第13話 月島 澄の過去 その1
月島 澄の両親は彼女を捨てた。
「あんたがあのしょーもない女と不倫してるなら離婚よ!」
「しょーもないって何だよ、少なくともお前よりはマシだと思うけど?」
「だったらさっさと別れましょう!」
「わかった……ごめんよ澄、これからお母さんと暮らしてくれ」
「はぁ?何言ってんの?あんたの血が入った子供なんてまっぴらごめんよ!」
「ほらな、そういう所がダメなんだよ」
「不倫する様な男にぐちぐち言われたくないわよ!」
澄の両親は離婚する際どちらも親権を放棄した。
そのため、彼女の引き取り先としてこの孤児院を選択する事になった。
その孤児院は引き取り手の無くなった子供達の最後の砦としてされており、ここに預けられた子供達の数は増え続ける事はなく、無事に新しい親に迎え入れられるという優良な孤児院だった。
そんな孤児院に預けられた彼女はきっと幸せな日々が続くと信じていた。
だが、それは違った。
「あらあら、可愛い子をこんな所に捨てるなんてろくな親じゃないねぇ……」
「お婆ちゃん……だれ?」
「あんたはかわいそうな子だよ……」
澄の存在に気がついたのは孤児院のお婆と呼ばれている米澤という老婆だ。
米澤は澄の手を引き中へと招き入れるが、孤児院のドアを閉めたその時、柔らかな顔は一瞬で鬼の様な形相に変化した。
哀れみの表情から一変したその顔はどこか嬉しそうにしている。
そして米澤は澄の健康状態を一通りチェックした後、未選別と書かれた部屋の中へと入れた。
孤児院の中での生活は至って普通の生活だった。
ご飯はきちんと栄養管理されたものが出るし、寝るところも一人一人別々のベッドの上で寝る事も出来る。
しかし、そんな日常もすぐに壊れてしまう。
澄が孤児院に拾われてから1週間が経った日、ある人物がこの場所に訪れた。
「お婆、新鮮な子供達は入ったか?」
「えぇ、ちょうど1週間前に1人……」
「そうか……どうだ、使い物になりそうか?」
「それが頭も悪けりゃ体も弱いハズレですよ」
「しょうがない。その部屋に入れておけ」
こう指示したのは鴉御家当主の光助。
彼はこの孤児院を所有しているが、実はこの孤児院は裏で児童売買を行っている。
表向きでは莫大な土地を所有する鴉御財閥だが、財産の8割は児童売買で得た資金だった。
「お婆よ、近々大物との取引があるんだが必ずや成功させたい」
「と、申しますと……」
「確か……お婆はこの村の出だったな?」
「はい、左様でございます」
「どうやらこの村には何でも願いが叶う儀式……があると聞いたが?」
「えぇ、それは大変効果が強い儀式ではございますが何分生贄を必要としまして……」
「生贄ならいるじゃないか?その部屋に……」
光助は大口の取引を成功させるために、ある儀式を執り行おうとした。
そしてその生贄に選ばれたのは、澄だった。
彼女はドア越しにこの話を聞き、心臓がバクバクと打ち鳴らす音を感じた。
「儀式は3日後だ、それまでに準備をしておけ」
「……わかりました、光助様」
澄に残された時間はあと3日。
しかし、この孤児院は簡単には抜け出せない……
奴隷の様な雑用に、監視カメラで縛られる日々。とてもじゃないが抜け出す隙は無い。
そして、新たに入れられた部屋ではご飯もまともに出ずひたすら雑用をさせられる日々を送った。
無情にも時が流れ、あっという間に儀式当日。
この儀式、最後に行われたのは50年以上も昔……そのため準備に幾分時間がかかってしまった。
「おい!まだ準備は出来ないのか!?」
「少々お待ちください光助様……」
次第にイライラが増す光助のせいで、謎の緊張感が全員に伝わる。
澄はその時、見張り1人を付けられ裏で待機していた。
50年ぶりのその儀式……
村の者たちも皆、手探りで準備を進める。
そこに一瞬の光が差した……
何かの手違いか、それとも罠か。
澄の監視につく予定の人間がやって来なかった。
澄は葛藤した。
このままなら逃げられる。だが、罠であればただで済むはずはない……
しかし、どうせ死ぬならこの千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
澄は村を抜け、裏にある山に駆け込んだ。走れども走れども追いかけてくるかもしれない人に怯えながら山を抜ける。
山を抜けた先には小さな家があり、その周りには大きな畑。
そして一番最初に目についたのは、農作業をしていた1人のおじいさん。
澄は必死になって泣きついた。
おじいさんは突然山から逃げてきた少女に驚き戸惑う。
「お嬢ちゃんどうしたんだい」
「おじいさん!私を!私を助けて!!」
澄の底知れぬ恐怖や不安を感じとったおじいさんは、とりあえず家の中へと招き入れる。
椅子に座らせて一杯の水を飲ませる。一呼吸ついたところで、おじいさんは澄に話を聞いた。
「何があったのかおじさんに話してくれる?」
「実は山の向こうの村の孤児院で…………」
澄は自分に起こった出来事をありのままに話す。
孤児院では雑用ばかりさせられていた事、謎の儀式によって自分が殺されそうになった事、そしてそれを指示してた人がいた事。
幼い子供ながらに分かっていた事を全て話した、
おじいさんは驚き、澄の事を強く抱きしめた。
「かわいそうになぁ、こんな子供が……もう大丈夫だ」
その日の夜、澄は温かいご飯を食べ誰にも邪魔されずに1人で眠る事が出来た……
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