猫ちゃんの名前
凛姉と夏美は、俺と俺の足元で寝ている猫ちゃんをよそに命名合戦が繰り広げられていた。
一体、この合戦はいつ終わるのかなって思いながら、俺と猫ちゃんは見ていると、俺はふと2人が書いた名前に気になる名前があった。
気になったというかその名前に惹かれるように俺の口が開く。
「春夏」
2人は、俺が偶然?言った名前に振り返った。
「ハル、どうしたの?」
「ハル君、どうしたのいきなり?」
「いや、2人の書いた名前を見たらいつ間にか口に出してた」
2人は、書いた紙を見たが春彦が言った名前は載っていない。
なら何故、春彦はその名前を出したのかと思っていたら夏美が『あ!』って叫んだ。
「美春・夏樹」
「ハル君、もしかしてこれ見て口に出したんじゃないの?」
「絶対にそうとは言えないけどそんな気もする」
「春夏ね。良い名前じゃないかしら?見つけて保護した2人の名前があって私は賛成だと思うけど」
凛姉はふと笑みをこぼして俺らにそう告げる。
俺と夏美はお互いを見て無意識に頷いていた。
「そうだな、いつまでも名前がないのもいい加減可哀想だしな。一応確認だけど夏美の『夏』もらってもいいかな?」
「うん、私のでよければ。ハル君もいいの『春』もらっても」
「いいよ。よし、それじゃ今日から名前は『春夏(はるか)』な。よろしくな」
「にゃーにゃー」
こればかりは喜んでいるのか講義してるのか頭を傾げていると、凛姉は俺に『大丈夫、しっぽが立っているのは嬉しい証拠だから』と言ってくれたので、母さんの所へ行き決めた名前を伝えに下へ降りて行った。
俺の部屋で2人と一匹になった状態で、春夏はいつの間にか夏美に懐いていた。
春彦が部屋を出た途端に夏美の横でリラックスしたように伸びていた。
「ふふ、ここはこの子にとってとても安心できる場所なのね。こんなに伸びちゃって。うちの子に会いたくなってきちゃった」
「浅海会長も猫ちゃん飼ってらっしゃるんですよね?何を飼ってるんですか?」
「うちの子はロシアンブルーよ。男の子だから『ハルト』にしたの。っていうか出来たら『浅海会長』はやめてもらいたいのだけど」
「すいません、それ以外でどう呼んだらいいか分からなくて」
凛子は『全く』って顔して夏美に優しい笑みでこう告げる。
「私たちがこうやって春夏を共有して一緒にいるのに余所余所しいことをするものじゃないの。だから、これからは私のこと名前で呼びなさい。分かった?」
「は、はい。分かりました、り、凛子先輩」
夏美は、凛子の名前をおどおどしながらも呼ぶと凛子は『よろしくね』と手を差し出す。夏美もそれにはすんなりと受け入れて握手する形になった。
だが、それは一瞬の出来事で今後の戦を告げる握手でもあった。
それは、春彦は下にいたのでそんなことが起きていることは知る由もなく、その戦を知ったのも後のことで戦の理由も知るのは当面先のことであった。
いや、気づいたら終戦していたようなもので当人はまるで、他の地へ赴いていた兵士のような感じがした。
握手が終わると凛子が立ち上がり『ハルトに会いたくなったから帰るわね』と言ってドアへ向かうとドアが開いて春彦がいた。
「あれ、凛姉帰るの?お茶用意したのに」
「春夏見てたらハルトに会いたくて。だから帰るわ。用意してくれたのにごめんね」
「ハルトって彼氏か?」
「な訳ないでしょ!うちの子の名前よ」
「一応、確認なんだが………その名前の由来ってまさか?」
「ええ、ハルがそばにいてくれないからハルの名前の一部頂戴したわ」
猫を飼っていたことにも衝撃が走ったが、まさか飼い猫に自分の名前が一部が使用されているなんて思いもしないわ。
っていうかこれじゃ四六時中俺といないといけないみたいになってるじゃんよ。
はぁ〜いつになったら弟離れが出来るのだろうか……お願いだから彼氏が出来るまでに弟離れしてね。っていうかして!
