誕生日(上)

 春夏の誕生日プレゼントを買いに行ってから1週間と数日が経った日。


 今日は俺と春夏の誕生日であり、そして月1回の食事会の日。


 日曜日で学校が休みなので俺達4人は朝から買い出しに出かけていた。


 前回は学校帰りにスーパーに寄ったため全員が制服姿がだったが、休みの日にわざわざ制服を着る必要もない。


 なので今回は全員私服だったのは一応、校則では出掛ける際は制服と書いてあるが、近場過ぎるので私服にした。


 このご時世に校則を守ってる生徒なんているのかって思うけどな。


 スーパーに向かってる最中は軽いファッションショーみたいな流れになっていた。


「夏美が羨ましい。なんでそんなにワンピースが似合うの」

「それは私だって一緒だよ。スキニーが凄く似合ってて羨ましい」

「でも、女の子からしたらワンピースやスカート似合う方がいいもん……」


 2人の服装は対照的ではあるものの、お互いの個性がちゃんと出ているので気にする必要はないと思うが、女子はそうではないのであろう。


 すると、夏美が笑顔で冬姫にこう告げる。


「今度、2人で冬姫に似合うワンピースとスカート探しに行こう♪その代わり、私にも似合うスキニー探してね」

「ありがとう、夏美♪うん、夏美なら似合うのは絶対にあるから」


 外から見る限りは目の保養になるからいいんだが、これが近くにいると視線が刺さるという不思議な感覚に晒されるんだよな。


 俺からすれば似合えば全然問題ないって思えてしまうのは、きっと俺自身がファッションにまるで興味が無いからだろう。


 一応、外に出ても恥ずかしくない格好にはしているが。するとアキが。


「ハルは本当にシンプルでまとめてるよね?無理してないって言うか」


 俺の服装は、至って普通……白のTシャツに水色のジャケットにジーパンという変哲もない服装なのだ。


「ファッションに興味が無いから、イケメンと歩いても多少問題ないようには努力してるつもりだ。アキみたいに上手くまとめれないからな」

「『シンプルイズベスト』って言葉がハルに為にある感じだよね」

「それって褒めてるのか?」

「十分褒めてるよ。今の格好でもイケメンの部類に入るって思ってるし、言うなら腕時計やちょっとしたアクセサリーがあったらいいとは思うけどね」


 俺のスタイルは基本的にはアキの言う通りシンプルな感じにできればいいと思っている。無理に自分を着飾っても何の意味もないし、見せる相手もいないのにする理由がなかった。ちなみに今もない。


 少しだけ、時計だったりアクセサリーは欲しいと思っていたがどれが似合うのか分からずにいた。アキに頼るのもありだが先ほども言ったが見せる必要がなかったので頼ることがなかったのだ。


 だが、先週の夏美とのショッピングモールを散策してて気づいた。


 あの時の俺は夏美と釣り合う格好ではなかった。ちゃんとした格好でナンパ男に近寄ればすぐに去ってくれたかもって思えたのだ。


 夏美に好意を持っているわけではなく、この先もお願いすることになるのは多分、夏美になる気がしたので、せめて夏美が不快にならない程度になろうと思っただけだが。


「なら、今度みんなでショッピングモールを散策してハルに似合う物でも探す?」

「そうだな、見立ててもらうのは必要かもしれないな」

「やっぱり、夏美が入ってくれて正解だったな」

「まぁ、1人はいれば色々と変わる部分もあるしな。その意味では夏美の加入は素直に嬉しいよ」

「はぁ、そうゆう意味じゃないないんだけど。まぁ、ハルらしい言い方だな……」


 俺の言い分にアキは、呆れたような顔をしていた。何故にそんな顔をする?普通に返したはずなのに。


 イケメンの思考は普通の人には理解できません……


「まぁ、近々お願いするかもしれないからその時は頼むわ」

「ああ、任せておけ」


 男同士の話をしていると、夏美達から声が掛かったので夏美達の下へ向かった。いつの間にか2人と離れいたらしく、声を掛けてくれたようだ。


「もう、2人でずっと話してるんだもん。置いて行こうかって言ってたんだよ」

「悪い悪い、ハルが心境の変化に聞き入っちゃってさ」

「ほぉ、それは聞き捨てならぬ事案ですな。後で追及が必要かと。お代官よ」

「ほっほ、おぬしも悪よのう」


 いや、そこで時代劇風の会話をされても困るし、しっかり悪代官してるしな。意外と似合ってるのは言わない方が身のためだな。


 俺を弄ってなにが面白いんだか……


「あの2人を見てると羨ましいって思えちゃうね」

「夏美は、この学校でいいなって思ったりする奴はいないのか?夏美なら引く手あまただろう?」

「さすがに転校して間もないからそんな人はいないし。それに……」


 声が小さくなるのを感じて、もしやと思ったけど念のために普通に聞くことにした。


「ん?どうした?」

「な、何でもない。今はただ羨ましいだけで欲しい訳じゃないから」

「そうか、変なこと聞いて悪かった」


 まぁ、夏美の容姿なら引く手あまたなのは間違いない。


 それだけ夏美は可愛いと思える。夏美に彼氏が出来るようなら心から祝福をしてあげたい、その相手をここに入れるかは別だが。


 正直なこと言うと俺は『春夏秋冬』のグループに4人以上入れるつもりはない。


 そのことで、夏美がこのグループから抜けるなら仕方のないことだと思ってる。無理に入れても不協和音しか生み出さないから。


 俺が難しい顔をしていたのか、夏美がなにか言いにくそうに口がモゴモゴしていた。その仕草に一瞬見惚れてしまった。


「ね、ねぇ、ハル。今日のメニューを冬姫と考えたんだけどどうかな?誕生日だし、こんな感じにしてみたいって思うんだけど」

「なんか、俺の好物ばっかりだな。そんなに気を遣わなくも食事会のついでで良かったのに」

「そうもいかないよ。ハルと春夏の誕生日はちゃんと祝いたいもん。私にとって大切な人達の誕生日なんだから」

「そう思ってくれるのは嬉しいよ。ありがとう」


 視線がやけに感じるので、横目で見ると2人を筆頭に周りがにやにやした顔をしたいのだ。


 あー、これはここではやっちゃいけないやつだわ。


 俺は心の中で『何してるんだ俺は』と叫んでいた。現実は空を見上げていた……


 なんだかんだで買い物を終えると、夏美が俺にお願いをしてきた。


「ごめん、ちょっと買い忘れた物があるから先に戻ってもらってもいいかな?」

「それはいいけど、時間掛からないのなら待ってるけど?」

「丁度売り切れで別な所で買ってくるから、出来れば家で待っててくれると助かるかな」

「分かったよ、なにかあったらすぐ連絡くれ。行くぞ、アキ、冬姫」

「ねぇ、アキ?ごめん、私個人的に買い忘れたのがあるから戻ってもいい?」

「相変わらずだな、いいよ。俺とハルで家で待ってるから」


 こうして、俺とアキで一旦家で待機することになったのだ。

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