第38話 凪

船乗りたちが言うには、既に全行程の半分は過ぎているということである。

だが今日は船長たちの様子がおかしかった。

「風がない」

何かあったのかというオレの質問に船長は苦々しげに吐き捨てた。

マストに張った帆はどれもだらりと垂れ下がっている。

こんな状況が丸一日近く続いていた。


船長と船員とが何やらゴニョゴニョと話している。

やがて船室の奥から一人の男が連れてこられた。

船の上には似つかわしくない黒ずくめの服をまとっている。

色としてはマスキロとかぶるが、デザインはパマーダの法衣のようにも見える。

「まじない師かしら?」

とパマーダが言った。


船長はしばらくその男と話していたが、やがて男たちが鎖でがんじがらめにしていた舵輪だりんに集まり、鎖をほどき始めた。

舵輪が動くようになると、パマーダにまじない師と評された男がホイールの前に立ち、ぶつぶつと呪文のような言葉を唱え始めた。

それが終わると、その男は舵輪の真ん中にあるボタンをポチッと押した。

ガタン!

船全体に響き渡る大きな音がした。


しばらくすると、船腹の小窓を閉ざしていた木の板が外され、そこから幾多のオールが海面に向かって突き出された。

船を乗るときに見た小窓はオールを出すための穴だったんだ!

オールはすぐに規則正しく動き始め、オールを漕ぐごとに、船はゆっくりと、しかし確実に進み始めた。

船の下にまだ漕ぎ手がいたのか……

しかし真夜中に聞こえてきた声のことを思い出し、オレはゾッとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る