心の幸
佐江木 糸歌(さえぎ いとか)
第一部~迎雪送華の夜に~
プロローグ
迎雪の静夜
……本当の「幸せ」
それは、何なのだろうか。
もしくは、どうあることを言うのだろうか……。
いや、それ以前に、そんなもの存在するんだろうか。
最近ずっと、そんなことを考えてばかりいる。
「はあ~っ、寒いなあ」
そう言って俺は、小降りになった雪が舞い降りてくる暗い空を見上げた。
まったく、本当にやめてほしい。
昨日の天気予報で今週は気温が上がり、晴天に恵まれると言っていたのに、急な大寒波のおかげで昼から猛吹雪。
夜十時を回ったいま、雪は小降りになったが街は完全に白銀の世界となっている。
時おり寒風も吹き荒れ、寒さが苦手な俺にしてみれば、いい迷惑でしかない。
――俺の名は
ここ
家族は父、母、そして兄と妹というごく普通の家庭。
友人もそこそこいるし、これといった大きなけがや病気もしたこともなく、今日まで特に不自由なく生きてきた普通の人間だ。
だからこそ分からない。「幸せ」とはいったい何だろうか。
そりゃあもちろん、言葉ではどうとでも言い表せるし、理想なんていくらでも夢見ることができる。
でも、最近思っているのはそんなんじゃない。
なんてことを考えながら、俺は東西に伸びる街道を家に向かって歩いていた。
猛吹雪の後ということもあり、人通りはおろか、車もごくたまにしか通らない静かな道。
ぽつぽつと点在する街灯や自販機が、どことなく寂しい雰囲気を
「しっかし……周りの山も、広がる田畑も、地蔵までこうも真っ白。そのうえ星も綺麗となれば幻想的ではあるか」
と、思わず率直な感想が出るくらいには、綺麗な銀世界だ。
「それにしても寒過ぎるだろ~。おまけに雲一つないからまた冷えるんだろうな。とっとと帰ろ」
俺はもう一度空を見上げ、自分に呟いて足を少し早く動かす。
――五分ほど歩いて家も近づいたとき、俺は思わず足を止めた。
「な、なんだ!?」
最初は、状況の理解に苦しんだ。
なにしろ、この季節のこの時間帯に、着物姿で夜道を歩く人を、俺は今まで見たことがないもので……。
それも金髪の美人ではないか。
しかし何より俺には、その人がいま「とても幸せそう」に見えたので、寒さも忘れて思わずその人に見入ってしまう。
「あ……」
「ふふ、こんばんわ」
相手も俺に気づいたらしく、何とも言えない笑顔であいさつすると、軽く会釈して側をゆっくりと通り過ぎていった。
「だ、誰なんだ、あの綺麗な人は……」
俺は、その姿が雪景色に消えていくまでその場に立ち尽くした。
このとき、なぜ着物の美人が幸せそうに見えたのか分かるはずもなく、首を何度も捻りながら家路を急ぐ俺。
そして、吹雪の止んだ穏やかな静夜に起こった偶然の出会いは、すべての始まりとなる……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます