46《君が好きです》

 大体拭き終えると、僕はセリカの方に歩み寄った。やはり、さっきと変わらぬまま。昨日も今日も、明日も変わらないことが容易に想像できる。静かに安らかに眠っていた。


「……セリカ」


  最初と同じように問うが返事は無い。手を伸ばしそっと頬に触れた。真っ白な頬はどんなに気をつけて触れても壊れてしまいそうだった。微かに感じた温かみだけが救いだった。


「セリカ。お願いだ、起きてくれないか」


 虚しく響く僕の声。だが僕にできることはそれしかない。お互い声が交わせないとしても話しかけることしか。


「……セリカ、何でずっと寝てるんだよ。一緒に焼き芋食べた仲だろ?一緒に勉強した仲だろ?」


 雪が降り始めていた。

あの時のような、細かな雪。だが、あの時のような感動は何もなった。ただただくすんでいた。見る人によって、ここまで違うのかと驚く程だった。


「………ばっかじゃないの」


 沈黙に耐えかねたようにセリナが吐き捨てた。僕は彼女に微笑む。「うん、僕はばかだ」……その言葉にセリナが黙り込む。


「何で黙ってるんだよ、何で黙って行っちゃったんだよ。お礼を言うのは僕のほうだろ。あれは何だよ、言い逃げだろ。ずるいだろ」


 セリカの手を僕の手でそっと包んだ。華奢としか言いようのない指。少しでも力を入れると簡単に折れてしまいそうだった。


「……君に言いたいことがあるんだ。あの時、僕を止めてくれてありがとう。死ななくて良かった。いっぱい酷いこと言ってごめん。話を聞いてくれてありがとう。僕と一緒に過ごしてくれてありがとう」


そして、僕が1番伝えたかった言葉。





「君が好きです」






 涙がぽとりと僕らの繋いだ手に落ちた。涙は冷えた心には強過ぎる程温かかった。


 相変わらず暖房器がぶーんという音を立てていた。外では雪が音も無くしんしんと降り積もっていた。

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