第18話消えた携帯
東南物産に到着した伊藤と一平は、山口課長に面会をした。
「先程の前任者の課長さんは、病気か何かで亡く成られたのでしょうか?」
「前任の籠谷は大阪支店の総務次長に栄転で、昨年の四月に着任されたのですが、桂木常務が亡く成られる一週間前に、自宅で睡眠薬自殺されたと聞きました」
「十月の二十日前後ですね、自殺ですか?」
「桂木常務のプライベートの携帯と言われましたので、小塚に先程確かめましたが知らないと言い、自分は見た事が無いと話しました」
「そうですか?判りませんか?」
「お役に立ちませんでした」そう言ってお辞儀をして見送った。
外に出た伊藤が「今の課長さん何か言いたい感じでしたね」と話した。
「伊藤もその様な気がしたのか?俺もその様な気がしたのだが、それが何の話しなのか?会社に不利益な事なら話し難いだろう」
「そうですね、でも美優さんが言った携帯は在る気がしますね」
一平は直ぐに佐山刑事に連絡をして、前任の秘書課長が自殺した経緯を調べて下さいと頼んだ。
佐山が大阪府警に尋ねると、自殺には違い無いのだが、使った薬が随分古い成分の薬で、最近では販売されていない物だと資料が送られてきた。
十月の初めから、社内で落ち着かない様子が社員によって目撃されて、何か悩んでいる様だったとの証言が有る。
中年の女性が初夏に二度程マンションに訪れたのを、管理人が目撃していたのと、若い男と自宅マンションの近くで会っているのも目撃されている。
府警では若い男に振られたショックで発作的に、自殺をしたのではと結論して事件にはしなかった様だ。
一平に美優が、(野々村)にはプライベートの携帯を使って連絡しているかも知れないと連絡をして来た。
今夜は銀座の和風クラブ夕月に行く予定にしている一平と伊藤、小寺と白石に交代して貰い(野々村)に向かう二人。
夕月ではそれ程の成果が考えられないので、携帯探しに命運を賭けた。
「先日の、今夜はまだ何かお聞きに成りたい事が有りますか?」
先日の板前が愛想良く迎え入れた。
ビールを注文して、簡単な酒の肴を適当に見繕う。
「実は桂木常務さんがプライベートで携帯を持たれていたと思うのですが、番号をご存じ無いでしょうか?」
「ああ、桂木さんの個人的な携帯ですか?知っていましたよ、でも昔の物で最近の番号は知りませんね」
「それはどう言う事ですか?」
「携帯を落としたと困っていらっしゃいましたからね、その後も持たれていた様ですが、番号は聞いていません」
「普通は落としても、以前の番号にするのでは?」
「普通はその様ですが、悪用されたら困るので、総て新しくしたと聞きましたよ」
「その古い番号は判りますか?」
「少し待って下さい」そう言って奥に消えると、小さなメモを持って来て「これですよ!でも桂木さん古い通話記録は総て、消す様に指示したと言われていました」
「相当、困る事が有ったのですね」
「通話記録を消す様な事出来るのでしょうかね」
「判らないぞ、大手商社の実力者だから、何をするか考えられない事でも出来るかも?」
二人はしばらく飲んで、番号を手掛かりに品川近辺の風俗店に向かった。
すると二軒目で「この番号は加山さんだね、東京上野の五十歳、最近は使ってないね!昔はよく使ってくれたのだけれどな」その様に答えて、馴染みの子を尋ねると「もう誰も居ないな、刑事さんこのおっさん何か有ったのですか?」
「死んだよ!」
「えーー殺し?だよねーだから捜しているのだよね!でも内の店は関係無いよ」
いきなり二軒目で見つかったので、次の店を求めて向かう二人。
次の店でも先程の店と全く同じで、数年間は全く来ていないとの答えだった。
「二軒とも同じだな、最近は全くこの辺りに来ていないのか?」
「そうなったら風俗関係には、用事は無いのかも知れないな」
そう言いながら二人は次々と店に飛込んで行く。
「これで十五軒行ったが、約半数の店に登録が有ったな、本当に好き者なのか?」
「仕事に使っている可能性も有りますね」
「接待か?本番行為は禁止だろう?接待に成るのか?」
「ですから、本番が出来る女性をスカウトする為に数多く行っていたのでは無いでしょうか?」
「それも考えられるな、でも殆どの店が数年前から利用が無いぞ」
「次はこの辺りでは大きい(品川ゴールド)って店ですよ!ここはチェーン店で多くの店を持っているそうですから、系列店に桂木常務が出入りしていたら直ぐに判る様です」
「先程の店で聞いた情報だな」
事務所に入ると、次々と掛かる電話の応対を数人の男が手早く裁いている。
二人が刑事だと知って「当店は本番行為を行なっていませんよ!」そう言って店長と名乗る男が出て来た。
「そう云う事で来た訳では無い、この番号の客の事を知りたい」とメモを差し出す。
店長桜塚は目の前のパソコンを叩いて「ああ、加山さんだね!上野の叔父さん!最近は全くご無沙汰だな!昔はよく使ってくれたお得意さんだった」
全く同じ事を言うので「系列店での利用は無いかね」と尋ねるとパソコンを見て「無いな!この加山さんどうしたのですか?」
「殺された!」その言葉に事務所内の男達の声が一瞬止った。
「加山さん殺されたのか?それなら利用出来ないよな!」
「馴染みの子はいたの?」
再びパソコンを叩いて「昔は数人居た様だけど四年前かな、はっきりしないけれど、その年の年末を最後に来てないね、勿論系列店にも来た形跡が無いよ」
「ここが一番新しいですね」伊藤が小声で一平に言った。
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