテンシャルの高さを実感。そろそろ助けないとな……いや、早く助けないと!
俺は、自分の立ち回りの悪さを嘆きながらも夏美の下に戻って声を掛けた。
「夏美、悪い。ちょっと遅れた。その人は?」
「知らない人。ちょっと付き合ってくれって言われて……」
そう言うと、夏美は俺の腕に抱きつく形を取り、自分の身体を俺に寄せる。
「で?あなたは夏美に何の用ですか?彼女嫌がってますよね?」
俺は、少しだけ怒気を孕んだ言い方をした。夏美を怖がらせない程度に。
その方が相手がどう出るか分かりやすいからだ。まぁ、ナンパで強引なやり方してる人間なんてたかがしれているが。
案の定、ナンパ男が俺に突っかかってきた。予想通り過ぎて自分が怖いって誰でもこれは予想できるか。
「なんだ?いきなり出てきやがってよ。お前こそこの子のなんなんだよ」
「夏美のこの仕草を見ればわかる通り、俺の彼女だが何か文句でもあるんですか?まぁ、美女と野獣だから信用しろって言っても無理だろうけど事実だから諦めてくれ。いくぞ、夏美」
「うん♪もう!遅いよ。あとでお詫びしてもらうからね」
「了解だ、今回は全部俺が悪いから何でも言ってくれ」
そう夏美が言うと、ナンパ男も流石に本当と思ったらしく、苦虫を噛んだ顔をしながら去っていった。
言うだけなら簡単には引かなかったはずが、夏美のある行動で諦めざる得ないのが正しいかな。俺も困惑してるけど今だけは顔には出さない。
ある程度離れても夏美は俺から離れようとしないし、寧ろより密着度が増してあれ見事に当たってしまい、ドキドキが止まらなかった。
「なぁ、もういいんじゃないか?ナンパ男ももういないし」
もうナンパ男もいないので、こうしてる理由はないと思うが……嬉しい反面、理性もやばいので離れてもらいたいのが強いけど、夏美は一切離れる気はない。
「ダメ!怖かったんだから、これくらいはいいでしょ?お詫びとして。ね、お願い」
だよな、夏美に喜んでもらおうと思ったことが仇になるとは思ってなかったので、俺は夏美の言うことに素直に従うことにした。
けどな?最後の一言は余計だ!いい意味でだがな。
「そうだな、夏美を1人にした俺の所為もあるから今日だけだぞ」
「うん、ありがとう♪」
破壊力が高すぎて、どう防御したらいいか分からないのでその顔はやめてくれ。
さっきよりも視線が増えたけど、今日は俺の所為でもある訳だから素直に諦めよう。そして、本当に学校の奴がいないことを祈るしかなかった。
ショッピングモールでの買い物を終えて夏美を家まで送る。家の前まで来ると俺はサプライズを実行する。
「夏美、今日は付き合ってくれてありがとうな。楽しかったよ」
「ううん、私の方こそ楽しかったし。色々回れてよかった」
「で、これ今日一日付き合ってくれたお礼なんだけど受け取ってもらえないか?」
「え?これって」
実は、さっきトイレに行くのは嘘であの店に戻らないといけなかったから夏美を連れて行くわけにはいかなかったのだ。その所為でナンパに遭ってしまったのだが……本末転倒だよなこれ……アキ達に言ったら怒られそう。
『守って』が守られていないので、怒られるのは覚悟しよう……策に溺れた俺の所為だからな。
ペットショップで購入したペットケージの中から、ある動物のぬいぐるみを取り出した。それを夏美に渡した。
「もしかして、これって春夏の代わりってこと?いつの間に買ってたの?」
「実は、ぬいぐるみを見てるときに偶然見つけてさ。夏美も見てなかったからサプライズに丁度いいかなって思って、トイレに行くフリしてぬいぐるみ屋に戻ったんだよ」
「それで、私をあそこに引き留めたのね」
「ああ、だが結果的に夏美に迷惑を掛ける羽目になってしまったけど。本当に悪かった。カフェで待たせればよかったって後悔したよ」
「もういいのに。あのまま強引に来るようだったら大声出すつもりだった。ちゃんとお詫びもしてくれたし。それにこんなサプライズしてくれるんだもん、お釣りが来るくらいだよ。すごく嬉しい♪」
この笑顔が見れれば今日は良かったって思えるのかな。夏美は『また明日』って言って家の中へと帰っていった。
夏美のおかげで今日一日リフレッシュできた気がして明日は、色々と浮かびそうでペン(キーボード)が進みそうだ。
実際、今日は怖いくらいにキーボードが進み自分が考えていた以上の所まで掛けたのはラッキーというか、気持ちに余裕が出来たからかもしれない。
そう考えると、恋人だったり大事な人がいることは案外大事な事なのかもしれないって思えた。でも、それを教えてくれたのは間違いなく……
「これも夏美と春夏のおかげだな。本当にありがとうな」
俺は、一旦デスクから離れて俺のベッドでゆっくりしている春夏を撫でると『にゃ~』と呑気な声が消えてきて、安心感が増した。
「これからも俺や家族、夏美を頼むぞ」
「にゃ?にゃ!」
本当に頭いいな……普通、それを聞いてしっかり座る猫なんて聞いたことないわ。これで、立ち上がって敬礼とかなんかしたら面白いのにと思う自分だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます