第84話 愛の告白

(律視点)


 高校生活最大級のイベント、紅葉祭。


 そのオオトリであるイベントの主役を飾る二人。

 何度もたくさんの言葉を交わしたはずなのに、どこか遠い。


 俺は最後列で、輝くステージの上を見る。


「ミスコン決勝! ここでは誰が一番可愛いんだッ! っていうのを決めちゃいたいと思います! 野郎ども、盛り上がってるかぁぁぁぁぁ‼」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」」」


 有名アーティストのライブ並に盛り上がる野外ステージ。

 凄まじい熱に、汗がじんわりと滲む。


「決勝戦は至ってシンプル! 観客い向けて愛の告白をしてもらい、会場が盛り上がった方が優勝だぁッ!」


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼」」」


 これ以上に盛り上がることはあるのだろうか。

 もうすでに熱狂具合が限界突破しているようにも思えるが……確かにシンプルだ。


 愛の告白という言葉に少し反応する二人。

 だが決意が固まっているのか、表情を変えない。


「では早速いってしまいましょう! まず最初は……白幡さんだッ!」


 スポットライトが白幡さんのみ当たる。

 沸き立つ会場。


 白幡さんはマイクを両手で握って、息を吸う。


 加恋に負けたくないと、そう言っていた白幡さん。

 今は俺と恋愛について研究を重ねている、恋愛について全く知らない天使のような美少女。



 ――あの白幡さんが、愛の告白をする。



 ごくりと唾を飲みこんで、耳を傾けた。

 観客の全神経は、白幡さんの言葉に、注目していた。




   ***




(白幡さん視点)


 愛の告白。

 それも紅葉さんと競い合う形で。


 なんて残酷なんだろうと、最初は思った。

 だけど私はすぐに「ちょうどいい」思った。


 だってきっと私は、競い合うことすらできなかっただろうから。

 

 ある意味私は運がいいのかもしれない。

 これからモヤモヤを抱えながら神之木さんと会うこともなくなるだろうし、一区切りつけられる。


 昔の私なら、間違いなくこのステージの上には立てなかった。


 でも私が最近初めて知った『コイ』というものは、まるで魔法みたいなもので。


 未来が分かっていてもなお、気持ちが膨らむばかりで。

 私はこの場所に、足を踏み込んだ。


 こんなに苦しいものなんだって、思いもしなかった。

 

 

 ――じゃあ好きにならなければよかった?



 ……それは違う。


 この気持ちに、後悔なんて一つもないから。

 むしろ私は抱き枕のように大切に、一つ残らず抱きかかえたい。

 

 だってだって――この世で一番、大切なものだから。


 私はお客さんなどそっちのけで、ただ一人だけにこの言葉を言う。

 この世でただ一人だけに、私の大切なものを届けたいから。


 

 ――ねぇ、聞いて?



 私はすべての感情と思い出と、温もりを詰めれるだけ詰め込んで――







「好きです、大好きです」






 

 ステージが揺れるほど、歓声が響き渡る。


 だけど私にはどれも空っぽに聞こえて、私はただ一人だけを見つめていた。




 ――届いてますか?




 きっと、届いてるよね。




   ***




(上星視点)


 白幡さんの愛の告白に、俺も自分の気持ちを叫びそうになった。

 いや、たぶん喉元まで出かかっていたと思う。


 だけど俺は気づいてしまったんだ。




 白幡さんの気持ちが、どこに向いているのかを。




 ほんとに好きだから、今の言葉が誰に向けられているのか分かる。

 俺は普段鈍感なくせして……全く、恋ってのは本当に残酷だ。


 まさかこんな身近にいたとは。


 そいつはあっけに取られたように口を開いている。

 たぶん気づいたんだろう。


 だって完全に白幡さん、あいつのこと見てるし。

 逆にこれで気づかない方がおかしい。


 周りの歓声が、喧騒が遠のいでいく。 

 

 俺はポケットの中に入っていた紅葉の葉を握りつぶした。

 胸が張り裂けそうなほど、苦しかった。





   ***




(加恋視点)


 私は気づいてしまった。


 白幡さんが今、誰に向けて言葉を送ったのか。


 本当に恋してる人なら分かる。

 白幡さんの言葉に、嘘はないってことを。

 

 そして――同じ人に恋をしているなら、送り先も分かる。


 白幡さんが穏やかな笑みを浮かべながら、律のことを見ている。

 同性から見ても、白幡さんは美しい。

 まさに男の理想って感じで、正直勝てる気がしない。


 ……だけど。


 私は決して逃げない。


 もうたくさん逃げたから。すれ違ったから。

 思いを重ねたから。思いに泣かされたから。


 今度は私にスポットライトが当たる。

 私は一歩前に出て、律のことだけを見る。


 律は拳を強く握って、私のことを見ていた。

 

 律は何かを堪えるとき、越えようとするとき拳を握る癖がある。

 きっとこの世界中でそのことを知ってるのは、私だけ。


 もっともっと、誰も知らないようなことを私は知っている。

 だからこの世で一番律のことを知っているのは、私。


 そしてこの世で一番律のことを想っているのも――私。


 私は律だけを見る。

 距離は遠くて、その間にたくさんの人がいるけど。


 私は律だけを真っすぐに見た。


 心が通い合っているのを感じる。

 

 笑うのは苦手だけど、今日は昔を思い出して心の底から笑って。


 積もりに積もったこの思いを、言葉にして。


 遠く離れた距離を『ゼロ』にして。


 律が積み上げた『一万回』を濃縮して。



 恋の色に染まった思いを、撫でるように――



 









「ずっとずっと、好きだから」








 

 


 

 

 昔も、今も、これからも。


 ずっとずっと、好きだよ、律。


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