第44話 懐かしのゲームで勝負

「で、急にどうしたんだよ」


 リビングのソファーでキンキンに冷えたお茶を優雅に飲んでいる幼馴染に、そう尋ねる。

 

 俺の家に上がることは最近では珍しいため、俺の家を訪れる理由の見当がつかない。

 優雅に涼んでるし、急用であることはないだろうけど、なんか怖い。


 最近加恋が考えていることよりいっそうわからないし。


「いや、その……げ、げーむ……」


「ゲーム?」


 現実でデスゲームでもぶちかましたいんですかね。

 だとしたら間違いなく序盤に死ぬ雑魚キャラは俺。そして大体身内に殺されてる。

 

「そ、そうよ。昔よくしたじゃない?」


「まぁ確かにそうだけど……急に?」


「わ、悪い⁈」


「いえいえ別に……」


「じゃあ早く起動しよ!」


「お、おう……」


 さっき昔のわりかし温厚だった幼馴染を思い出していたからか、今と昔の姿が重なる。

 なんだか声にとげがなくて、柔らかい。

 

 表情も攻撃的じゃなし、なんというか……女の子らしい。


「な、何じっと見てるのよ」


「ひっ……見てません!」


「そ、そう……」


 なんでちょっと悲しそうなんだよ。


 でも、久しぶりにこうして加恋とゲームをするのが少し楽しみな自分がいる。

 雨の日は必ずと言っていいほど俺の家でゲームをしていた。


 童心に帰るか……。


「はいコントローラー」


「おう、ありがと」


「いつものカーレースゲームでいいわよね?」


「お前それ苦手じゃなかった?」


「に、苦手じゃない! 練習してたから大丈夫よ」


「練習ねぇ……」


「目、つぶすよ?」


 す、凄い剣幕だ……。


 とりあえず秘儀の平謝りを複数回発動させ、場を鎮静化。

 やはり変わったといっても完全に変わってはいないようで、昔と今の加恋が両方健在。


 身のため世のためを考えれば昔の加恋でいてほしいが、今の加恋も嫌いじゃない。

 というか、幼馴染なのでどうなろうとも嫌いにはならない。


 何俺は諦めた幼馴染の愛語ってんだか。

 

 コントローラーを取って、ゲーム機の電源を入れる。


 任〇堂の二世代前の家庭用ゲーム機なのだが、画像は荒いと感じるがプレイできないわけではなかった。

 むしろ懐かしくてなんだかわくわくする。


「わぁー懐かしい……」


「だな。たまにはこういうのもありだけど……どういう風の吹き回しだよ」


「お、幼馴染の家に理由がなきゃ来ちゃいけないの?」


「まぁ普通理由あるよな」


「なくていいのよ!」


「は、はい」


 加恋と言葉を交わせば、結構な確率で俺がはいと言って終わる。

 なんて発言力があるやつなんだ。将来は弁護士か政治家にでもなった方が良い。


「よしっ。やるからには、絶対に負けないからね?」


「ふっ……望むところだぜ」


 視線がぶつかり合う。


 久しぶりのこの感じ。


 やはり加恋と過ごすこの時間は心地いい。

 それはたとえ恋人という関係ではなく、ただの幼馴染という関係でも変わらない。

 

 やっぱりこれでよかったんだよな。


 俺はただ、加恋と仲良くしたいだけなのかもな。


 その結論に至って、俺はもう一度自分に活を入れる。


「絶対負けねぇ」


「望むところよ! どうする? 負けた方が……そうね、この暑い中アイスパシられるってのはどう?」


「ははーん? そんなに自信があるんだな?」


「ま、まぁね!」


 胸を張って強がる加恋。


「おーけーおーけー。その勝負、乗ってやるよ」


「アイスはハー〇ンダッツかなぁ?」


「なんで勝つ前提なんだよ! というか欲張りすぎだろ。ガリ〇リ君にしとけ」


「私が勝つからいいのよ。何それとも律は自信がないわけ?」


「あ、あるとも‼」


 安い挑発に乗ってしまっているということはわかっているが、これは俺から乗ってあげた。つまり安い挑発に乗るほどやわな奴ではない! (ちょっと乗ったから自己防衛)


「では、勝負!」


「望むところよ!」


 俺たちのアイスをかけた勝負が始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る