第37話 ロイヤル・クラウン

マストの上から骸骨がいこつを下ろしたのは翌朝になってからだった。

真っ暗な中では気持ち悪いし、夜風に当てればあのドロドロの体液も乾くだろう。

くじで負けた船員がマストを登り、必死の思いで骸骨を下ろした。

そしてあらためてマストの根本に骸骨をすわらせた。


ずっとクラーケンの体内にあったにも関わらず、骨には欠けたところがなかった。

そして額の王冠も輝きを失ってはいなかった。

「これは略式の冠だと思う」

ゲネオスが言った。

「略式?」

「そう。旅行や出征しゅっせい中に着ける王冠。普通の王冠だと移動中邪魔だから」


ゲネオスは王冠に手を掛けてそれを骸骨の頭から抜き取った。

略式とゲネオスが称するだけあって、それほど厚みのあるものではない。

しかし金でできたベースの部分は極めて精巧な細工が施され、小粒だが色も良く傷のない宝石が、ごく僅かではあったものの金の冠にめ込まれていた。

「この紋章もんしょう、どこかで見たような……」

ゲネオスがつぶやいた。

オレも王冠の意匠いしょうを見てみたが、変わったデザインだなと思っただけで、その形に特に心当たりはなかった。


そのとき骸骨の右手が動いた。

それはゆっくりな動きであったが、右手を前に持ち上げ、人差し指の骨だけ残して折り畳むと、丁度どこかを指さしているような形になった。

その方向は、登ったばかりの太陽に対して、やや右側だった。

「船長、この方向には何があるんですか?」

ゲネオスが尋ねた。

「この船の目的地を指さしているのようだが、少しずれているような気がする。あの方向だともう少し内陸、、、そう、砂漠の方だな」

「砂漠……」


ゲネオスが骸骨に振り返った。

「陛下は砂漠の方から来られたのですか?」

ゲネオスは骸骨を王として扱った。骸骨は頷いたように見えたが、それは頭蓋骨が前方に落ちていく動きの一部だった。

既に骸骨は風化ふうかを始めており、頭蓋骨だけでなくそれ以外の骨も崩れ始めた。

崩れた骨はやがて亀裂が入り、粉々になって風に吹き飛ばされていった。

「その王冠はゲネオスが預かっておけよ」

オレはゲネオスに言った。

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