コントみたいなことをして俺は凛姉を玄関まで見送る。
凛姉は母さんに律義に挨拶して母さんも『また来てね』とも言ってたが、ぼっちが好きな訳じゃないから別に来るのは構わないけど。
悠姉に迷惑が掛からなければいいけどな。怒られるのは俺なんだから。
「2人きりになったからって変な事したら承知しないからね」
「しねぇよ、ただでさえ今日で色々と面倒なことになってるのにこれ以上は悩みの種を増やす気はない」
「そうね。春夏も猫ちゃんって分からないと、2人の子供みたいだものね」
「それ!学校で言わないでよ。凛姉の発言力は核爆弾レベルなんだからね」
正直、とても安心できる事案じゃなかった。不安しか存在してない。
怖いのがまず凛姉が悠姉になんて伝えるかによるし、場合によっては呼び出し案件まで発展しかねないのだ。
今回だけは下手をしないでもらいたかったのだがそれは叶わぬこととなる。
俺と夏美にとっては辛い1週間になったのは言うまでもない。
俺は凛姉を無事?見送って自分の部屋に戻ると夏美が俺のベットにもたれかかって寝てしまっていた。そりゃ、ここずっと色々聞かれてたら疲れるよな。
お疲れ様。俺は、大きな音を立てないように机に座りプロットの作成をした。
春夏は夏美のそばに寄り添って一緒に寝ていた。
俺は、この光景に見るや一瞬頭痛に襲われる。一瞬なので気にする必要はないのだが、ここ最近は光景や言動が発端でしばしば頭痛が発生していた。
自分でも原因が全く分からない。別に病院に行かないといけないことでもないので放置を決めた。
「こんな所、アキや冬姫に見られたらなんて言われるか」
正直な所、凛姉は今になっては2人になってもドキドキと言う感覚はないが俺が中学生の時は凛姉に近づく度にドキドキが止まらなかった。
ただ、それが初恋かって言われるとなんか違う気がした。そう、もっと以前に凛姉より大事な人に会ってる気がするのだがそれが全く思い出せない。
普通?なら初恋の人は忘れないと思うけど俺はどうしても思い出すことが出来なかった。
まるで、何かに蓋をされているようなそんな感じである。
「なんで思い出せないんだろうな。大事な事のはずなのに……」
寝ている夏美を再度見る。本当に可愛い………じゃない!いや、可愛いのは事実なんだが。
母さんも言っていたが、何故か俺も初めて会った気がしないのだ。
それは、春夏と一緒に出会った時からそうだった。俺は基本的に知らない人やめんどくさいって分かると声を掛けることはない。
誰でもそうだろうけど。
でも、あの時は自分から声を掛けていた。
きっと、見えない何かで惹かれた?夏美が先ほど口走った『運命の糸』なのだろうか?でも、こんな美少女なら一度でも会っていればすぐに分かるほどだ。
そんな根拠のない仮説を立てていると、ベットから夏美が起きる声がしたので、俺は優しく声を掛けた。
「結構疲れてたみたいだな、大丈夫か?」
「あれ、私…もしかして寝ちゃってた?ごめん、迷惑じゃなかった?」
「ああ、春夏も一緒に寝てたのを見て目の保養になったよ」
「め、目の保養って。ハル君のエッチ!」
今のは俺が完全に分が悪かった。それは、夏美の寝てた姿勢に問題があったからだ。その状態で俺の言葉は非難されても返すことが出来ない。
「違う、違う。目の保養って言うのは、夏美と春夏が寝ている光景が微笑ましくて目の保養って言っただけだ」
「そ、そうなんだ。ごめんね、酷いこと言って………」
「いや、俺も言い方が悪かったからお互い様だな。良い時間だから送るよ」
「いやいや、悪いよ。そもそも寝ちゃった私が悪いんだし」
押し問答をしていると母さんの声が聞こえた。
「春彦?夏美ちゃんまだいるの?」
「ああ、転校して色々聞かれてみたいで疲れてさっきまで寝てたよ」
「あんた、夏美ちゃんに変なことしないでしょうね?」
「今日、ディスられ過ぎじゃないか。してないよ」
母さんがボソッと『ヘタレ』と意味の分からないことを言ってる。ヘタレ=変なことじゃないのか?俺に一体どうしろと?
「で、夏美ちゃんはもう帰るのかしら?」
「今、丁度聞くところで帰るなら送っていこうかと」
「あら、送り狼になるのかしら。あ、でも向こうにもご両親がいるから無理か残念だったわね。でも、子供ならもういるものね~」
「おい、それは言っちゃダメな奴だからな。父さんに言ってないだろうな?」
「あ、言っちゃった」
なにお茶目心全開で言ってくれてんだ。お願いだから被害はこの家の中だけにしてくれ頼む。
そんな苦悶な表情してる俺に母さんは何もなかったように問いかける。
「夏美ちゃんにもしよかったらご飯食べていかないか聞いてくれる?」
「何故に!?」
「別に他意はないわよ。凛子ちゃんの分まで用意したけど帰っちゃったからせめて夏美ちゃんだけでもって思って」
「分かった、ちょっと聞いてくる」
再び自分の部屋に戻ると、夏美が春夏と呑気にじゃれていたのを一瞬見惚れていたが、すぐに意識を元に戻して夏美に問いかけた。
「あのさ、母さんが夏美の為に夕飯を準備してくれたらしいんだけど食べてく?」
「え?いいの。家族の団欒の邪魔にならない?」
「今日に限っては俺が邪魔者に近い扱いされてるから大丈夫。逆に聞くけど食べて帰っちゃっても大丈夫なのか?夏美のお母さん、ご飯作って待ってるんじゃないの?」
俺の言葉に夏美は少しだけ寂しい表情をした。
「実は、両親は共働きで帰ってくるのが結構遅いの。だから、食事は基本的には私が担当なんだ。それ以外がお母さんがやってくれるよ」
待てよ?ってことはここ最近は1人で食べているってことになるのか。学校と家事をこなしていれば疲れるのは当たり前のこと。
しかも、今週に至っては質問攻めだったもんな。
「なら、今日はせっかくだから食べていきなよ」
「うん、今日はごちそうになります」
「にゃーーー」
お前は、うちの家族だろうよ。鳴かなくてもちゃんとご飯あげるから。
2人と1匹が下へ降りると、食卓にはうちの両親が大人しく座っていて父さんが夏美に向かって頭を下げて、夏美もそれに倣うように頭を下げ共に自己紹介をした。
「いやー、春彦にこんな可愛い子が遊びに来るなんて世も末だな」
「なんで、両親揃って息子ディスる必要性がある?でも、夏美がここにいるのは春夏のおかげだな。ありがとうな、春夏」
「にゃ?」
頭を傾げるな。頭を……ほんとに頭いいなこいつ。
その後、俺らは楽しい団欒を過ごしてい…た?
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