第15話 容疑者がいっぱい
同時に、最寄り駅の防犯カメラなどをチェックして、同行者がいなかったかなども調べる。
「行田は8時半に会社を出て、9時頃に駅前の牛丼チェーン店に1人で入り、牛丼並を食べています。その後店を出て駅に行き、自宅方面行きの普通電車に乗っています」
公園は、自宅近くの駅までの途中にある。
「電車を降りた時、連れはいたのか?」
係長が訊くが、それはまだ確認できていなかった。
「行田の勤めていた会社は中規模の衣料品会社で、行田は営業部に所属。成績は良かったようで、上司の評判はいい半面、同僚や後輩は、裏表があるとか横柄とか、あまりいい評判はありませんでした」
勤務先を担当した礼人が報告する。
「それと会社ですが、毎日残業、休日出勤は当たり前、成績が悪い社員は他の社員の前で罵倒されるなど、ブラック企業というやつですね。皆口を濁していましたが、その中で行田は、上手く後輩に仕事を押し付けて立ちまわっていたようです。現在行田が教育係としてついている後輩社員の川崎 保は、行田が死んだと聞いて、ホッとした顔を浮かべました」
それに、皆は色めき立つ。
「アリバイは」
「仕事が終わらずに事務所に泊ったという事ですが、10時半には事務所に1人になっており、アリバイはありません。
それと、その前に教育係として行田が付いていた後輩がいたんですが、一昨年の今頃、自殺したそうです」
「その自殺した後輩は福永友康というそうですが、かなり露骨に虐めていたようですよ」
一緒に回っていた晴真が付け加える。
「そっちの方も気になるな。遺族とか」
容疑者2人に、皆が色めき立つ。
「川崎と、福永の遺族を重点的に当たろう」
「はい」
礼人達はそう返事をした。そのどちらかが犯人だろう、それほど難航もしないだろうと、誰もがそう予想していた。
礼人は晴真と、福永の遺族を調べていた。
父親は高校の社会科教師で、大柄で厳格な男だ。母親は専業主婦で、大人しい。弟は福永より3つ年下で、昨年の春に労働基準監督署に就職していた。ここに就職したのは明らかに兄の自殺が原因で、本人もそう公言しており、ブラックな雇用実態を激しく憎んでいると同僚達は言った。
3人共犯行時刻と思われる頃は家で寝ていたと言うが、同じ家族でもあり、アリバイとは言い難い。
「怪しいですよねえ。父親は54歳ですけど、山登りを趣味にしているだけあって体はしっかりしているし。弟も中学から大学までラグビーで鍛えていただけあって、力は強いし」
晴真が言う。
「まあな。アリバイもないし、動機もある。
とは言え、証拠はないな」
礼人もそう応える。
「幅3センチ程の帯状の物って何でしょうねえ?」
「ネクタイとか?スカーフを折りたたんだものかもしれないしな」
「令状を取れませんよねえ」
「これじゃあ、まだ弱いな」
言いながら、犯行の様子を想像していた。
かがんだ被害者の背中に片足を付け、首に巻いた凶器を両手で引っ張る。被害者はもがくだろう。
「女でもいけるかな」
「ううん。やっぱり男なんじゃないですか?」
「でも、かがみこむ姿勢次第では、上から体重を乗せるようにして抑え込めばいいんだしな。行けそうだぞ」
晴真もちょっと想像し、頷いた。
「まあ、そうですね。じゃあ、母親も完全なシロってわけにもいかないですね」
「後、他にも被害者を恨む同僚や元同僚もいるかもな」
「うへえ。範囲を広げないといけないかも?かなり出そうですよ、動機のある人」
「まあ、スジを読むのは係長だけどな」
言いながら、誰が犯人でも、気が重いと思った。
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