第30話 東洋の包丁

戦いが終わって、ゲネオスが近付いてきた。

「パマーダ、また治して」

見ると左腕がスパッと半分くらい切られていた。

パマーダは慌てて回復呪文を唱えた。

「どうしたの! 早く言ってよ!」

「相手に止めを刺す直前にやられたんだ」


腕がつながったのを確認してから、ゲネオスは「これにやられた」と、敵が使っていた武器を差し出した。

それは包丁だった。

武器の用意が無かったレッサー・デーモン・インビジブルは、手近にあった料理道具を手に取って攻撃してきたようだ。

しかしその包丁は、刃の形が普段オレ達が使っている包丁と少し違っていた。

刃の太さのバランスや、刃の描くカーブの角度がどこか見慣れない感じがしたのだ。

「コシネロなら分かるかも」

コシネロを起こし、しばらく落ち着かせてから訊いてみた。

「これは東洋の包丁だと思います。刃が非常に鋭い」

と、コシネロが教えてくれた。

「え? これでケガをされたんですか?」

ゲネオスが大怪我をしたことを聞いて、コシネロは驚いた声をあげた。

「確かに東洋の刀は首をねることもできるほどの切れ味だと聞いたことがあります」


そのとき気絶した婦人たちの中から司会が立ち上がった。

司会は逃げずにこの場に踏みとどまっていたらしい。

コシネロの鍋の側まで歩いて行き、中のカレーをひとすくい味わった。

そして誰も見ていないのにしっかりとめを作ってからこう言った。

「優勝はコシネロさんです!」

会場からまばらな拍手が起こった。

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