第34話 律の夏休み
「ほんとなんだったんだ?」
疑問を呟きながら、ベッドに倒れる。
扇風機の風が時折当たって、ひんやりして気持ちいい。
結局、俺の夏休みは割とスケジュールが埋まった。
今日俺のスケジュールは真っ白だ、なんて自虐的なボケをしなくてもよかったよマジで。なんだかんだ、過去最高に夏休みの予定があるかもしれない。
ただ、もちろん楽しみだ。
俺の夏休みは一日中部屋にこもってゲームかアニメか映画のサイクルで過ごすのが日常だったのだが、どうやらそんな夏休みは今年には少なく、高校バンザイといった感じだ。
ただ、どの予定も学校随一の美少女たちとの予定で、どこかソワソワもする。
「俺についにモテ期でも来たのか?」
いや、さすがにそれは自意識過剰すぎるか。
でも俺は男であるため、もしあいつらが俺のことを好きだったら、みたいなことも考えてしまうわけで……でも、きっと現実はそんなに甘くない。
そんなことを妄想すること自体、あいつらに失礼な気がする。
でも、加恋が俺と水着を買いに行きたいというなんて、結構衝撃的だ。
それにあの会話にツンがなかった。俺ついにサンドバッグ卒業かな?
ほんと、あの変わりようは尋常じゃない。
少しドキッとしてしまう瞬間もあった。
あいつ、確かに「やったぁ」って言ったよな……。
あの無邪気な加恋は昔の純粋無垢な加恋を彷彿させる。昔はあんな風に感情を表に出して、俺と素直にハイタッチとかしてたんだけどなぁ。
まぁそれは昔のこと。過去のことを思っても意味がないのだ。
「それに、俺はもう加恋のことを諦めるって決めてるからなぁ」
そうだ。諦めるって加恋に宣言もしているのだから、もう一度叶わぬ恋をしたところで加恋に迷惑をかけるだけ。
まだ新しい出会いが転がってきてはいないけど、いずれ来るその時まで気長に待っているか。
……もしかしたら、もうその出会いは身近にあったりして……。
「いやいやどうした俺‼ 恋したくなってついに狂ったか⁈ 落ち着け俺。ちゃんと状況を冷静に見極めて、勘違いをしないようにしないと……」
とち狂って「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」といろんな女子に対して思う勘違い野郎だけにはならないようにしないと。というか、なっちゃダメだ。
まぁこの夏休みは純粋に楽しもう。
別に恋がない夏休みだって、十分に実りあるものとなるはずだ。
そんなことを思っていると、またスマホが振動した。
スマホを手に取ってみてみると、ららからメールが届いていた。
『先輩すみませーん。どうやら私明日から帰省するみたいでー、傷心デートは別の日にしてもらってもいいですか? ほんと、すみません!』
『全然いいよ』
『ほんとすみません。先輩は寂しいと思うんですけどー私の写真で我慢してくださいね? 悩殺水着写真、送っておきますからぁ~有料ですけど~』
『金とんのかよ‼ 別にいらねーよ。その写真ある意味爆弾だよ』
『爆弾ってひどいですよ先輩! 家宝の間違いじゃないですか?』
『家宝と爆弾をどう間違えるんだよ……』
『まぁそういうことなので、また詳しい日程はメールしますねー』
『了解』
そう送信して、スマホの電源を切る。
悩殺水着写真……ほんと、とんでもないな。
えっ? 実際は欲しいんじゃないかって?
……黙秘権を行使します。
「そういえば……」
ある要件を思い出して、スマホを取る。
そして知り合いのリストから翔を選択して、メールを送る。
『イケメンで最高に可愛い彼女がいるお前に協力してほしいことがあるんだけど……』
送ってから割とすぐに返信が来た。
『お前ようやく俺のことを理解したんだな。で、そんなにお世辞を言って俺に何をしろと?』
『話が早くて助かるわ。いや夏休み色々と出かける予定ができたから、服を選んでほしいんだよ』
そう。俺はファッションセンスがない。
普段は家からあまり出ないのでスウェットとパーカー。または加恋と同じように中学校の頃のジャージ。
外出するときの服は、正直ぱっとするものがない。
そのため、俺の知る限り一番おしゃれである翔大先生に、お力添えいただきたいなと思った次第だ。
あいつスペックも高くてバスケ部のエースで、それでいて可愛い彼女もいておしゃれとか刺されてもおかしくねぇな……。
『しょうがないなぁ。お前がイケメンになれるようにしてやる』
『助かるわ~。いつならいける?』
『明日ならいけるぞ』
『おっけい。じゃあ明日、十時に駅前集合で』
『ラジャー』
やはり持つべきは、イケメンの友だちだよな‼
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