バビルの月

有笛亭

第1話 プロローグ

 西暦二千五百年。

 人類は生存していた。が、地上での生活は困難を極めていた。オゾン層が破壊され、有害な紫外線が地上に降り注ぎ、それを受けた人間は、目や皮膚に支障をきたした。ゴーグルつきの防護服がなければ、とても暮らせない状態となっていた。


 人間だけではなく動物や植物も同じ憂き目にあっていた。が、人類は偉大である。紫外線や放射能、加えてウイルスから身を守るために、超巨大なビルを建設したのだ。

 大いなる年月を要したが、たった一つの建物で、その国の民をすべて収容した。そして、地上にあるものは、ほとんどビルの中に再現した。


 無いのは海と山だけ。もちろん鯨などの大きな生き物は無理で、すべての生き物を収容することは不可能だが、丘、湖、川があり、魚釣りやゴルフもできた。


 やがて、国という概念がなくなった。それは外国との接触がなかったからだ。外国を旅行することもなく、貿易というシステムもない。一つの巨大なビルの中で、すべてが完了した。


 一歩もビルの外に出ることもなく、人々は世代を繰り返した。

 ビルの中にはすべてのものがあった。だから、誰もビルの外に本物の世界があることに気づかなかった。

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