第46話 久しぶりの小悪魔後輩
風呂上り。
部屋に入って「あちいなぁ……」と言いながらコップ一杯の水をぐびっと飲み干す。
夏になるとなぜだか「暑い」って言っちゃうよな。完全に無意識で。俺、誰に言ってんだ。
一人むなしく脳内で独り言をつぶやいていたら、ベッドに放り投げておいたスマホが音を鳴らして振動し始めた。
手に取ってみると、画面には『らら』という表示がある。
今あいつ帰省中だよなぁ……なんてことを思いながら電話に出ると、すぐに怒号が飛んできた。
『先輩出るのおっそいですよ! まぁ、私から突然電話がかかってきて動揺しちゃって、ドキドキしちゃったのはわかりますけどー』
「……なわけあるか」
久しぶりにこうして言葉を交わせば、ららのテンションがいかに高かったのかということが身にしみてわかる。
慣れって怖いわ。
「んで、急にどうしたんだよ」
『いやー先輩が、そろそろ私が恋しくなる頃合いかなと思いまして』
「それは読者な」
『読者?』
「いや、こっちの話だ。んで、ほんとに用はないのか? ないなら切るぞー」
まぁ別に電話をわざわざ切るほど忙しいわけでもないし、用事もないけど。
ただこう言うことによってららの反応を楽しみたかったっていうだけ……あれ? 加恋のドSうつってない?
『ちょ先輩ごめんなさい用事ありますから! ほんと、どうか切らないでくださいー!』
案の定、予想通りのららの反応。
見えないが、電話の前で懇願するららの姿が想像できた。あれ、なんか面白いぞ。
律、新境地開拓。
「切らないから切らないから。んで、どしたのさ」
『ありがとうございます……まぁ本題の前に、ちょっとこれ見てくださいよ~』
「どれさ」
『今から送るのでちょっと待っててくださいよ。もー先輩は欲しがりだなぁ』
この夏でウザさがマシマシになってません?
ただ元気そうで何よりだなという、何んとも保護者的な目線から繰り出される感想を脳内で呟き、ららとのトーク画面をチェック。
するとそこには、ららの水着写真が貼られていた。
『約束通り、悩殺水着写真ですよー』
「なっ……」
ここは男としてはっきり言おう。
半端なく、可愛いです。
ららの水着は至ってシンプル。
天真爛漫さを表す、涼やかな水色に麦わら帽子のみ。しかしそれが逆にららのスタイルのいい体に視線を向かせ、健康的な白い肌がこんにちわしている。
さらに普段はあまり視線を向けていなかったので気づいていなかったのだが、そこそこあるなこれは……。
さすが陸上部といえるほどに引き締まった体。
確かにこれは自分でも言っていいほどに、悩殺水着写真だ。
普通にチェキにしたら売れそう。
『先輩恥ずかしかったのに頑張って撮ったんですから、感想くださいよ~』
「……う、うぅ……」
こういうのはほんとに困る。
だって冗談でも似合ってないとは言えないし、ぼかすこともできない。
これは正真正銘に可愛い。それ以外に俺が言えることは一つもなかった。
なら、ここは言うしかないのか……。
俺は決意を固めて、全男性を代表して正当な評価を告げる。
「とても……可愛いと、お、思います……」
とぎれとぎれに、恥ずかしがって行ってしまったから余計にマジ感が出てしまった。
しかしマジなので、ここは我慢しよう……。
『……あ、ありがとうごさいましゅ……』
「……噛みやがったこいつ」
『ちょ! そこいい雰囲気なのにそれぶち壊さない! というかそこは普通指摘しないところ!』
「すんません」
全く謝罪する気はない。
何せこの発言によってマジ雰囲気は跡形もなく消え去ったから。
俺に真面目な雰囲気は似合わない。終始このノリでいた方が、結局疲れない。
ただ正当な評価だけは告げられた。そこは全男性から評価されてもいいと思う。
自画自賛することによって体力回復。便利な回復能力だ。
『ま、まぁ保存するくらいなら許しますが、ほかの人には渡しちゃダメですからね』
「あいよ」
『先輩だけの……特別ですからね?』
「あいよ」
『なぜ二回とも同じ反応⁈ 先輩が淡白すぎるよー』
「あいあい」
内心はどきりと来てしまっているので、それをただ必死に隠しているだけなのだ。
ほんと、この小悪魔後輩は恐ろしい。
『ぶぅー! まぁいいです。とりあえず本題に入るんですが、傷心デート、夏休み最終日でもいいですか?』
「最終日?」
『はい。実はその日しか予定が合わなくて……』
「そうか。なら仕方がないな。もちろん俺は予定ないからいいぞ」
『ほんとですか⁈ ありがとうございます! じゃあその日でお願いします』
「おう」
『じゃあおやすみなさい』
「おやすみー」
そこでプツンと通話が切れた。
傷心デートの日程は、こうして夏休み最終日に決まったのだった。
***
「ふはぁー」
先輩との通話を終えた私は、そのまま布団に倒れこんだ。
先輩と話すことなんて数えきれないほどあったのに、今回は妙に疲れてしまった。
ああして強がっていたとはいえ、私とて乙女。ただの女子高校生だ。
そりゃ、好きな人に自分の水着写真を送るのだって恥ずかしいし、おまけに「可愛い」だなんて言われちゃったし……。
「んもぉー‼ 先輩ったらー!」
枕を抱いてじたばたする。
「おっといけない。この家妙に響くからな」
この家には私のほかにも親戚が来ている。
親戚に恋する乙女の姿を見られようものなら、恥ずかしくて死んでしまう。
クールビューティーよらら。
そう自分に言い聞かせて、落ち着く。
これでようやく先輩とのデートの日が決まった。
それは同時にこの思いを伝える日でもあって……やはりドキドキするものだ。
夏休み最終日。
「よしっ。頑張るぞ!」
私は再び決意を固めて、決戦の日を待つことにした。
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